デザインストーリー
船場センタービルリニューアル

インフラと一体開発されたビルの外装改修

築後40余年を経た建物の外装改修、その対象となったのは、大阪の中心部を東西に走る高架道路の下に、長さ1000mにわたって続く巨大な商業ビルだった。大阪の商業中心地である船場地区の再生につながるよう、従来のイメージを一新させることも求められていた。それに応える提案は、着物の小紋から着想した模様のアルミパンチングパネルで全体を覆うこと。模様を東西に移動するにつれて変え、日本の伝統色を用いたテーマカラーを交差する筋ごとに定めることで、長大な壁面を単調さから救った。また夜間にはパンチングパネルの穴から漏れる照明の光によって、きらめくような効果も生み出した。

全長1000mの長大な建築

大阪万博の開催に沸く1970年。大阪の中心で繊維問屋が集まる船場の街に、空前絶後ともいうべきユニークな建物が完成していた。名前は船場センタービル。中央大通りの上に1~10号館が並び、全長は約1000mにも及ぶ。屋上には都市高速道路と市道が架かり、下には地下鉄が通って2つの駅と直結する。内部は1~2階が繊維関係の卸売や小売の店舗、3~4階が事務所、地下階が飲食店街だ。交通インフラの整備と商業エリアの再開発を、一挙に実現してしまった商業施設である。繊維関係の商いに従事する人や買い物に訪れる客で賑わってきたが、築後40年が過ぎると、タイルの剥離やひび割れなど、建物の傷みが目立つようになった。外壁改修の設計プロポーザルが実施され、それに石本建築事務所が参加して設計者に選ばれる。「単なる外壁改修に留まらない、船場の街自体の活性化に繋がるような提案だったことが評価されたのだろう」と担当した夛田吉宏氏は振り返る。

高架下の建物全体をサインに見立てて、新しい船場のイメージを街に向けて発信している

繊維の街にふさわしい外装

まずはタイルの落下を防止することが必要。そのためには、既存のタイルやモルタルをピンで躯体に固定し、ネットを被せてさらに補強するピンネット工法を採用した。コストを抑えながらも、確実に外壁の剥落を防ぐ方法だ。そしてさらにその外側を、アルミパンチングパネルでカバーして、建物のイメージを一新した。この材料は、軽量なので躯体に負担がかからず、地下鉄の換気口があるところにも使えることが利点。雨水管が出ている箇所は、そこだけ緩やかに湾曲させながら連続的に覆っている。「繊維の街にふさわしい、織物のような柔らかい皮膜」(夛田氏)だ。またこのパネルはビスで留めているので、内側の照明器具を換える際など、メンテナンス時にも容易に対応が可能となっている。

既存壁をアルミパンチングで柔らかく包む。筋部1階にはグラフィックコンクリートを使用

キタとミナミをつなぐゲート

パネルのパンチングは、細やかな模様を描いている。遠目には無地だが、近づいて見るとそれがわかる。この原理は、着物の小紋に見られるデザインを応用したものという。模様は京都の染匠を訪れて選び、大きさや並べ方を検討した。使われた模様は5種類で、1・2号館が「鮫」、3・4号館が「波」、5・6号館が「鱗」、7・8号館が「格子」、9・10号館が「麻の葉」となっている。御堂筋から堺筋へと進むにつれて、幾何学模様から流動的なパターンへと徐々に変わっていくという趣向だ。また棟の間を抜けていく筋部には、それぞれ「もえぎ色」「朱色」などの日本の伝統色がテーマカラーとして採用されている。これにより自分のいる位置が把握しやすくなると同時に、9つの筋がシンボリックなゲートとしてそれぞれに浮かび上がる。大阪のキタとミナミを結ぶ筋が、船場センタービルによって分断されたと難じられることもあったが、今回の改修はその再生に結びつくものとも言える。

アルミパンチングのパターンは5種類。遠目には無地だが近づくと細やかな模様がわかる着物の小紋が参照された

新素材「グラフィックコンクリート」を採用

御堂筋と堺筋では、歩行者のアイレベルにあるコンクリートの壁面にも模様が施されている。そこには「グラフィックコンクリート」という新素材が、日本で初めて採用された。これは打設前のコンクリート表面に硬化遅延剤をプリントした特殊シートを敷いて、硬化したコンクリートを洗い出すことにより、図像を浮かび上がらせるという技術。「発祥地のフィンランドまで行って、施工例を確かめた。手仕事が加わったような質感がよかった」(夛田氏)。自動車の交通量が多く、壁面が排気ガスで汚れてしまうことが懸念されたが、この素材なら汚れも目立たないと、建築主からも喜ばれたという。また夜の街を彩る照明は、パンチングパネルの内側に取り付けることにより、人が歩くにつれて光が見え隠れし、きらめくような効果が生まれている。

手仕事の風合いが感じられるグラフィックコンクリートの模様は「麻の葉」と「波」の2種類

都市遺産の再生へ

これだけ巨大な複合施設で、しかも区分所有者がおよそ500人にも及ぶため、改修の方針を集約するには時間も要したが、船場を再生させたいという関係者の熱い思いに突き動かされて、設計案はまとまっていったという。また工事では、道路や地下鉄などを管轄する組織や諸官庁とそれぞれに協議を行って、困難な計画を実現させた。改修工事が終わって、街はどのように変わっただろうか。「以前より明るくなった、とよく言われる。若い人も増えた気がする」と今回のプロジェクトを統括した南隆氏。船場地区が賑わいに満ちた場所となることが、船場センタービルという都市遺産の再生へとつながる。そのきっかけとして、今回のリニューアルは役目を果たしたと言えるだろう。

夜間は点光源の光がパネルの孔を通して見え隠れし、人が歩くにつれてきらめくような効果を生む
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

南 隆
大阪支所 理事 一級建築士 建築積算士
夛田 吉宏
大阪支所 主事 一級建築士
柘植 和人
大阪支所 主任 建築設備士 消防設備士

船場センタービルリニューアル

プロジェクト
メンバー

意匠
南隆/夛田吉宏/吉田哲也
構造
石田昭浩/安部良治
電気
柘植和人
機械
澤村敏彦

作品データ

施工
熊谷組
建築面積
3万1248m2
延床面積
17万325m2
階数
地下2階・地上4階
構造
鉄筋コンクリート造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)
工期
2013年
実績ライブラリ