Design Stories

ISHIMOTO × 記憶
地域や記憶とつながるランドスケープ
3種のラウンジは回遊動線で結ばれる

鎌倉市立大船中学校

Outline

豊かな歴史と文化をたたえる鎌倉の地に創立して70周年を迎えた中学校の全面立て替えプロジェクト。
周辺のサクラ並木を敷地内へとつなげたり、旧学校のシンボルだったケヤキの下を通る歩行者道を通すなど、地域や学校の記憶を伝える風景をつくりあげている。
校舎内には、「アカデミアラウンジ」「ステップラウンジ」「メディアラウンジ」と、異なる特徴をもった3つのラウンジが、中庭を囲んで配された。
様々な形の自主学習の場が、回遊動線と一体化して立体的に連続している。
生徒同士は“見る見られる”の関係の中で触発しあい、学習意欲を高めていくことだろう。
この学校で過ごした思い出を、生徒たちは大人になっても心に抱き続けるに違いない。

新旧生徒の記憶に残るケヤキの木

敷地はJR大船駅から歩いて十数分のところで、鎌倉女子大学や鎌倉芸術館にも近い。もともとは旧海軍省の倉庫が建っていた敷地で、そこからは円覚寺のある六国見山もよく見える。古都・鎌倉の歴史と文化を身近に感じられる恵まれた周辺環境だ。正門から入ると、まっすぐに歩行者専用の舗道が延びる。その脇には立派なケヤキの木。これは旧校舎の時代から敷地の真ん中にあったもので、生徒たちが毎日、眺めていたもの。卒業生たちがこの学校に戻ってくるときも、このシンボルツリーを見れば、自分たちが通っていたころのことを思い出せることだろう。そして現在、この学校に通う生徒たちも、登下校のたびにこのケヤキの木の下を歩いたことを忘れないはずだ。新旧の歴史をつなぐ役割をこのケヤキは果たしている。「敷地を訪れてまず、このケヤキは絶対に残そうと思った」と、設計を担当した中山貴氏は振り返る。

正門からまっすぐ伸びる歩行者専用舗道の脇には、旧校舎の時代から残るケヤキがシンボルツリーとしてそびえる

敷地周辺のポテンシャルを生かす

学校にとって大切な風景は敷地の外にもある。サクラ並木だ。道路を挟んだ北側に電機メーカーの工場があり、その敷地には道に沿ってサクラの並木が続いている。春に咲くサクラは、新入生や卒業生にとって思い出の一場面を飾るもの。そしてまた地域の人々にとっても、春の訪れを伝えてくれる大事な風物詩だ。大船中学校の設計では、前面道路に面して歩道の一部を広げてポケット広場を設け、そこにサクラの木を植えて、並木の風景を学校側へと延ばしてつなげた。地域のポテンシャルを引き込むとともに、地域へメリットを還元もする、そんなランドスケープのデザインだ。

校舎棟とスポーツ棟との間は風の通り道にもなる。校舎棟の南面(中央)は庇の出が日射を遮る

それぞれに特色をもった3つのラウンジ

内部の設計ではどんなことを考えたのだろうか。建物はケヤキの道を挟んで校舎棟とスポーツ棟からなる。校舎棟ではそれぞれに特色を備えた3つのラウンジを設けた。「アカデミアラウンジ」は、昇降口とつながった吹き抜けで、ここには生徒による美術や書道の作品、スポーツ大会での記念品などが飾られる。自分の学校を誇りに思えるような、そんな象徴的な空間だ。ちなみに名前の「アカデミア」は、戦後まもない時期に鎌倉で開設され、多くの文化人を輩出した私学校「鎌倉アカデミア」から取ったという。設計を担当した松下氏は「地域文化と学校の歴史をつなごうとの思いを込めた」と説明する。

「アカデミアラウンジ」では生徒の作品や学校の歴史を展示。開口部を開ければ中庭ともつながる

主体的な学びの場が立体的につながっていく

一方、教室に近いところにあり、学習と生活の場となるのが「ステップラウンジ」だ。多目的スペースと隣接し、組み合わせて使うことで様々な学習の形態に対応する。また階段状に1階から3階へとフロアをつないでいるので、学校全体に一体感を生み出す効果もある。もう一つの「メディアラウンジ」は、図書室、パソコン室、視聴覚室をつないで、生徒の主体的な学習の場となる。図書室とは間仕切りなく連続し、通り抜けの廊下を兼ねさせることによって、面積の効率化と利用の活性化を図っている。これら3つのラウンジは、中庭を囲んで配置され、主体的な学びの場を立体的につながった形で実現している。「学年の境をまたいで、生徒同士の“見る見られる”の関係を生み出す仕掛け」と松下氏は言う。

中庭を取り囲んで「ステップラウンジ」(中央)「メディアラウンジ」(右)がつながっている

地域のスポーツ拠点としてのアリーナ

大船中学校は、鎌倉市において地域のスポーツ拠点としても位置付けられている。そのため、広い校庭にはたっぷりとスポーツ用のフィールドが取られた。アリーナも公式大会が催せるよう内部では天井高さを確保したが、外観では周りの住宅地からの圧迫感を抑えるよう、四周で高さを減らした。アリーナのステージも工夫し、奥の壁を開放できるようにした。入学式の際には、開ければサクラの花が咲く風景が背後に見えるはずだ。石本建築事務所の設計担当者は、建物の竣工直後に学校からの依頼を受け、このアリーナで全校生徒に向け、校舎の設計についてレクチャーをした。「その後、教頭先生から『将来は建築物をつくる仕事に就きたい』と考える生徒も現れたと聞いた。嬉しかったなあ」。満面の笑みで中山氏は語った。

広域の大会に使われるアリーナを内包するスポーツ棟は、住宅地の景観に配慮して軒高を抑えた

Member

中山 貴 ……………設計監理部門 建築グループ 部長
松下 大志 …………設計監理部門 建築グループ 主任

鎌倉市立大船中学校

プロジェクトメンバー

意  匠 中山貴/松下大志
構  造 原健一郎/村田輝彦/鈴木智絵子
設  備 五十嵐美克
電  気 米山浩一

作品データ

施  工 鉄建建設
敷地面積 3万1433m2
建築面積 5725m2
延床面積 9981m2
階  数 地上3階
構  造 鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
工  期 2015年2月~2016年7月