デザインストーリー
八重洲セントラルパークビル

立体的ファサードのクリスタルタワー

東京駅八重洲口周辺に建てられた中規模のテナントビル。周囲では巨大な再開発事業が進む一方、小さな店舗ビルもまだまだ残る。その中でどうすれば埋没しない建物をつくることができるのか。この問題に設計担当者は、ガラスの多面体で立体的に外装を構成することで応えた。斜めの面に分割されたファサードは、ビルディングの視覚的印象をスケールダウンするとともに、悩ましいビル風の緩和にも寄与する。クリスタルのようにきらめくユニークな外観は、都市に豊かな歩行者空間をもたらすものでもあった。

建築主が込めた建物への想い

日本の首都、東京の玄関となる東京駅八重洲口に面した敷地。日本全国、さらには世界中から大勢の人が集まってくる。この場所に本社を構えて、不動産事業に取り組んできた中央土地株式会社が、創立70周年の事業として計画したのが、本社屋の建て替えだった。設計を担当した藤本良寛氏が建築主から感じたのは、この地域で長く企業活動を行ってきたことへの強い想いだった。そして希望されたのは、新しいテナントビルにシンボル性をもたせること。八重洲エリアでは大きな再開発計画があちらこちらで進行中で、広くはないこの敷地で中規模のビルを建設しても周囲に埋没してしまうおそれがあった。どうデザインすればこの建物が存在感を発揮できるのか、それが藤本氏に与えられた課題だった。

昼から夜へ、時刻の移り変わりとともに、ビルの表情も変化していく

ガラスの多面体でビルを覆う

まず取り組んだのは、八重洲の立地特性を考えることだった。東京駅を挟んで反対側の丸の内エリアには赤レンガの丸の内駅舎など歴史的な建造物が多く揃っている。また隣接する日本橋エリアも、百貨店や老舗商店が軒を並べて格式を感じさせる商業地だ。それに対して八重洲は、新しい時代を切り開きながら発展していく先進的なゾーンと捉えることができる。「この方向性から建築の外観デザインを検討し、最終的に選んだのが『クリスタルタワー』の案でした」。これはガラスで覆われた多面体でビルのファサードを構成するというもの。微妙に傾いた鏡面が連なった姿は、シンプルでありながらもユニーク。周囲のビルや空を切り取りながら反射して、これまでにない都市景観を生み出している。また、連続したガラス面の工作物を屋上に設けることで建物を高く見せ、ボリュームを縦に分けることで、垂直方向への伸びを強調している。

垂直方向の強調や多面体のファサードによって、八重洲のビル群の中でも存在感を放つ

街を行き交う歩行者への配慮

設計を進めている段階で、ビルを丸ごと借りるテナントとして家電販売大手のヤマダ電機が入ることが決まる。オフィスを想定していたものが、途中で店舗へと大きく変わった。しかしもともと階高4.5メートルと高めに設定していたので、基準階の建築設計ではそれほど大きな変更はなかったという。変わったのは、足元まわりだ。通りに面して大きく開いたエントランスゲートを設けて、歩行者をそのまま引き込むようにしたのである。解放した状態では、街がそのままビルの内部へとつながる。店舗に客を誘うだけでなく、前を行く歩行者もにぎわいが感じられて楽しい。敷地の周辺には、ワンブロック全体を使った大規模再開発ビルと、飲食や物販の店舗が入った小さなビルが入り混じる。「その間を調整するようなヒューマンスケールの都市空間がつくれたのではないか」と藤本氏は語る。

内部空間はフレキシビリティーを追及、1階は通りに大きく開放されてエントランスゲートとなる

ユニット工法の採用で施工を合理化

建物の角に施した特徴的な隅切りも、実は歩行者への配慮となっている。ビル風のシミュレーションをコンピューターを用いて行ったら、風の強さが半分以下に抑えられることがわかったのだ。シンボリックな「クリスタルタワー」のデザインは、ヒューマンな都市空間づくりにも貢献していたのである。多面体を形づくるガラス・カーテンウォールは、製作や施工が難しいように思えるが、通常用いられるノックダウン工法ではなく、ユニット工法を採用することで、合理化とコストダウンを図った。ユニットは屈折部をまたいで、幅1655ミリ、高さ4600ミリのサイズ。工場で製作することで高い精度を実現することができたという。

特徴的な隅切りはビル風を低減する効果もあることがコンピューター・シミュレーションで確かめられた

高い効率性とフレキシビリティー

ヤマダ電機の店舗は「コンセプトLABI東京」としてオープン。単なる家電販売店ではなく、新しい製品やその使い方を提案するショールームの機能を備えたフラッグシップとして位置づけられた。扱われている商品の技術や性能の高さを示唆するものとして、建物のデザインも大きく働いているようにうかがえる。テナントにも好評のようだ。しかし将来を考えれば、建物の使われ方は大きく変わりうる。その時のこともあらかじめ藤本氏は考えている。「基準階の平面は階段やエレベーターを片側に寄せることで、高い効率性とフレキシビリティーを実現。オフィス、飲食店、クリニックなど、様々な用途に対応できる」という。八重洲のシンボルとして、末長く愛される建物になりそうだ。

南側にまとめられたコア部には、階段やエレベーターを内部に収容している
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

藤本 良寛
プロジェクト推進室 設計・監理 主事

八重洲セントラルパークビル

プロジェクト
メンバー

意匠
藤本良寛
構造
原健一郎 + 構造計画プラス・ワン 金田勝徳
電気
道下雅樹
機械
鈴木治雄

作品データ

施工
安藤ハザマ
敷地面積
1226m2
建築面積
1134m2
延床面積
1万5240m2
階数
地下2階・地上12階
構造
鉄骨造 一部鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造
工期
2013年3月~2015年9月
実績ライブラリ