斎場
CONCEPT
お別れの記憶に寄り添う空間を
斎場は人の「死」に関わる大切な施設であり、故人との最後のお別れをおこなう場です。その建築は、儀式の厳粛さを演出し、遺族や会葬者を包み込み癒しを与える空間でなければなりません。私たちは、優れた斎場機能と斎場にふさわしい心落ち着く空間を実現する建築設計のノウハウにより、故人の尊厳と遺族のプライバシーを守り、故人との最後のお別れの記憶が豊かな建築空間とともに思い出に残る斎場をご提案します。
INTERVIEW
お別れの時間を穏やかに過ごせる斎場
和順:私たち石本建築事務所は、多くの斎場の設計に携わっています。
斎場で過ごす事になる、故人との最期のお別れの時間は、遺族や会葬者にとって一生の思い出となる大切なものだと思います。その大切な時間を、滞りなく心穏やかに美しく過ごせる斎場を設計したいと考えています。
私が担当した静岡県の裾野長泉斎苑 麗峰の丘では、場内を左右対称の2つのゾーンに分け、それぞれで儀式が完結する一方通行の動線とすることで、複数の葬家同士の交錯を防ぎ場内の混雑を緩和しました。円滑に葬送の儀式を執り行うためには、わかりやすく合理的な動線計画が大切です。
内装デザインでは、各葬送のシーンにおける遺族や会葬者の気持ちをできるだけ想像して、それぞれにふさわしいインテリアにするように努めています。お別れの部屋は自然石を使用して自然光を取り入れた明るく厳粛な雰囲気とし、火葬中に待機する待合室は、木調の内装や富士山を望める窓の設置により、リラックスできる雰囲気を演出しました。
小江戸川越の斎場
赤﨑:火葬場とはその地域に生まれ育った方が荼毘に付される場所です。遠方からも親族がその地に集います。
川越市斎場ではいぶし瓦の屋根や銀ねず色のタイル、格子をイメージさせる木製ルーバーにより、蔵のある小江戸川越らしさを表現しました。通りを挟んだ向かいに建つ葬儀式場「やすらぎの里」(弊社設計)と川越市斎場の屋根が並ぶ配置とし、この地に鎮魂の風景を創ることを目指しました。
葬送の厳粛な儀式をスムーズに執り行うには、他葬家の葬列と混合しない機能的な儀式動線を計画する必要があります。エントランスホールを交互通行できるダブルコリドール方式(2つの廊下)とし複数葬家の交錯を防ぎ、他葬家の入室時の滞留を迂回できるバイパス機能を持たせました。
火葬を待つ待合の空間には複数の庭を設けました。四季の景色を眺め、故人との最後のお別れの記憶が季節の情景とともに思い出になる斎場です。
都市型斎場における環境計画
西川:当社では、四ツ木斎場などの都市型斎場も手掛けています。都市型斎場の環境計画は、都市部という立地において、いかに遺族や参列者にとって心地よく穏やかな環境を提供できるかがテーマとなります。
私が担当した横浜市東部方面斎場では、環境設備設計者として、一歩斎場に訪れると都会の喧騒を忘れ故人との別れを惜しめる、そんな空間や環境を実現したいと考えていました。周辺環境と建物用途の関係から必然的にクローズな建物となり、内に開けた計画になることが特徴的です。特徴を生かして、内側は中庭からの柔らかい光や緑化による安らぎ環境を構築し、外側の壁は断熱性能を高め熱負荷コントロールを行うなど工夫を施しました。
近隣斎場の照度測定や、沿岸地域であるため海水温を活用した地中熱測定を行うなど実測調査を積極的に行い、計画に盛り込みました。
斎場は集会場用途として当社事例や公開事例を見てもエネルギー消費が大きい建物だと考えられていました。手探りながらもZEB readyを達成することとなり初挑戦が多い案件でした。竣工後も建築主とともに実測収集を得れば有益なデータが蓄積されるのではないかと期待が高まります。
和順:今後も、利用者の立場に立って、きめ細かな気遣いの行き届いた斎場の設計を続けていきたいと思っています。