デザインストーリー
目黒区立東山小学校

公園に囲まれた地域とつながる⼩学校

開校60周年を迎えた区立小学校の建て替えで、1000人の児童を擁する小学校のほか、近隣住民のための住区センター、発達障害支援拠点を併設している。周囲にある公園や街路の並木との連携を図り、地域につながる施設づくりが目指された。公園に向けた施設の顔となる「ウェルカムゲート」や、交流イベントの場となる「センターコート」も設けられ、地域のコミュニティを育む役割も期待されている。小学校はラーニングセンター、学年スペース、特別教室、管理諸室をロの字形に並べて、回遊型校舎を形成。各室は屋内外で視覚的につながり、学年を超えて「見る・見られるの関係」が生まれている。特別教室の前に設けられた展示スペースも含め、自発的な学びを誘発する様々な仕掛けが凝らされた学校施設だ。

イチョウとサクラの並木を敷地に連携

一帯はかつて陸軍の練兵場だったところ。現在は都内では珍しい大きな街区群に、公務員宿舎や公共施設が散らばっている。敷地は北側に広い東山公園、東西南の各側にも小さな公園があるという恵まれた環境だ。ここにあった小学校を建て替え、住区センターと発達障害支援拠点を併設させる計画にあたって、設計者は周囲のイチョウやサクラの並木を敷地内に連続させ、一部の沿道に公開空地を設けて公園とのつながりを生み出した。地域の人々に愛されてきた景観資源を継承し、増幅させることを意識した設計だ。小学校の建て替えでは、仮設校舎をつくらないという条件が課せられていた。既存校舎を避けながらつくっていかなければならないので難しい。しかし、設計チームの中山氏は「更地から計画してもこうなっただろう、と言われるような配置を目指した」。それは確かに実現している。

四方を公園に囲まれた緑豊かな小学校。並木や遊歩道の設置で周辺環境との連続性を高めている

地域に向けた顔となる「ウェルカムゲート」

東山公園に面する北側に、建物に挟まれたエントランスがある。施設全体の顔となり、地域とつながる役割を果たす「ウェルカムゲート」だ。「公園で遊ぶ子供たちの賑わいを引き込もうとした」と、設計を担当した野間氏は言う。正門から奥へと半屋外空間は延び、下校時の集合場所や大型バスの待機場としても使われる。入ってすぐの壁に記された『WELCOME』の文字は、帰国子女を多く受け入れてきたこの学校の旧校舎で、入り口に掲げられていた看板の言葉を継承したのもの。校章や校名サインと合わせて、学校のアイデンティティを表すサインとしている。ゲートのほかにも、住区センター、体育館、特別教室などを道路が面して配され、敷地内での活動が外からもうかがえる。地域から日常的に見守られるような学校が、建築の配置によってできあがった。

ウェルカムゲートは地域と学校の接点となる場所で、学校の伝統的な理念を継承する「WELCOME」の文字が掲げられている

学校の中心に位置する「センターコート」

「ウェルカムゲート」を抜けると、少し広くなった「センターコート」に達する。3箇所に分かれた昇降口が面しているここは、在校生約1000人の登下校をさばくゾーンになるとともに、地域と学校とをつなぐ発表の場としても位置付けられている。中央の大階段はステージや客席となって、音楽発表会などのイベント時には、たくさんの地域の人たちがそれを見に集まることだろう。各学年のスペース、特別教室、ラーニングセンター、管理棟などの各機能は「センターコート」を取り囲み、回遊型の校舎を構成する。子供たちは学校のなかをぐるぐると歩き回りながら、どこからでも「センターコート」を見ることができるようになっている。

センターコートの大階段では音楽発表会などの催しが行われ、地域住民と子どもたちの交流の場となる

特別教室前の展示が自発的な学びをうながす

ラーニングセンターは主体的な学びの中心となるブロックで、国際理解室(集会室)、日本語教室(和室)、低学年図書室、中高学年図書室、コンピューター室が立体的につながっている。異なる階の部屋とも、吹き抜けを介して視線が行き交う。「子どもたち同士、年長と年少で互いにどんなことをやっているかが見えるのは、教育効果が大きいのでは」と野間氏は言う。音楽室、図工室、家庭科室などの特別教室には、廊下に面して展示スペースの設置を提案して実現させた。ここには子供たちの制作物が並べられたり、コンクールで獲得したトロフィーが飾られたりしている。子供たちにそれぞれの科目への興味をかき立て、自発的な学びをうながす仕掛けだ。また、理科室からエコ学習に結び付く屋根集熱装置が見えたり、給食室で働いている様子をガラス越しに見学する食育が行えたりと、建物自体が教材となる工夫も随所に凝らされている。

ラーニングセンターの国際理解室(左)や低学年図書室(中)などでは、吹き抜けを介して視線が立体的につながっていく

学年のまとまりを成長に合わせてデザイン

子供たちにとって学習の拠点となる学年ごとのまとまりには、アッセンブリースペースを配した。ここはチームティーチングや間仕切りを設けての少人数教育など、学習方式によって様々な形で使うことが可能。将来、教室を増やすことになった時にも、このスペースで対応する。加えて共有のオープンスペースには、教師・教材コーナー、展示コーナー、読書コーナー、手洗コーナーを設け、それぞれに黄、橙、緑、青の共通カラーを当てて、わかりやすくしている。もうひとつの特徴は、低学年は総合学習型、中学年はセミクローズド型、高学年はオープン型と、成長段階に合わせたプランにしたこと。窓、黒板、家具などの高さや大きさもていねいに変えている。「歯を磨きながら外が見えるようにするなど、子供たちの生活場面を細かく想定しながら、居場所をデザインしていった」と中山氏は語る。

多様な学びに呼応するアッセンブリースペース(左)と、児童の成長に合わせて設計されたオープンスペース(中・右)
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

中山 貴
設計監理部門 建築グループ 部長 設計リーダー
野間 修一
設計監理部門 建築グループ 主任

目黒区立東山小学校
目黒区立東山住区センター
目黒区発達障害支援拠点ぽると

プロジェクト
メンバー

総括
南知之/中山貴
意匠
野間修一/橘昌夫
構造
石川智也/吉村桂/篠崇
電気
有田智行/旭翔一
機械
藤井健一/鈴木治雄

作品データ

施工
前期工事(分離)松尾・中村・白井建設JV 他4社
後期工事(分離)イズミ・コンストラクション 他3社
敷地面積
1万6213m2
建築面積
6754m2
延床面積
1万4599m2(小学校1万3729m2、地域施設870m2
階数
地上4階
構造
鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造)
工期
前期工事2014年12月~2017年3月、後期工事2017年2月~2018年3月
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