デザインストーリー
須賀川市民交流センター tette

ずれながら積層する床で異なる機能を融合

東日本大震災の復興事業のひとつとして福島県須賀川市が建設した複合公共施設である。図書館、生涯学習・市民活動施設、子育て支援施設、円谷英二ミュージアムというそれぞれに異なる機能を、ずれながら積層する床に配置し、それをスロープや階段でつなぐという構成。中央を貫く街路のような吹き抜け空間や、周りに張り出したテラスによって、街の賑わいを内外に表出している。これを構造・設備の面から成り立たせているのは、3・4階に設けられた床板状のメガストラクチャーだ。

吹き抜けを介して複数の機能がつながる

図書館、生涯学習、子育て支援、イベントホール、ミュージアムなどが一体となった複合施設である。こうした複数の機能を併せ持った公共施設は全国的に増えているが、そのほとんどは、はっきりと境界があって分かれている。例えば1階が生涯学習施設、2階が図書館、3階がイベントホールといったように。しかしこの施設では、吹き抜けを介して床がずれながら重なる構成をとり、それぞれの床をスロープやゆるい勾配の階段でつないだ。視覚の上だけでなく物理的な動線としても、異なる機能が結ばれている。それによって、これまでにない融合度の高い複合施設ができあがった。「図書館を目的に訪れた人が、図書館で用を済ませてすぐに帰ってしまうのではなく、他の階でおもしろそうなことをやっていると感じて立ち寄ってみる、そこで人と出会って新たな交流が生まれる、そんなことが起こることを期待して設計した」と十河一樹氏は言う。

1階東側エントランス(左)と3階メインライブラリー(中・右)。異なる機能が吹き抜けを介してずれながらつながっていく

偶然の出会いをうながす施設全体への図書配架

融合のコンセプトがはっきりと見て取れるのが、図書の配架方法だ。図書館は建物の西側を2階から4階にかけて占めているが、蔵書はその中にとどまらず、施設の全体にわたってテーマ別に置かれている。例えば生涯学習ゾーンのキッチンルームの脇には料理の本が、防音スタジオの脇には音楽の本が、クラフトルームの脇には工作の本が、それぞれ並んでいる。最上階のミュージアムは、須賀川市出身の特撮映画監督、円谷英二の業績を紹介する展示構成なのだが、こちらにも図書館の書籍が添えられている。ロボット怪獣のそばにはロボット工学の本、クラゲをモチーフにした怪獣のそばにはクラゲの図鑑という具合だ。本との偶然の出会いが、この施設のどこにいても起こりうる。本を探して、館内を巡り歩くのも楽しい。もちろん急ぐ人は、検索機で調べれば本の置き場所がわかるようになっている。この配架を採用するために、新たな図書分類法を考案し、従来の十進分類法と併用したという。

生涯学習ゾーンの4階(左)と3階(中・右)。音楽、ダンス、料理、工作など、そこで行われる活動に関連した書籍が配架されている

市民ワークショップを経て行政の垣根を取り払う

ユニークな機能融合がどのようにして実現できたのか。これには設計に先駆けて実施したワークショップの果たした役割が大きい。「市民の声を聞くと、施設を横断して利用したいという要求があることがわかった。例えば子育てをしている親は、図書館で子供向けの本を見た後、子育て支援施設に寄って子供を預けてから、所属している合唱グループの練習に参加したりする。その時、散らばっているそれぞれの施設を回らないといけないので大変。そうした声を施設づくりに反映させようと、丁寧に関係者に伝えていった」(十河氏)。当初は図書館、公民館、文化振興課、こども課など、管轄している行政のセクションが違うので、なかなか足並みを揃えるのは難しかったが、融合というコンセプトを市長がよく理解し、そのリードで「交流センター準備室」という部局を設けて、一括して施設づくりにあたることになってからはスムーズに進むようになったという。そして、図書館、公民館などといった従来の施設名称でなく、「あそぶ」「まなぶ」「あつまる」「うごく・かなでる」といった動詞群を使って、複合する機能を再編集した。

1階「tette通り」(左・中)からスロープを上がっていくと、2階にはこどもライブラリーや「わいわいパーク」(右)がある

建物を貫通するストリートのような空間

場所は須賀川市の中心部に位置し、東側で目抜き通りの松明通りに面している。もともと敷地は2つに分かれていて、北、南へ抜ける細い道路もあった。かつてあった小道のなごりを留めるために、東西南北それぞれに入り口を設けて、建物の中を通って自由に行き来ができるようにした。特に東西を結ぶ動線は、「tette通り」と名付けられた吹き抜けの空間となっており、敷地のレベル差をそのまま床面に取り入れたこともあいまって、ストリートが貫通しているような印象をもたらす。サインも道路標識をモチーフにしたデザインで、街にいる感じを高める。また、2階以上のフロアには外周部にテラスが何層にも張り出し、そのところどころがガラスの建具で囲まれた半屋外のサンルームとなっている。そこでは子供が遊んだり、中高生がおしゃべりしながら勉強したりする姿が見られる。テラス同士が外部階段で結ばれているので、ウォーキングのコースにしている人もいるそうだ。テラスを設けた狙いを十河氏は、「人々の姿や声が外側に表れることで、震災からの復興を果たして街が元気になった様子を示せる」と説明する。

街路のような「tette通り」は、ときにはイベントも開催される(中・右)。2階以上にはテラスもふんだんに設けられた(左)

構造と設備と防災機能を統合したメガストラクチャー

この施設では、異なる機能の融合というコンセプトを建築化するために、複数の床が空中に浮いているような構成を採っている。これを構造として実現しているのが、3・4階の分厚い床である。内部にはトラスが入っていて、これがメガストラクチャーを形成し、そこに柱を立てたり、そこから床を吊ったりしている。ずれながらも連続している吹き抜け空間に柱や梁が現れてこないのは、ここで集中的に構造を負担しているからだ。またこのメガストラクチャーは空調などの機械設備を内部に収めているほか、防災上の排煙ルートにもなっている。また異なる機能の間で音の干渉を防ぐという吸音効果の役割も担う。「1階のでんぜんホールと4階の図書館は空間的にはつながっているが、音楽会と読書が同時に行える。それはこのメガストラクチャーが吸音し、ずれた吹抜けによって距離減衰の機能を果たすから」(十河氏)。視覚的にはわかりにくいが、構造・環境・防災などの面からこの建築の心臓部となっているのがこのメガストラクチャーというわけだ。

エキスパンドメタルを透かしてトラスが見えるメガストラクチャー。この中に構造、設備、防災機能を集約している
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

十河 一樹
設計監理部門 建築グループ 次長

須賀川市民交流センター tette

プロジェクト
メンバー

意匠
十河一樹/坂本孝樹/渡邉純矢/高松達弥/伊藤里佳
構造
原健一郎
電気
米山浩一/佐藤栄志/近藤秀彦
機械
関根能文/五十嵐美克

作品データ

設計
石本建築事務所+畝森泰行建築設計事務所(構造協力:オーク構造設計)
施工
三井住友建設・三柏工業共同企業体
敷地面積
7724m2
建築面積
4876m2
延床面積
1万3698m2
階数
地上5階/地下1階
構造
鉄骨造一部鉄筋コンクリート造
工期
2016年4月~2018年8月
実績ライブラリ