デザインストーリー
ハイアットプレイス東京ベイ

“ステイケーション”の楽しみを提供するホテル

大手ホテルブランドの日本初進出として千葉県浦安市に新設されたリゾートホテルだ。 東京湾への良好な眺望をできるだけ採り入れるよう、建物を海側に配置した明快なゾーニング計画。 地上レベルには、パームツリーの並木やテラス席のあるレストランでリゾート感のある風景を演出した。立体的に構成されたファサードは、夜になるとライトアップされ、華やかな表情を見せる。ホテルチェーンが定めた基準との調整やインテリアの監修にもあたり、建築主の高いレベルの要求に応えた。

国際的なホテルブランドの日本初上陸

米国の大手ホテルチェーン、ハイアットホテルアンドリゾーツが運営する客室数362室のホテルだ。ホテルには宿泊以外に宴会場やレストランを充実させたフルサービスホテルと、宿泊に特化したリミテッドサービスホテルがあるが、ハイアットプレイスはその中間に位置するセレクトサービスホテルのブランドで、日本ではこれが初進出となる。場所は千葉県浦安市で、海が近く公園に面した好立地にある。東京ディズニーランドや東京ディズニーシーで遊ぶのを目的とした宿泊客は確かに多い。しかしそれだけではない。設計を担当した榊原由紀子氏は言う。「最近“ステイケーション”という言葉を耳にするようになった。これは『ステイ』と『バケーション』を合成した造語で、自宅から離れていない場所でホテルの滞在自体を楽しもうとする動きのこと。そんな使い方にもぴったりなホテルを生み出すことができた」。

形態制限から生じたセットバックを活かしてテラス付きの客室を設置(左)。最上階や2階にもテラスが取られていいる(中・右)

海辺のリゾート・スケープを演出

建物は敷地の海側に寄せ、残りを駐車場や庭にしたシンプルなゾーニング。これにより、手前の公園を含めた景観を客室から最大限に享受できるようにした。地下1階、地上10階建で、6階から上は段状にセットバックする。形態規制によるものだが、これを逆手にとって、テラス付きの客室を設けた。「ロケーションを生かした開放感のあるスペース。ホテルのグレード感もアップしたと建築主やホテル側に喜ばれた」(コルベッラ・マルコ氏)。また、1階には前面道路からパームツリーの並木道に面してテラス席のあるレストランを配した。リゾート・スケープを街にも表出させている。木陰でくつろぐ人々の姿もまた、海辺の風景の演出に一役買っている。レストランは24時間営業で、近隣の住民の利用も多い。設計チームの「宿泊客だけでなく、地域のコミュティにも愛される施設にしたかった」との思いは果たされたようだ。

1階の沿道部には開放的なレストランを配して賑わいを創出(中)。6階から上のテラスからは海の景色を満喫できる(右)

夜もまた魅力的な「オールデイ・ファサード」

夜の外観にも気を払った。「ホテルは泊まっているお客さんが多い時とそうでない時でついている明かりの数が違う。賑わいの表れ方に差がある。そうならないように考えた」(榊原氏)。その方法とは、外壁に斜めの突起面をつくり、そこに照明を当てて、千鳥の模様で建物全体が明るくなるようにするというものだ。突起面の内側には、客室の排気設備や一部の縦樋のほか、照明器具も隠している。どこから照らしているのかわからないような、ディテールのデザインだ。客室内からまぶしく見えてもいけないので、設計にあたっては実物大のモックアップをつくって詳細に検討した。これによって、昼は太陽光により立体的な陰影が生まれ、夜はまたライトアップによる華やかな表情を見せる「オールデイ・ファサード」ができ上がった。「エリア全体が明るくなった、と近隣の方も喜んでくれた」と榊原氏は言う。

照明の工夫で壁面やエントランスまわりに華やかさを演出(左)。モックアップやCGシミュレーションで効果を確認した(中・右)

圧迫感を視覚的に減らすデザインの工夫

形態制限で建物の高さも低く抑えられている。一方で、ホテルの収益性を上げるためには、客室数を多く取らなければならない。そのために、限られた階高で空間の圧迫感を減らす工夫が求められた。これは廊下の梁にハンチを設けたり、客室内を折り上げ天井にしたりするなどして対処した。「物理的な空間の大きさだけでなく、視覚的な効果も考えた。例えば、大きな窓をとり、これに寄せてソファを置いたり。いわゆる女子会もここで行われている」(榊原氏)。こうした工夫が、ホテルの客室で過ごす“ステイケーション”の楽しみを倍加させているというわけだ。一方、パブリックエリアで特徴的なのは、1階ロビーのレセプション・カウンターが島状になっていて、ホテルのBOH(バック・オブ・ザ・ハウス=後方部門)から独立していること。カウンターの背後にはバーがあり、ホテルに到着した客にまず一杯のドリンクを提供することもできる。「アットホームなサービスが可能な、気持ちのよい環境づくりを心がけた」とマルコ氏は言う。

窓際にソファが配された客室(左)。ロビーのレセプション・カウンターは島状で、裏に回るとバーになっている(中・右)

CGによる緻密なシミュレーションで出来上がりを確認

ハイアットホテルアンドリゾーツには、建築、設備、防災など多岐にわたるホテル設計のガイドラインがあり、それに合わせることも求められた。分厚いマニュアルを読み込み、日本の建築法規とも整合性をとりながら、ひとつひとつの項目に応えていく。膨大な作業だったが、これを達成した。また、このホテルをつくるにあたっては、インテリア、照明、ランドスケープ、アートワークなど非常に多くの外部デザイナーやアーティストが参画している。それらを監修し、調整する業務も石本建築事務所の仕事だった。「3Dのコンピューター・モデルをつくって、シミュレーション画像でチェックした。完成したときには『パース通りにできたね』と建築主から言われた」と佐野健太郎氏は明かす。建築主とのイメージ共有にも、シミュレーション画像は大きな役割を果たしたようだ。

リゾートの楽しみを膨らませるギャラリーキッチン(左)、オーシャンビュースイートリビング(中)、ルーフトップバー(右)
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

榊原 由紀子
設計監理部門 建築グループ 部長
コルベッラ マルコ
設計監理部門 建築グループ デザインマネージャー
佐野 健太郎
設計監理部門 建築グループ 次長

ハイアットプレイス東京ベイ

プロジェクト
メンバー

意匠
榊原由紀子/佐野健太郎/コルベッラ マルコ
構造
石川智也/木村恵
電気
清水正一/本山政之
機械
土屋賢二/西川俊也

作品データ

施工
北野建設
敷地面積
1万240m2
建築面積
3170m2
延床面積
2万1002m2
階数
地上10階/地下1階
構造
鉄骨造一部鉄筋コンクリート造
工期
2017年8月~2019年4月
実績ライブラリ