環境統合技術室
第11回環境建築フォーラム
手のひらから鳥瞰へ
身体感覚とイラストから見る環境統合
2025年3⽉28⽇ 17:00~19:30
座長:金子尚志 / ゲスト:イスナデザイン(野口理沙子+一瀬健人)
イラストから見る環境・建築のセカイ
イスナデザイン(野口理沙子+一瀬健人)
- 一瀬
- 今回は「イラストから見る環境・建築のセカイ」というタイトルでお話しをさせていただきます。私たちは、もともと野口が石本建築事務所に勤務していて、私も建築設計をしていたのですが、2018年に独立をしてからはイラストを描くことに集中してきました。設計はしないと決めて、独立してから6年ぐらいはイラストだけでやってきました。「2.5次元の建築」をキーワードにしながら、私たちはイラストを描いています。
- 野口
- イスナデザインの大きな目的として、「それぞれのリアルに向き合うこと」というのをテーマに活動しています。ある人・企業が捉えている世界や見えているもの、こうあってほしいと願うこと、それらは必ず違うと思うのです。何とかしてそれらを形に残したい。そのためにイラストはどんな表現がいいのか、建築であればどういった形がいいのかということをいつも考えています。
- 一瀬
- これは、左側を見たら何でもない街の俯瞰だと思います。でも、私たちにとってはとても思い入れのある場所なんです。これは神戸の街で、この辺はハーバーランドといって私たちの大学、神戸大学があります。何が言いたいかというと、あなたが普通の地図を見ても、思い入れによって歪む経験があると思うんです。よくここで海見たな、この辺のラーメン屋によく行ったなとか、地図から匂いが漂ってくるような、地図がどんどん歪んできて、そこから匂いが出てきたり、大きさが歪んだりするような。そういう感覚があるんじゃないかなという気がしています。
- 野口
- 街をダイヤグラムにすると、見た時に瞬間的に「あそこの坂道はここだ」みたいなこととか、「あの木は大きかったな」とか、そういったものが意識の中に入ってくるんじゃないかということを考えています。
街があって、カメラだとそのまま街の姿を捉えると思いますが、人によって、この人はこの木につながっているし、この人にとってはこの小さい木の下で過ごした時間が頭の中に浮かんでくる。そういったものをそれぞれのリアルと呼んでいます。
そんなことに気が付いた本がありまして、これはサン=テグジュペリの『人間の土地』です。この人は『星の王子様』を書いた人ですが、この本の中に地図の話が出てきて、さっきの話とまったく同じなんですが、自分の思い出のあるものをどんどん書き込んでいく。そこに書き込まれるものは、とても大きな山脈の近くに小さい一軒の家だったりとか、羊飼いの女性だったりとか。本当にその人にとっては山脈と1人の人間が同じ大きさに描かれるもので、それがその人にとってのリアルなんだろうということに気がついた一冊です。
- 一瀬
- それぞれのリアルに向き合う3つのアプローチとありますが、プロジェクトはだいたい3つに分けられると思っています。八織っぽいですけど、「見えるもの以上、見えるもの以外のものを表現する」、「切り口を最大化して図解する」、「違和感を残したまま組み上げる」という3つです。この3つを切り口に事例紹介をしていこうと思います。
- 一瀬
- まず1つ目、「見えるもの以上を表現する」です。これは渋谷の街を描いたものですが、渋谷区と設計事務所Nからの依頼でした。どちらかというとフラットで、何を目立たせたいとかもなかったイラストです。渋谷の山谷の体験を記述する、ということで、渋谷の街はすり鉢状になっていて、渋谷駅のあたりに向かうにつれてどんどん谷になっています。それをどう表現するかということにトライした絵です。
渋谷区と設計事務所Nからのオーダーは、渋谷の全部の通りを描いてほしいということだったので、道玄坂、公園通り、宮益坂など、全部で7本の通りを頑張って描きました。具体的にどうしたかというと、消点を7つ設定しました。宮益坂には宮益坂の消点を、明治通りには明治通りの消点をという具合です。基本的には建築学科で習うようなシンプルな図法なんですけど、それを設定して谷感を強調するということをやっています。
- 野口
- ここで大事にしたのは、渋谷のスクランブル交差点に立った時の自分が中心にいる感覚。それに向かっている通りの、急であったり緩やかであったりといった土地の起伏の感覚、そういったものを消点の位置や高さによって再現することを考えた絵になっています。
- 一瀬
- 金子先生のお話で、ミースは俯瞰があまりないとおっしゃっていたのがおもしろかったのですが、私たちの世代はGoogle Earthで簡単に俯瞰ができます。ですから俯瞰自体にはあまり意味を感じていない世代かもしれません。その上で、その場所らしさとか体験みたいなものを表現するというのが私たちの大きなテーマだと思っています。
これが事例として一番近いと思いますが、設計事務所Mとご一緒した事例です。
- 野口
- 設計事務所Mが持っている木造技術を1枚の絵にしてほしいというオーダーで、東京駅があって皇居があって中通りのある丸の内エリアを描いてほしいという依頼でした。その中で自分たちの歴史であったりとか、描きたい未来であったり、木造を通して何を射程に入れているかということを、絵の中に全部込めてほしいというオーダーだったんです。
絵の説明をすると、真ん中に1つ、円環の道が走っています。その道に沿って設計事務所Mのグループが持っている木造技術が描かれていて、そこに山の方で森を育てて伐採して運んで工事をしているというのが1枚の絵の中に入っています。下の方には生産施設のような、地下空間を使ったインフラを描いてありますが、インフラだとか未来の街だとか交通だとか、そういったものをすべて絵の中に入れています。
ちなみに絵は全部で四分割されていて、一番左側が現在に近いもの、今ちょうど取り組んでいるものが真ん中あたり、右側は未来でより遠い未来。いずれは街の区画みたいなものもなくなるんじゃないか、いろんなものの境界は曖昧になるんじゃないかということも表現しています。
- 一瀬
- プロセスとしては、まずラフの状態で3案出しました。丸の内、東京駅があって、そこから一直線に進む未来のようなものを提案したかったので、1案目は一直線の、斜めから東京駅周りを見るという案です。もう1つは少し硬くてアクソメ系で、いろんな表現を等価に扱えるというもの。結局次の3案目になったのですが、魚眼案と呼んでいるんですけど、この輪っかに循環のストーリーを組み込めるんじゃないかとお話ししたら、これでいきたいということになって進みました。
- 野口
- お話しをしているうちに、ただ自分たちの木造建築を描きたいだけではなくて、それを通して何がやりたい、こういうことができるんだ、みたいなことがどんどん膨らんできたので、そういったものを全部盛り込む。その人たちにとってのリアリティは何だろうと考えた結果、この循環という構図が出てきました。
- 野口
- 次は大阪の立命館大学の茨木キャンパス、新しい建築の壁画イラストです。このキャンパスはかなり実験的なつくりで、キャンパス全体で大きな実験棟のようになっています。ですから、教室と廊下の境があまりないというか、廊下でもいろんな実験ができるようになっているし、教室もフレキシブルに変化させることができます。
このキャンパスでは、自分たちで使い方をどんどん発想していってほしいのだが、それをどう伝えるかを悩んでいるということでした。学生の頭の中では教室で勉強する、実験室で実験するというのがセオリーになっているので、このキャンパスではどこで何をやってもいいんだということをなんとかして伝えたいということで、依頼を受けました。とにかく、何をやってもいいということを伝えるために、壁一面を使って絵を描いています。
- 一瀬
- 我々史上最大の壁画で40mぐらいあります。これは1階ですが、ここには学生がいろんな物事に取り組んでいる様子を描きつつ、大きく見せたり、小さく見せたりデフォルメしながら、まずはキャンパスを描いています。
こちらは同じフロアを描いたものですが、前の絵とは大きく違っています。何を描いたかというと、ペルソナを11人作ってそれぞれの体験を錯綜させるということをしています。
- 野口
- 例えば、このペルソナの背景にある教室は、さっきの絵に出てきた人たちと全く一緒で、全く同じ配置なんです。さっきは建築として描いたのですが、この絵は体験として描いたイラストになっています。11人それぞれの起点があって、ここに本人たちが来て動くんですけど、例えばこの男の子は、将来自分のお店を持ちたいということでコーヒーサークルに入って、みんなでお店作ろうってなって、自分たちでお店をやって、でも失敗してお客さんは誰も来ない。宣伝の仕方なども全然知らなかったっていうので、みんなで反省して、そこからてんでバラバラにいろんなことを、例えば広告を学ぶ人もいれば、自分たちはDIYでお店をちゃんと作るといって空間を作る人もいたりして、もう一度みんなで集まってお店を作る。それで、いずれこの子は自分のお店を持つ、といったストーリーを描いています。
この中にいる人たちはみんな迷ったり失敗したり、いろんな体験をして、それで次のステップに進めるというのを描いています。ここに少しだけ文字が入っていますが、文字がない箇所もたくさんあって、吹き出しだけがある状態なので、この壁画の前に立って矢印を追いながら、この人たち今何考えてるんだろう、何やってるんだろうみたいなことを自分たちで考えて読み取ってもらおうという絵になっています。
- 一瀬
- 次は「切り口を最大化して図解する」です。これは石本建築事務所が手掛けた中央区立晴海西小学校・晴海西中学校の図解です。こちらの写真にあるような建物を、こんな感じで図解しました。
- 野口
- これはA3の紙に両面印刷できるように作っています。1つは学校を大きく図解していて、見せたい情報によってかなりデフォルメしていますが、なんとなく全体の構成は残しています。その中で階層によって使い方に変化をつけたりとか、少し細部に寄って機能を説明したりする絵になっています。
- 一瀬
- 構造でV形とY形の柱というのがあるんですけど、そこからVYちゃんというキャラクターを作っています。このVYちゃんが説明をしてくれる建物の取説図を作りました。
- 一瀬
- 最後は、「違和感を残したまま組み上げる」というコーナーです。これは不動産HとF株式会社とご一緒させてもらった、私たちが独立して最初の仕事で、この仕事があったからイラストだけでやっていこうとなったのですが、最初にワークショップをしてもらい、そこから「都会の中の自然素材の集合住宅」といったキーワードが出てきました。
- 野口
- いわゆる設計ではないのですが、設計をしてモデル化したものを持っていって、それを元にディスカッションして形を考えていくということをやったプロジェクトです。これらは今後、不動産Hが新しい集合住宅を展開していくときの種になるものなので、ちゃんとした建築としては描きたくない、これからどんどん発想を生む基にしたいということで、建築未満の状態で留めています。
例えば、これは素材を感じるためだけに描いているので、床と柱、梁みたいなところだけで空間を作っていて、どこが内外とか閉じるということはしていません。こちらはデジタル技術と人がどう共存できるかを描いた絵なので、建物の表情はなくして、人とデジタルがどう共存するかだけを描いた状態です。このように、建築としては少し足りない状態を設計して、そこから絵を起こしています。
- 一瀬
- この他に3つのテーマが出てきて、集合住宅について合計6つのテーマをもらいました。それを1つの世界観で表すということで、最終的にこの形になりました。これは、みんなが内側を向くように、この木を中心に仲良く暮らすじゃないですけど、そういうメッセージを込めて最終アウトプットにしました。
- 野口
- これは、オフィス家具の株式会社Iと一緒に未来の大学を考えたプロジェクトです。これも大学空間の種になるものなので、建築としては描かないということを条件の1つとして作っています。まずはワークショップで空間に関してのディスカッションをして、建築ではないけど、空間としてどう描くかということを考えました。
最終的なアウトプットとしては、フロアだけを積層させることを考えて、一番下には大学におけるパブリックな空間を一番広い面で描き、そこからどんどん研究の内容が上がって、講義室とか図書館とかゼミ室があって、最終的には学会みたいなものを描いています。研究の深度が深くになるにつれてよりプライベートな、クローズドな空間になっていくので、それは床の広さや高さ方向で表現するということにしています。
- 一瀬
- いつもこんな感じで大学生を含む大人数で描いていくのですが、ここで問題になるのは、どうタッチを揃えるかということです。それで、30度グリッドというものを裏に引いています。その30度グリッドを守りながら自由に描くことで、なんとなく事務所全体のタッチを揃えるというプロジェクトになっています。
- 野口
- イスナデザインでは複数人でモノを作ることをしています。どうやらイラストレーターとしてはすごく変わったことをしているようですが、私と一瀬はもともと設計から絵に入ったので、みんなで同じルールを共有してものを作ることは、すごく自然な流れではありました。
イラストを描くときに、誰か一人の世界観だけでずっと描き続けるのではなくて、いつでも誰かと一緒にものを作る。例えば、その人の感覚で描いたラフを取り込んで、自分の中でもう一度解釈するみたいなことを大事にしています。設計事務所ではきっと当たり前の感覚で、その当たり前の感覚のまま今も作っている感じです。
- 一瀬
- クライアントが思っていることや、やりたいこと、こういう技術をもっとプッシュしていきたいとか、こういう未来があり得るんじゃないかみたいなことをどんどん出してもらって、それを1つの世界として、ビジョンとしてどう示すかといったことに今後も取り組めたらいいと思っています。
私たちからは以上です。ありがとうございました。
- 金子
- 渋谷の絵はすごくおもしろいですね。消失点は、基本的には2つですよね。それを7つ用意するというのは、それぞれのリアルという言い方をされていましたが、あの1枚の絵を見た時に、いろんな人が自分の消失点を探せるんじゃないかと思いました。「ここだここだ」みたいな。それが2つとかだと、誰が見てもここだってことになっちゃうんですけど、そのあたりが多分、それぞれのリアルとして表現されているのかなと思いました。我々はシークエンスと言いますが、都市や建築の中を歩く時には、時々刻々と消失点を変えながら歩いているわけです。それを1枚の絵に7つの消失点を入れて表現するのはすごくいいと思いました。
もう1つ同じようなことで、建築を体験することは時間の体験でもあるわけですが、この丸の内の絵では左から右に時間を表現するという考え方もとてもいいと思います。空間の移動と時間の経験みたいなものをイラストに入れていくのは、やっぱりお二方とも建築をやっているからこそなんだろうと思いました。
- 野口
- 同時にいろんな時間を体験できる、それがイラストのすごくいいところだと思っています。
- 金子
- 新しいイラストの構築方法として捉えていいんじゃないでしょうか。建築的イラスト作成法みたいな。
- 野口
- 感覚としては、基本設計、実施設計、実際の施工みたいな感じがあって、これのラフ1回目では、人はまったく描いていないんです。基本設計ってゾーニングの段階なのでアクティビティは描かない。そこからだんだんと実施設計でもう少し役割分担が見えてきて、現場に入ってより細かいもののレイアウトとかになった時に、人の配置とかアクティビティがどんどん描かれていくみたいな。ですから、ラフも大体3段階ぐらいになっていて、最初は人がいない全体構図だけの状態から、もう少し構成が見えてきて、最後は細かいアクティビティを確認して本描きみたいな感じで作っています。






















