- 講評
- 阿蘇くまもと空港から遠くに阿蘇⼭を眺めながらしばらく歩くと、⽩く⽔平を基調とした凛々しい外観の新しい東海⼤学のキャンパスが姿を現す。2016 年の熊本地震で被災した農学部を移転し、講義・実習・研究がひとつになった総合的農学教育研究の場「CREATIVE-ONE Village」として再建する計画である。キャンパスは空港近くの南に向かって緩やかに下る傾斜地にあり、のどかな⽥園⾵景の中に都市的な建築が埋め込まれたような印象である。
キャンパスは敷地の中央道路を主軸として3つのエリアにゾーニングされている。中央道路の東側に講義・研究を中⼼としたコミュニケーションエリア、⻄側に飼育エリアと農学エリアが配置されている。キャンパスの中⼼的施設は2号館で、キャンパス広場を中⼼に1階は図書館、⾷堂等の共⽤施設、2階は実験室や⼤教室、3階は研究室というフロア構成。南北の4mの⾼低差が活かされていて内部も外部も⾃然に上下階の移動ができる断⾯計画である。メインの⼊り⼝近くにある図書館はBDSシステムが無いオープンで先進的な図書館で、傾斜に合わせて内部の床が段状に連続しており、天井⾼が変わる空間で好きな場所を選んで読書をすることができる。吹き抜けには実験諸室の廊下につながるブリッジが貫通するなど、静かで落ち着いていながら⼈の動きを感じられる空間である。ラーニングスクエアは広場とつながる開放的なアクティブラーニングスペースである。⼤教室は460⼈を収容可能で様々なイベントで利⽤される。
構造的な特徴として階段やトイレ周辺にコアブレースを配置することで外周部分に⽔平地震⼒を負担させないために柱は極⼒細く設計されており、デザイン上の特徴であるピロティ部分が軽やかに浮遊したように感じられ、意匠と構造のデザインが⾼い次元で融合している。
建物の内外を歩き回るとのびやかな空間が連続し、広場、テラス、アルコーブなどの様々な居場所が配置されている。分節された空間から⼼地よい⾵が抜け、研究の合間に⾃分の好きな場所で息抜きをしたり、学年や学部を超えた偶発的な出会いが期待できるような空間構成である。南側の正⾨前には芝⽣広場に⾯してイベントなどの際に利⽤が可能な⾷品加⼯棟があり、CLTを⽤いたハイブリッドな梁の屋根がかけられている。1枚の部材から無駄なく構造の部材を作り出し、屋根下に露出させた⾻組みになっている。これが連続するとあばら⾻のような印象で、校舎のデザインとは全く異なるデザインで⾒る⼈によって好みが分かれそうであるが、オリジナリティとインパクトがあることは間違いなくキャンパスの⽞関部分に堂々と存在している。
研究室や実験フロアの内部にはガラス間仕切りが多⽤されていて現代的な印象がある。ガラス間仕切りは効果的に⽤いられており、研究成果の展⽰や、講義を受けたり実験をする学⽣の活動が廊下からよく⾒え、屋外もキャンパス広場を中⼼に⾒通しが良く、内部から外部までが⼀体感あふれたキャンパスとなっている。
プランとしてはよくある卍型構成であるが、敷地の⾼低差を取り⼊れ建物全体の回遊性を作り出す巧みな空間構成となっていて、随所に空間的な変化を持たせるなど建築的な魅⼒が⽣み出されている。キャンパス全体を計画するプロジェクトという視点から、敷地の中央道路の左右の景観的な親和性を作れていたらさらに良いキャンパス景観が形成されていたと考えられるが、農学部のイメージを変えるような2号館のデザインは、単に表層的なものではなく、ここで過ごす学⽣たちのキャンパスライフを豊かにするものと感じられた。審査会でエンジニアが建築空間を説明するなど、担当者間の連携の⾼さが感じられたプレゼンも好印象であった。デザインと技術が融合した総合設計⼒の⾼さが評価される技術奨励賞にふさわしい作品といえる。
- 受賞者コメント
- 東海大学農学部は、講義・実習・研究がひとつのキャンパスで行われることが大きな特徴です。計画にあたっては、農学、動物科学、食品科学の3学科の多様な活動を自然と見ることができ、繋がっていくようなキャンパスを目指しました。のびやかなキャンパス内には学科にとらわれない学生間のつながりが生まれるように多くの学生の居場所を配置しています。学生たちが、日々広いキャンパスを歩き回り、使いこなすことで、農学部のつながりがより進化していくことを期待しています。