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Scene 1

集う

建築設計者が建物づくりで目指すテーマはそれぞれに異なるが、共通となるものもある。
それらをひとつずつ採り上げ、最新作から過去の代表作までを振り返って、
そこに受け継がれていく石本建築事務所のスピリットを探ってみよう。
第1回のテーマは「集う」。
石本の建築家たちは、いかにして人が集まる空間を仕掛けていったのか。
(ライター:磯 達雄)

冬の雪国で人々が「集う」

インターネットの発達で、家にいながら何でも買えてしまう時代になった。仕事の打ち合わせも、安価なテレビ会議のシステムが普及して、遠隔地にいる人同士がパソコンの画面を見ながら行うことが当たり前になっている。もはや、人が集まる必要はないのだろうか? 石本が設計を進めている、上越市の「(仮称)厚生産業会館」を見ると、設計者たちは「そうではない」と考えているようだ。この建物は、多目的ホール、公民館、子育て支援施設からなる複合施設で、設計者は施設全体を平屋とし、その中央に中庭を置いた。中庭を巡る回廊を介して各機能にアクセスするという提案で、様々な人がここで出会うことが期待されている。参考にしたのは、高田の旧市街で見られる雁木がついた町家のイメージ。雪深い北陸の地で、冬でも人々が集まれる場所にしたいとの狙いを込めたという。人と人が物理的に空間を共有し、集まることの意義はますます高まっている。設計者は、そうとらえている。
作品概要

(仮称)厚生産業会館

所 在 地 新潟県上越市
建 築 主 新潟県上越市
階  数 地上3階
敷地面積 18,400m2
建築面積 4,660m2
延床面積 5,250m2
竣  工 H29年秋開館予定

囲まれた中庭に「集う」

人々が集まる都市空間はいかにあるべきか。この問題に日本の建築家たちが最初に真剣に取り組んだのは、1950年代から60年代にかけてである。そしていくつかの興味深い回答を出した。石本の設計作品を振り返るなら、例えば1965年に完成した三鷹市民センターがこれにあたるだろう。この施設は、庁舎棟、議会棟、公会堂からなり、政治・行政の中心であるだけでなく、文化の中心であることも担う。様々な目的をもった人々を呼び寄せることで、中心であることの意義を高め、人々の出会いをより豊かなものにしている。異なる機能の3棟はコの字型に配置され、囲まれた中庭をつくり上げている。竣工当時の建築誌に設計担当者は「中庭は市民のための広場である」と記している。ヨーロッパの都市では建物に囲まれた広場がある。その形式を、建物に広場の形式を借りて、人々が集まる場にしようと目論んだというわけだ。建物のまわりには、68年に第1体育館、69年には福祉会館なども竣工。建物が増えることで集積の力はさらに強まった。都市の中心地区を公共施設の配置によってシンボリックにつくり上げた、ひとつの理想的な型を示したものと言える。
作品概要

三鷹市民センター

所 在 地 東京都 三鷹市
建 築 主 三鷹市
階  数 地上5階・地下2階
敷地面積 14,699m2(竣工時)
建築面積 4,041m2(竣工時)
延床面積 12,052m2(竣工時)
竣  工 1965年

立体の“辻”空間に「集う」

人が集まる都市空間として、ヨーロッパでは広場という形式が広まった。しかし日本では歴史的に広場という空間は見られず“辻”、つまり道に人が集まったとされる。辻とはいわば道によって数珠つなぎになった小さな広場の連続なのだ。こうした空間を、人を集める仕掛けとして建築に用いた例もある。「摂南大学枚方キャンパス7号館看護学部棟」(2012年)だ。この建物は3階建てで、1階と2階に教室や実習室といった大部屋、3階に研究室と演習室といった小部屋を集約。異なるプランを上下に積み重ねることで、ピロティや斜めに抜けるヴォイドなど、多様な隙間を誕生させた。これは複数の小さな広場が立体的に連続する辻的空間だ。ここは部屋から部屋への移動空間であると同時に、おしゃべり、ランチ、ダンスの練習など、思い思いの活動が繰り広げられる場にもなっている。学生たちは上下左右に人の存在を感じ、視線を交わしながら無意識に空間を移動していく。空間的な仕掛けが、コミュニケーションとアクティビティを活発化し、人を集めるという事例だ。
作品概要

摂南大学 枚方キャンパス 7号館

所 在 地 京都府 八幡市
建 築 主 学校法人 常翔学園
階  数 地上3階
敷地面積 32,892m2
建築面積 3,069m2
延床面積 7,188m2
竣  工 2012年

市場のような賑わいに「集う」

日本の広場空間について研究したすぐれた著作『日本の広場』(都市デザイン研究体、彰国社、1971年)に、「日本の広場は、“広場化することによって存在してきた”」とある。これは人々の活動と切り離して、場所だけを論じても仕方がないという意味だ。言い換えれば、広場があるからそこに人が集まるのではない。人が集まるからそこが広場になるのだ。そんな意識を設計に持ち込もうとした先駆的な例が、「所沢市民文化センターMUSE」(1993年)だ。この建物では、大中小の各ホール棟、展示棟、管理棟、レストラン棟と複数の建物群を中庭に面して配したもの。この中庭は単なる広場ではない。様々なイベントがここで開催され、だれもが気軽に参加できるようにしている。「情報市場」と呼ばれているが、その名前に込めた意味を設計の担当者は「劇場のもつドラマ性の中に、市場のもつ賑わいと活気の雰囲気を導入したらどうか」と、記している。日常的な人の集まりが、施設の魅力をさらに高めるというわけだ。
作品概要

所沢文化センター「MUSE」

所 在 地 埼玉県 所沢市
建 築 主 所沢市
階  数 地上6階・地下1階
敷地面積 22,199m2
建築面積 10,505m2
延床面積 29,000m2
竣  工 1993年

施設づくりへの参画で「集う」

人を集めるために、空間だけでなく活動づくりにも設計者がかかわる事例が出てきた。「いなべ市立石榑小学校」(2005年)だ。壁で仕切らないオープンスクール型の教室や、屋外ステージとシンボルツリーが配された中庭など、空間デザインにおいても魅力的な学校だが、地域住民と一体となって続けられている施設の運営面で、住民主催のお祭りを校内で催したり、“見守り隊”として子どもを送ってきた近所のお年寄りが「石榑茶屋」と名付けられた一角で茶飲み話を楽しめる「石榑モーニング」を週2〜3回のペースで開いたりと、他に見られないユニークな活動を続けている。「今日は何もすることがないから学校に行こう、そんなつきあい方で学校に来てくれている」と設計担当者はいう。きっかけとなったのは、設計時に実施した計53回にも及ぶワークショップで、これが地元の人たちに「自分たちの学校」という意識を植えつけたという。施設づくりへの参画が、人を集める建物の実現へと結びつく。公共的な施設の計画において、こうしたプロセスがこれからますます重要になることだろう。
作品概要

いなべ市立石槫小学校

所 在 地 三重県 いなべ市
建 築 主 いなべ市
階  数 地上2階
敷地面積 24,634m2
建築面積 4,360m2
延床面積 5,669m2
竣  工 2005年
Text by磯 達雄
1963年埼玉県生まれ。88年名古屋大学工学部建築学科卒業。88〜99年『日経アーキテクチュア』編集部勤務。2000年に独立。02年から編集事務所フリックスタジオを共同主宰。桑沢デザイン研究所非常勤講師、武蔵野美術大学非常勤講師。共著書に『昭和モダン建築巡礼』『ぼくらが夢見た未来都市』『ポストモダン建築巡礼』『菊竹清訓巡礼』『日本遺産巡礼』など。