デザインストーリー
三千和商工本社ビル

太陽光を追尾する電動ルーバーを備えたオフィスビル

東京・都心部の建物が建て込んだエリアにできあがった小規模ながらも個性的なオフィスビルだ。法規の検討により8階まで建てられたが、敢えて6階建てに抑えて、ワンフロアの面積を広く確保。オフィスの各階には「i-port」と名付けられたコミュニケーション・スペースを設けた。西面のファサードには太陽光を追尾して動くルーバーを設置、環境条件に応じて内部に光を採り入れる。ルーバーにはパンチングメタルのグラフィックパターンで企業のコーポレート・アイデンティティを表現した。

コンパクトで質の高いオフィスビル

図面や書類の青焼き複写から始まって、現在ではオフィスサポート業務全般を扱う民間企業の本社ビルである。敷地は東京都港区の大通りからワンブロックだけ内側に入ったところで、周囲には中小規模のビルが建て込んでいる。設計チームはまずボリュームのスタディから始めた。天空率を用いて外周部に空地を確保した建て方を採ると、8階建てにできて延べ面積も大きく取れる。しかしその案は不採用となった。賃貸オフィスビルであれば、それしかないのかもしれないが、計画しているのは本社ビルであり、社内のコミュニケーションを活発にするためには、ワンフロアの広さをなるべく大きくしたほうがよいと考えられたからだ。「全体としてはコンパクトだけれども、質の高いオフィスビルをつくりましょう」と、設計を担当した福地拓磨氏は建築主に提案。これが受け入れられた。

社内のコミュニケーションを促進する小規模な本社ビル。夕刻には透けるファサードを通して社員の生き生きとした姿を街に伝える

有効な事務室面積を取るための細かな検討

階数は6階までと少なくなるが、それによるメリットも生まれる。最上階を倉庫にして、居室があるフロアを5階までに抑えると、2方向避難が不要となり、階段が1箇所で済むのだ。また、延べ面積を1000m2未満にすることで、床面積に影響を及ぼす区の条例に関する義務も免除される。福地氏にとっては、これまでに手掛けたことがないほど小さな規模の建物だったが、だからこそ設計のやりがいがあった、という。「配管スペースなどをどれくらい削れるか、ギリギリまで細かく検討した。それによって増える少しのオフィス面積がとても貴重なので」。都心の再開発ではブロックをまるごと使った巨大なオフィスビルが次々と生まれている。その多くは総ガラス張りで、オフィスビルは大規模化とともに没個性化しているのかもしれない。そんな傾向に抗って、このビルは小さいけれども個性的なビルとして実現した。

玄関(左)の壁面にはコーポレートカラーを使用、間接照明が訪問者を内部へ導く。事務室(中・右)は西面に開口を大きく確保した

異なるフロア同士を視覚的に結ぶ「i-port」

オフィスのフロアは階段とトイレを北側にまとめ、奥の南側に事務室をできるだけ広く取る。そして階段から事務室に至るその間に共有のゾーンを設けた。ここにはカジュアルなスタイルのテーブルや椅子があり、フロアごとに異なる設えで、参考図書やテレビモニターなどが置かれている。棚に仕込まれた間接照明の効果もあいまって、住宅のリビングルームのようにリラックスできる空間だ。社員の休憩に利用されたり、集中して仕事をしたい人がこもったりしているが、事務室との境はガラス張りであり、吹き抜けを介して他のフロアともつながる。コミュニケーションを活発化し、社内を一体化する役割がこの空間には期待されている。社訓の三愛精神(で愛/ふれ愛/つき愛)から、このスペースは「i-port」と名付けられた。

階段室と事務室の中間に位置する「i-port」は社員が交流するリビングのような空間。3層の吹抜けで異なる階同士も結び付ける

太陽の位置や天候に応じて動くルーバー

環境設備に関する面で工夫したのは、まず事務室の照明だ。天井照明を空調吹き出しに合わせて細く線状に配し、すっきりと見せる。しかもそれを個別に操作できるシステムにした。オンオフの切り替えは、壁に取り付けられたタブレット型端末で行う。「タッチパネルに慣れているので、たくさんの人が使ってくれる。社員の出入りが激しい部署では特に省エネルギーの効果が大きい」と、設備設計を担当した近藤秀彦氏は言う。もうひとつ、室内の環境制御に大きな役割を果たしているのが、西面ファサードの電動ルーバーだ。屋上に太陽光を追尾する装置があり、太陽の位置に応じて角度が変わる。午前中には開放的な状態で社員を迎え、午後になって太陽が西に傾くと次第に閉まっていく。また、その日の天候によっても閉じ方が変わり、曇天であれば開いた状態になる。日没後は完全に閉まった状態で、セキュリティを高める効果もある。ルーバーの一部に非常用進入口を設けるのには苦労したが、目立たないように収めることもできた。

事務室の天井照明はタッチパネルで簡単にオンオフ操作が可能。西側の電動ルーバーは太陽光の動きを追尾して角度を変える

パンチングメタルのパターンでCIを表現する

ルーバーの素材にはアルミ・パンチングメタルを使用した。これにより閉じた状態でも木漏れ日のように光が透過する。開口のデザインにもこだわった。パンチ穴の形は3種類で、デジタルなイメージを彷彿とさせる大小の円と、会社のルーツである文書複写業を象徴する用紙の白銀比を採った長方形だ。これを並べて社章にも使われている社名のアルファベット「M/C/W」を表現した。コーポレート・アイデンティティを示すサインにもなっているのだ。光が漏れる様子は図面やCGではなかなかわからない。それで原寸大の模型を製作して、実際に光を当てて確かめた。パターンや開口率を変えて、40案ぐらいを検討したという。「ファサード全体でグラフィカルな表情を生み出している。夜間に外から見たときの光の漏れ方もよい」と根本亮佑氏は話す。福地氏も「人が働いている姿が外からもわかる。それにより、地域に根付いたオフィスになっていくのではないか」と期待を寄せている。

アルミ・パンチングメタルのルーバーは環境のうつろいに呼応して快適な空間を形成。ドットのパターンは企業のCIを表現している
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

福地 拓磨
設計監理部門 建築グループ 部長
根本 亮佑
設計監理部門 建築グループ 主任
近藤 秀彦
設計監理部門 環境グループ 主任/環境統合技術室 主任

三千和商工本社ビル

プロジェクト
メンバー

意匠
福地拓磨/根本亮佑
構造
荒川哲也
電気
道下雅樹/近藤秀彦
機械
八木唯夫/高木若菜

作品データ

施工
工新建設株式会社
敷地面積
270m2
建築面積
196m2
延床面積
977m2
階数
地上6階
構造
鉄骨造
工期
2017年9月~2018年9月
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