デザインストーリー
生駒市立病院

奈良の歴史文化を継承する外装

生駒市立病院は、市内で不足している小児の二次医療や二次救急医療体制を充実させ、地域の医療向上を図るために、東生駒駅前に新設された。外観は日本の伝統建築とつながる、漆喰の白と木の濃茶からなるモノトーンの色調でまとめられたシックなデザイン。縦のストライプ状に並ぶ柱型はプレキャスト・コンクリート製で、内側が配管スペースになっているが、これが実は、病院建築にありがちな計画の変更や将来の改築にも柔軟に対応する外装システムにもなっている。内部は床面積の有効利用と人間本位のデザインを両立させ、中庭と屋上を使った自然環境の取り込みによって、患者が退院への意識を高められるような病院建築の設計が試みられている。

日本の伝統建築とつながるモノトーンの色彩

建物の全体を、垂直方向の白いストライプが覆い、水平方向には黒い庇がまわっている。病院らしからぬ外観だ。どうしてこのようなデザインを採ったのか。設計チームの中心を担った 松田修平氏はこたえる。「奈良の歴史とつながりたかった」。病院が建つ生駒市は、大阪のベッドタウンとして発展してきたが、すぐ隣りは古都、奈良。そこには、東大寺や興福寺といった神社仏閣と県庁舎などの近代建築が、共存しながら美しい街並みをつくっている。「日本の伝統建築は、漆喰の白と木の濃茶からなるモノトーンの色彩が特徴。それと調和する近代建築も、庇や柱で陰影のある外観をつくり上げている。そうした建物の文化を、病院でも継承しようと考えた」。実は松田氏自身もこのエリアに住んでいる。地元である奈良への愛着が、この外観には表れている。

水平の庇と垂直の柱形の組み合わせによる外観は、モノトーンの色彩と相まって、奈良の歴史文化を継承している

スケルトン・インフィルの考え方を外装に応用

歴史と文化に応答する外観は、環境に配慮したデザインでもある。庇と窓面から出た柱型は適度に日射を遮蔽し、庇は雨天時にも病室の窓を開けておくことを可能とする。また排気口や配管ダクトを目立たなくするという効果もある。そしてこれは、将来の内部変更に対応する外装システムでもある。白く出ているところはPCa(プレキャスト・コンクリート)製のリブで、柱間の2分の1ピッチでこれが並ぶ。内側には雨水を落とす配管が通っている。一方、奥に引っ込んだ箇所は開口部だったり壁だったりするが、どちらであろうと外観の印象には影響を与えない。長期で持たせる構造躯体と短期で取り替えていく内部のしつらえで、建築を分けて考え、それぞれ適切につくっていくスケルトン・インフィルの考え方を、外装に応用したものだ。「病院の設計は、計画の時点から施工の段階に至るまで、非常に変更が多い。今回もそうだったが、この外装システムを採用したおかげで、柔軟に応じることができた」(谷口嘉彦氏)。

白石を混ぜ込んでサンドブラスト処理をしたコの字型断面のPCa(プレキャストコンクリート)リブは、内側に雨水の配管を通している

敷地を使い切るコンパクトな病院計画

敷地は鉄道駅のすぐ前。利便性は高いが、大規模な病院を建てる敷地として広いとはいえない。そのために、バリアフリー特例などを用いることにより、もともと許容された容積率400%を上回る床面積を確保している。個室率を上げるために、一部の病室では挟み込みの平面を採用。病院の運営は、あらかじめ民間の医療法人が指定管理者になることで決まっていたが、安定的な経営を行う面からも、敷地の条件を限界まで使いきった設計は、大きな貢献となるに違いない。また6階に使われていない空間があるが、これは将来対応のスペースを想定したもの。「外装だけでなく、こうした点でも変更への対応をあらかじめ見込んで設計している」と 東武史氏は言う。

病室では医療コンソールを家具と一体化させ、ナースステーションでは緑・竹をモチーフにしたグラフィカルなデザインを採用

自然環境へのふれあいが早期退院をうながす

コンパクトな病院設計が目指されたが、建物内を歩いても窮屈な印象はまったくないだろう。4階の高さには中庭があり、病室がある階にはこれに面したポケットリフレッシュコーナーを設けた。入院患者もここから中庭を介して他の階へと視線を向けられる。また7階には屋上庭園があり、ここからは生駒山の美しい眺めを楽しむことができる。「滞在時間に応じて、患者ごとに自然環境と触れ合える仕掛けを採り入れた。これが患者の離床効果を上げ、早期退院をうながす」と松田氏は考えたという。インテリアでは、色調や素材感で外観との連続性をもたせながらも、曲面を多用した有機的なデザインを採っている。ナースステーションや廊下の壁面には、緑色のストライプをあしらった。竹林を想起させるグラッフィックデザインは、茶筅を特産品とする生駒市の人々に好評だ。

屋上テラスがある7階では、生駒山を借景にして庭園の景色を楽しめる。病室の廊下からは中庭を介して他の階へと視線がつながる

災害時にも機能する構造と設備

構造は鉄骨造。これが地下の免震層の上に乗る。鉄骨免震構造は、石本建築事務所でも初めての採用だった。「これにより大きな工期短縮の効果を上げることができた」と構造を担当した 石田昭浩氏。設備の面でも、ガスコージェネレーション、非常用発電、医療ガスボンベなどを備え、災害時でも医療活動を継続できる体制を整えた。「非常時に水道水が使えなくなった時のために、井戸水を利用できる装置も備えた」(澤村敏彦氏)という。機能性とデザイン性を両立させた生駒市立病院は、いままでの病院建築のイメージを打ち破る快作として石本建築事務所「技術奨励賞」の社内表彰を受けた。また建設した生駒市や運営する病院からも喜ばれているという。

有機的なモチーフを用いた天井デザインでは、白い箇所が動線、黒い箇所がたまりの空間に対応し、来訪者をわかりやすく誘導する
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

松田 修平
大阪支所 主事
石田 昭浩
大阪支所 次長
谷口 嘉彦
大阪支所 次長
澤村 敏彦
大阪支所 環境設備担当 次長
東 武史
大阪支所 主任
長瀬 信太
大阪支所 主事

生駒市立病院

プロジェクト
メンバー

意匠
谷口 嘉彦/松田 修平/東 武史/遠藤眞人/山口 英三
構造
村田 輝彦/石田 昭浩/安部 良治/宮久保 亮一/長谷川 純/山下 真一
電気
長瀬 信太
機械
澤村 敏彦

作品データ

施工
株式会社奥村組
敷地面積
5500m2
建築面積
3632m2
延床面積
2万8094m2
階数
地下2階・地上7階
構造
鉄骨造
工期
2013年8月~2015年4月
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