Activities

Scene 2

学ぶ

かつて学校は、教える側が教わる側に知識を一方的に与える場所だった。
それを効率的に行うための空間として、黒板に向けて机を配置した教室の形が考えられた。
そしてこれを北側に通る廊下に面して並べた「片廊下一文字型」の校舎が、小学校から大学まであまねく広まったのである。
しかし、学びはそうした座学によって得られるものだけではない。
これからの不確実で流動的な社会で求められるのは、創造的な問題解決の能力であり、そうした資質を身につけさせるには、
学生や生徒たちが自ら課題を発見し、共同で作業しながら答えを導きだしていくという、主体的な活動の連関が求められる。
アクティブラーニングとも呼ばれる、この新しい学びを実現するには、従来の学校空間では難しい。
新しい「学ぶ」ための施設を、石本建築事務所による作品から紹介しよう。

(ライター:磯 達雄)

本に囲まれたアカデミックな環境で「学ぶ」

大学など高等教育機関の一部では、学生たちが関心をもったテーマについて自ら深く調べられたり、討議や協同作業を行いその成果を自分たちでまとめて発表できたりする、ラーニングコモンズと名付けられたスペースが設けられるようになっている。大正大学3号館では、これをコースごとに設置しており、オープンなスペースには、個人学習ができる机や、共同学習できるテーブル席が設けられている。一部の壁には学生たちによる作成物や、専門分野に関連したイベントの告知ポスターが掲示されている。空間はL 字型の壁で緩やかに仕切られ、その両側全面が書架。それ以外の仕切はすべて透明なガラスで、廊下と室内の区別もほとんど感じられない。専門書で覆われた書棚と書棚の隙間から見えるのは、教員の研究している姿や学生たちが自習している様子。図書館の中に講義室、ゼミ室、研究室が、区切られることなく散りばめられたような印象で、フロア全体がアカデミックな学びの環境と化している。この場に居るだけで学習意欲が刺激され、何かを自然とやりたくなってくる。そんな知的な学びの雰囲気が、この校舎には充ちている。
作品概要

大正大学3号館(教育・研究棟)

■ 所 在 地 東京都豊島区 ■ 階  数 地上5階 地下1階 ■ 建築面積 1‚803m2 ■ 竣  工 2012年
■ 建 築 主 学校法人 大正大学 ■ 敷地面積 24,794m2 ■ 延床面積 9,896m2

それぞれに居心地のいい場所を探して「学ぶ」

選択制のゼミやタブレットを活用した授業など、生徒の主体的な学習を重視している常磐大学高等学校では、東日本大震災で被災した校舎の建て替えにあたって、新校舎の設計に本格的なアクティブラーニングのための空間づくりを採り入れた。建物は吹き抜けのフォーラムを挟んで普通教室と特別教室が向かい合う。断面は半階分高さが異なるスキップフロアの構成で、互いに視線を交わし合う関係を生み出している。自然光が差し込む開放的な半屋外空間で、生徒たちは集まりやすい雰囲気。そこに置かれたテーブル席では、仲間と会話しながら考えを発展させることができるし、プロジェクターのスクリーンを下ろせば、大階段のような床に座って映像を大人数で共有体験する集会も可能だ。さらにくだけた雰囲気で友人と一緒に話がしたければ、1階のラーニング・コモンズ・ゾーンにあるグループスタディールームなら、飲み物を持ち込むことも可能だ。一方、単独で学習がしたければ、普通教室前の廊下には、壁に面したカウンター状の机があり、意識を集中して本を読むこともできる。生徒たちは自分の教室に閉じこもることなく、ときには一人で、時にはグループで、それぞれに居心地のいい場所を見つけて学んでいる。
作品概要

常磐大学高等学校2号館

■ 所 在 地 茨城県水戸市 ■ 階  数 地上3階 ■ 建築面積 1,958m2 ■ 竣  工 2014年
■ 建 築 主 学校法人 常磐大学 ■ 敷地面積 12,123m2 ■ 延床面積 4,818m2

図書館でコンサートを楽しんだ後に「学ぶ」

生涯学習の重要性が広く認められるようになり、学びを行うのはもはや学生にとどまらなくなった。それに伴って学びの場も、学校という教育専門施設に限らず、社会全体に散らばるようになっている。その中でも図書館は、美術館、博物館、公民館などとともに、市民が主体性をもって学ぶための重要な拠点となる施設だろう。こもろプラザは、市立小諸図書館と市民交流センターの機能を合わせた建物だ。広場を囲んで、隣には市庁舎と病院が建ち、それらの公共施設と一体となって中心市街地の再活性化の核となることが期待されている。市立小諸図書館はその1階に位置する。入ると出迎えてくれるのは、郷土に関するコーナー。まず目を引くのは、企画展示として置かれた郷土資料で、脇には関連したこの地方史の本が置かれている。その近くには小諸出身の文学者や美術作家などの関連書もまとめて並べられている。博物館や文学館の機能も、この施設は受け持っていると言えそうだ。またこの図書館では、一般閲覧室の一角を使って、かつてはタブーだったはずの、朗読会やコンサートといった音を発するイベントも定期的に行っている。その際に必ず行われるのが関連書籍の紹介で、例えばミニコンサートの後では、演奏した曲の作者に関する本や主題歌となったアニメの原作本を子供たちに紹介する。つまりこの施設では、モノやイベントによって興味深い対象に出会うことと、その関心を書籍によって深めることが、常にセットとなって展開しているのである。
作品概要

こもろプラザ

■ 所 在 地 長野県小諸市 ■ 階  数 地上4階 地下2階 ■ 建築面積 6,609m2 ■ 竣  工 2015年
■ 建 築 主 小諸市 ■ 敷地面積 8,628m2 ■ 延床面積 19,945m2

機能の境界が消えた施設でいつの間にか「学ぶ」

図書館、ミュージアム、公民館、学校といった施設の境界がなくなって、ひとつの「学ぶ」施設になっていく。こもろプラザで示された新しい「学ぶ」施設の可能性を、さらに発展させようとしているのが、2018 年に竣工予定の須賀川市市民交流センターだ。この建物は図書館、公民館、子育て支援施設、展示施設の合築として計画されたもの。こうした複合施設では、フロアごとに機能を分けて設けるのが通例だが、ここでは各所に設けられた吹抜けが、異なる機能を視覚的に結びつけている。さらに図書館と他の活動を融合させる仕掛けとして、公民館機能や子育て支援機能の各部屋の近くに書架を置き、それぞれに関連した図書館所蔵の本を並べることにしたという。例えばキッズパーク(子ども用の屋内遊び場)の中には児童向けの絵本の棚が、クッキングスタジオの前には料理のレシピ本の棚が置かれるといった具合だ。図書館に来たつもりのない利用者も、これならいつのまにか図書館の本を見ることになり、自分たちの関心を深めていくことだろう。機能のシームレスな連動により、学びの相乗効果がここでは期待されている。
作品概要

須賀川市市民交流センター

■ 所 在 地 福島県須賀川市 ■ 共同設計 畝森泰行建築設計事務所 ■ 敷地面積 7,592m2 ■ 延床面積 13,617m2
■ 建 築 主 須賀川市 ■ 階  数 地上5階 ■ 建築面積 4,875m2 ■ 竣  工 2018年(予定)
Text by磯 達雄
1963年埼玉県生まれ。88年名古屋大学工学部建築学科卒業。88〜99年『日経アーキテクチュア』編集部勤務。2000年に独立。02年から編集事務所フリックスタジオを共同主宰。桑沢デザイン研究所非常勤講師、武蔵野美術大学非常勤講師。共著書に『昭和モダン建築巡礼』『ぼくらが夢見た未来都市』『ポストモダン建築巡礼』『菊竹清訓巡礼』『日本遺産巡礼』など。