デザインストーリー
大阪工業大学梅田キャンパス OIT梅田タワー

エコロジカルスキンに包まれたタワー型キャンパス

大阪・梅田に誕生したタワー型の大学キャンパス。超高断熱ガラスや遮熱・集熱機能をもつダブルスキンで構成するエコロジカルスキン、自然通風を促進するコミュニケーションボイド、 昼光利用と共に自然な光環境を室内にもたらすタスク・アンビエント照明制御、在席エリアに反応するモジュール天井放射空調など、新しい環境配慮技術を数多く取り入れて、「国土交通省 住宅・建築物省CO₂先導事業」にも採択された。石本建築事務所は設計監理共同企業体の環境設計分野を主体に、意匠計画と先進的な省エネ技術を統合する役割を担い、環境配慮を外観の意匠や空間構成、大学アクティビティとも統合したデザインへと昇華させた。

地域に貢献する都心のタワーキャンパス

大阪・梅田の茶屋町地区に完成した、関西では初となる都心の超高層キャンパスである。大阪市の地区計画に基づいた再開発ゾーンに位置し、建物の周りに歩行者の回遊動線や「常翔の杜」と名付けた緑地を設けて、都市環境の向上に貢献している。低層部にはホールやレストランなど公共性をもった機能を入れるとともに、災害時の帰宅困難者の受け入れを想定した設計になっている。環境配慮の面では最先端の取り組みを行い、低炭素社会の実現に向けて先導的な役割を担うことを目指した。環境分野の設計では、様々な環境技術の採用によって、この建物は平成25年度の「国土交通省 住宅・建築物省CO₂先導事業」にも採択されている。

地表には都市に憩いをもたらす緑地を設け、低層部にはホールなど地域開放の施設を入れている

通風を促し学生の居場所となるコミュニケーションボイド

環境面での特徴的なデザインは高層部の南北両面に設けられたエコロジカルスキンに見ることができる。北面のカーテンウォールは三層複層真空ガラスを用いて熱貫流率をコンクリート壁+断熱材と同程度にまで抑えて高断熱化をはかり、安定した自然光を建物内に採り入れている。内側には「コミュニケーションボイド」と名付けられた吹き抜けのスペースが採られており、この空間は最上部21階の換気窓から熱排気を行なう自然換気の通風経路になっている。またこのスペースには階段が架けられ日常的な移動の場となるとともに、張り出した床は学生たちの居場所ともなる。ここを介して学部や学年の枠を超えた人の交流が起こるという仕掛けだ。「大学の高層化で学生たちの居場所がなくなってしまうのではないか、と大学側からは心配されたが、環境への配慮と合わせてうまく解決することができた」と設計を担当した建築グループの東原理子さん。夕方になれば建物内を行き交う学生たちの姿がガラスを透して外に現われ、賑わいが表出される。

北面のコミュニケーションボイドは学年・学科間を縦につなぐと同時に環境調整の仕組みともなる

高層建築物での太陽光発電利用とパッシブデザイン

一方、南面の窓は透明複層ガラスと透明単層ガラスで多機能ダブルスキンを構成。窓下の外気取り入れ口から入った空気を、季節に応じた3つのモードで用いる。夏はダブルスキン内の熱気を上部の排気口から排出、冬は太陽熱で暖まった空気を室内に取り込んで活用、中間期は涼しい外気で自然換気を行なうための外気取り入れ口となる。日射遮蔽用の庇には太陽光発電パネルが組み込まれ、南面の特徴的なファサードを形成している。「高層建築ならではの特徴を生かした自然通風や冬期の太陽熱利用、壁面への太陽光発電パネルの設置など、設備と意匠設計者がパッシブデザインという目標を共有し、多くコミュニケーションすることで実現した」と環境グループの東堂博文さんはとらえる。石本建築事務所が積極的に取り組んでいる環境統合技術の考え方が明快に現れた箇所だと言えるだろう。

南面には庇と一体化した太陽光パネル。その上の取り入れ口から外気を取り入れ、自然通風も行う

知的創造空間を生む照明と空調の技術

先進的な環境配慮の取り組みは、室内の照明や空調の設計でも行われた。タスク・アンビエント照明制御は、昼光とアンビエント(天井・壁)照明のバランスをとりながら「人が感じる明るさ」を常に適切な明るさに制御し、心地よい光環境と省電力を両立させるというもの。天井面がムラなく明るくなるよう、器具の開発も行っている。また高層階の空調では、天井放射空調システムを採用。少ないエネルギーで、快適な温熱環境を実現している。デザインスタジオなどのオープンエリアは、アンビエントを担う天井放射空調と床面からの送風空調システムを組み合わせている。空調ゾーンは複数の小区画にモジュール化し、センサー感知で学生の在席エリアとその近傍エリアのみを空調することで効率化を高めている。高効率な省エネ空調と制御技術アイデアが一体化した知的創造空間の実現である。

デザインスタジオ(左)、レストラン(中央)、ラーニングコモンズ(右)でも心地よい環境と省エネルギーを両立させた

エネルギーの「見える化」で環境教育にもつなげる

ほかにもこの建物では、地中熱利用杭、マイクロコージェネレーション、アースチューブ、グラデーションブラインド、など、数多くの環境配慮技術を採用している。これらの効果を総合することで、一次エネルギー消費量で約30%の削減、見える化や運用段階での省エネチューニングなどにより約40%の省CO₂効果を見込んでいる。そしてこうした省エネルギーの効果は、建物内の各所に設置されたモニターでリアルタイムに表示される。「自分たちが使っている建物のエネルギーの利用に関する情報を分かりやすく見せることは、施設管理者にとって有用なだけではなく、学生たちも環境保全を意識し、自発的な省エネルギー実践の誘発を期待できる」と環境グループの八木唯夫さんは期待する。近い将来には、採用された環境技術を解説しながら建物内を巡るエコツアーの実施も予定されているという。この大学キャンパスは、建築自体が環境を教える活きた教材になっている。

建物内各所に設けられたエコモニター(左)には省エネルギーの効果がリアルタイムに表示される
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

東原 理子
設計監理部門 建築グループ 次長 兼 環境統合技術室 次長
水野 浩嗣
設計監理部門 建築グループ 主任
山田 勝也
設計監理部門 建築グループ 主任
東堂 博文
設計監理部門 環境グループ 次長
八木 唯夫
設計監理部門 環境グループ 主任
柘植 和人
設計監理部門 環境グループ 主事

大阪工業大学梅田キャンパス OIT梅田タワー

プロジェクト
メンバー

意匠
東原理子/山田勝也/水野浩嗣
電気
柘植和人
機械
東堂博文/八木唯夫

作品データ

設計
服部・石本・安井設計監理共同企業体
施工
西松建設、きんでん
敷地面積
4650m2
建築面積
2416m2
延床面積
3万3853m2
階数
地下2階/地上22階
構造
鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造
工期
2014年4月~2016年10月
実績ライブラリ