富士屋ホテル耐震改修

神奈川県足柄下郡箱根町 2020年

唯一無二を未来に紡ぐ

富士屋ホテルは、箱根・宮ノ下の地に明治11年(1878年)創業の140年を超える歴史のクラシックホテルである。明治、大正、昭和の個性豊かな建築群が歴史的積層として、ひとつのホテルを構成する稀有な存在であり、本館、食堂棟、西洋館、花御殿は、国の登録有形文化財に指定されている。2013年の耐震改修促進法の改正による耐震診断とその公表の義務化によって、耐震改修工事の実施が決定された。唯一無二の歴史を後世に引き継ぎながら、新たな価値を提供する「FUJIYA」の実現を目指した。それは、文化財的価値の確実な継承と共に、ホスピタリティの高いサービスの提供によって、リビング・ヘリテージ(生きた遺産)として、クラシックホテルとしての営みを続けることである。
■ 厨房・カスケードルームの建替えへの方針転換
文化財的価値の確実な継承のために、文化財の保存と安全性の確保の両立、ホスピタリティの高いサービス提供のために、機能性・快適性の向上が必要とされた。近代化産業遺産の厨房とカスケードルーム(宴会場)は、耐震補強と機能改善の両立が困難なことから、日本閣(事務所)と共に、解体・建替えの方針に変更された。
■ 大規模宿泊施設として初めての法適用除外指定
文化財の本館・食堂棟に、既存遡及をさせず、新築のカスケード・ウイング(厨房、事務所、カスケードルーム)を内部で接続することが求められた。大規模宿泊施設としては、全国でも初めての試みである建築基準法第3条第1項3号の法適用除外指定によって実現した。
■ 文化財的価値の保存:基準時の設定
保存活用計画の策定によって、保護の方針を定めた。ホテル全体としては、明治24年の本館竣工から昭和11年の花御殿竣工の頃までに、戦前期の全容が整い、一つのホテル建築群として有機的に成立した。この時期を歴史的文化財的価値のもっとも高い「基準時」と設定して、改修・復元の計画を行なった。
■ 耐震改修:意匠の保存を優先した耐震補強
文化財的価値の保存に配慮し、「意匠の保存」を最優先し、基本的に、補強部材を床、壁、天井の内部に配置し、露出させない計画とした。意匠を変更せざる得ない部分も空間の雰囲気を維持し、調和する計画とした。
■ 防災改修:内装の保存と避難安全性の両立
本館・食堂棟は、法適用除外指定を受け、耐火建築物の要求に対し、床・壁・天井内に防火被覆を設置し、準耐火建築物相当に改修し、スプリンクラー、ドレンチャー、炎感知器等の代替措置を行ない、全館避難安全検証法により木製の内装の保存と避難安全性の両立を実現した。
■ 機能性・快適性の向上
1.本館ロビー廻りの復元:オーシャンビューパーラー、フロントレセプションの復元
昭和50年代に改変された本館のロビー廻りを、昭和11年の花御殿竣工の頃の基準時とした時代の姿に復元し、本来の快適な空間を蘇らせた。
2.バリアフリー対策:本館へのエレベーターの増築
玄関のある本館地下1階とフロントのある1階をつなぐエレベーターと本館1階と客室のある2階をつなぐエレベーターの増築を法適用除外指定によって実現した。
3.客室一部再構成と水廻りの全面改修:客室の快適性向上
本館や西洋館の小規模な客室は、2室を一体利用したスイートルームに改修、花御殿の最上階の小客室4室もスイートルームに改修。フォレスト・ウイングでは、露天風呂のある新しいスイートルームをデザインした。各客室の水廻りは、全面改修して、快適な水廻り空間を実現した。
4.厨房・事務所・カスケードルームの改築:カスケード・ウイングの新築
厨房及び事務所の更新は、厨房機能の向上、業務の効率化と職場環境改善を図った。カスケードルームは、既存の内装意匠を移設・復元し、新厨房との連携によって、オリジナルティの高い空間での高品質のサービス提供を可能にした。
5.新館5階の大浴場への改修:フォレスト・ウイングの展望スパの実現
新館の耐震補強に合わせて、最上階の昭和42年増築の客室部分を全面改修し、念願の大浴場を実現した。文化財の建築群の連なりと箱根の山々を見渡せる眺望を提供する。

所在地:
神奈川県足柄下郡箱根町
延床面積:
17,926m2
竣工:
2020年06月
撮影:
株式会社エスエス東京支店

客室数:  120 室

国 登録有形文化財( 建造物)
経済産業省 近代化産業遺産
箱根町 特定歴史的建造物

 

本館・食堂棟(改修・増築)
構造:W造/一部RC造
規模:地上2階 地下1階

 

西洋館(改修)
構造:W造
規模:地上2階

 

花御殿(改修)
構造:RC造/一部W造
規模:地上5階 地下1階

 

フォレスト・ウイング(改修)
構造:RC造/一部S造
規模:地上5階 地下1階

 

カスケード・ウイング(新築)
構造:RC造
規模:地上3階 地下1階

 

 

協力事務所
文化財改修:株式会社建文
木構造:安芸構造計画事務所