オフィス/庁舎

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  • 全国信用組合会館

CONCEPT

まちの「未来づくり」の場所

クライアントの歴史や理念に耳を傾け、プロジェクトの目指すべき方向性を共有し、ともに未来を考え、次の時代の活動の場を創造する。
この分野では、まちづくりや地球環境について考えると同時に、そこで働く一人ひとりの意見に向き合う必要があります。広い視野を持ちながら、小さな問題に取り組む柔軟さを大切に考え、設計に取り組んでいます。

INTERVIEW

設計部門建築グループ 東京オフィス マルコ・コルベッラ
設計部門建築グループ 東京オフィス 舩越 克己
設計部門建築グループ 東京オフィス デジタルイノベーショングループ 長田 純一
設計部門建築グループ 大阪オフィス 藤本 良寛
設計部門建築グループ 札幌オフィス 笹島 幹広

地域にひらく、街とつながる

笹島:庁舎は、手続きのための場所ではなく、その地域のコミュニティの核となるべき施設です。市民の交流・情報共有によって「自主のまちづくり」を支える、まちの「未来づくり」の場所であると考えます。五ヶ瀬町役場では、町のメインストリートに面して町民スペースを配置しました。これは、イベント利用できる場というよりもむしろ気軽に立ち寄れる日常のスペースとなることを意図しています。そこで、お年寄りが歓談したり、近くの中学生が親と待ち合わせている場面を目にしたときは、設計者として嬉しかったですね。

長田:地域の文脈を読み、それを建築に取り込むことも重要です。上田市は、真田丸でも有名な城下町で、戦国時代に敵を迎え撃つためにつくられた「カギ型」の街路がいまも残っています。上田市庁舎の設計においては、このクランクした通りの形状を再解釈し、1・2階の各所にクランクした「溜まり」の空間を設けています。市民が語り合い、くつろげる空間として、土地の歴史の一部を建築計画に活かしています。

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藤本草加市庁舎においては、かつての「草加宿」の沿道景観の再生を担う事業になることを願って、関東町家にみられる深い軒下空間と存在感のある屋根を外観デザインに取り入れました。また、八潮市庁舎では、隣接するホールで開催される成人式や音楽祭と連携したイベント空間として、半屋外の市民活動スペースを設けています。誰もが一度は訪れる庁舎の設計においては、「ふるさとの記憶として市民の心に刻まれる風景」をつくることに努めています。

マルコStage Felissimoのクライアントは、本社ビルを「自社のためだけではなく街のために活かしたい」という強い意志を持たれていました。市民同士、市民と社員、社員同士がそれぞれ出会い、イノベーションが生まれる「舞台」に、という思いが「Stage」という名称に込められています。ワインバーやレストラン(街のデッキから直結)、市民も利用できるホールを配置した低層部には、多くの一般市民の往来が見られ、コンセプトが活かされていることを実感しています。

Stage Felissimo(兵庫県神戸市 2021年)
  • 草加市庁舎(埼玉県草加市 2023年)
  • BOATRACE六本木(東京都港区 2019年)

「環境配慮」を、実践し、表現する

笹島五ヶ瀬町役場は、建物中央に配置したエコボイドからの自然通風・自然採光や、タスクアンビエント照明、シミュレーションにより角度を検討した外壁の木ルーバーによる日射制御などの環境配慮技術を採用しています。また、ルーバーや内装には、地場の主要産業である林業の技術を活かして町産木材を多用しています。庁舎建築は、市民の誇りとなる、その土地ならではの個性を持たせることを常に意識していますが、それが、高い環境性能とともに実現できたプロジェクトだと考えています。

舩越亀有信用金庫本部本店においては「シンボル的な省エネオフィス」というテーマを掲げ、地域や支店をリードする環境負荷低減のアイデアを多く盛り込み国交省の省CO2先導事業に採択されました。外観を形成する水平ルーバーでは日射抑制効果を最大化させるための多くのシミュレーションを重ね、その結果として生まれたファサードが新たなシンボルとして街に現れ、積極的に省エネに取り組む地域密着型の金融機関としてメッセージを発信していると考えます。

長田:私は、石本の「環境統合技術」に惹かれて入社を志望しました。そんな私にとっては、上田市庁舎の設計を経験できたことは大きな喜びです。上田市庁舎では、城下町の高さ制限がある中で基準階高を低く抑える必要がありましたが、その中でも広く快適な執務空間をいかにつくるかがテーマになりました。具体的には、構造の梁を照明設備と一体的にデザインし、天井ふところの小さい水冷媒放射空調パネルを空調設備かつ照明のリフレクタ面として計画しています。意匠・構造・設備の高度な融合-まさに「環境統合技術」を実践できたと思っています。

五ヶ瀬町役場(宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町 2021年)
上田市本庁舎(長野県上田市 2021年)

企業の「理念・姿勢」を形にする

藤本:民間企業のオフィスにおいては、地域貢献・社員へのウェルビーイング・地球環境配慮といった要素は、現代ではもはや当然備えなければならない「基本性能」であって、そこに企業固有の「アイデンティティ」をいかに重ねることができるかが大切だと考えています。BOATRACE六本木では、地域に開放した緑と水の憩いの場を設け、地域に溶け込むオフィスビルを目指しました。BOATRACEの根幹は社会貢献事業ですので、心地よい空間の提供やにぎわいの創出、災害時の受け入れなどを通し、地域との接点となる本部ビルにおいても社会貢献を実践しています。

舩越:それは、「企業が大事にするテーマを建築を通じて深めていく」とも言えますね。全国信用組合会館においては、クライアントのアイデンティティである「安心・信頼」「清廉・堅実」を表現する事を目指しました。標榜する概念を建築という存在に昇華することを意図し、通りに面する4面を同じ立体格子フレームデザインとすることで、周囲の裏通りを表に反転してしまうような「裏表のない建築」としました。これにより周辺の大型開発に決して埋没しない存在となっています。

マルコ:先ほど触れたStage Felissimoにおける「街とつながる」というコンセプトも、阪神大震災直後からクライアントが抱き続けていた「復興の役に立ちたい」という意志から生まれています。このプロジェクトは、多くのデザイナーやビジネスプランナーとの協働プロジェクトでしたが、関係者はみなクライアントの姿勢に感銘を受け、情熱を注ぎました。私にとって、同じ目標に向かって一丸となって取組む、コラボレーションの楽しさを体験する貴重な機会になりました。

  • 全国信用組合会館(東京都中央区京橋 2019年)
  • 読売並木通りビル(東京都中央区銀座 2019年)

これからのオフィス・庁舎に、私たちのできること

笹島:庁舎も民間のオフィスも、就業者が長い時間を過ごす場所であるという側面があります。執務の効率などの機能面に加え、職員のウェルネスにも一層の配慮が必要です。でも、それは単に、いわゆる「リフレッシュコーナー」を設ければ済む、というものではありません。五ヶ瀬町役場においては、エコボイドを通じた自然採光や自然通風、周囲の豊かな山の景観や、せせらぎの音などの自然環境を、執務空間においても感じられるよう配慮しました。

長田:コロナ禍を契機に急速に普及した、リモート・ワークやハイブリッド・ワーク、フリーアドレス化などの動きも、今後、ロボティクス・メタバース・AIなどの社会状況の変化に合わせて変わり続けるものと予想されます。これらのコンテンツの進化の速度は、おそらく私たちの予見を上回るものだと思います。でも、たとえば、スマートフォンやPCは「OS」や「ソフト」を入れ替えることによってハードウェアを変えずとも時代に合った使いやすい状態にアップデートできますよね。建築も、まさに「OS」のように、増加・変容するコンテンツにあらかじめ備えることは可能だと思います。同時に、時代が移っても変わらないもの -光や風、その土地の歴史など- を大切にするという設計姿勢も堅持しなければいけないと思います。

舩越:働き方の考え方が急速に変化しているのに対し建築の在り方については変化のスピードがもっと遅いですよね。建築がそうした使われ方のタイムラグを受け止めつつ長い寿命でその場に存在するものとしてどうあるべきかを考えていくと、「フレキシビリティの在り方」が重要なテーマではないかと考えています。そこに必要なのは、「何にでも対応できること」ではなく、「未来を読み、今何を選択するか」という感覚です。例えば様々な用途変更などを見据え法令への対応を幅広く検討しておくことや、将来の空間・設備の変更を見据えておくという検討が挙げられますが、そのひとつひとつに現在から未来の時間軸の中で何かを獲得して何かを捨てるという選択が生じます。フレキシビリティというと個性や独自性をそぎ落としていくようなイメージがあるかもしれませんが、そのような選択の集積にこそ結果的に設計者の個性が現れますし、クライアントとの議論の結果がその建築の唯一のフレキシビリティの在り方を創り出すと思っています。読売並木通りビルでは並木通りに面する間口を最大限にオフィススペースとして使い切る事を大事にし、将来的に区割が細かくなっても事業価値を最大化させる建築として設計を行いました。結果的にオフィス仕様の建築でありつつも、テナントの要望によってホテルに変更し多くの客室に分割させる事ができました。将来的にはオフィスに戻すこともできますし、銀座という一等地で時代の変化に追随することを大事にとらえた結果だと思います。昨今の変化の多い時代の中では未来のことをクライアントと一緒に想像し、あるべき与条件から考えるという姿勢が設計者に求められると考えています。

藤本:フレキシビリティについて言えば、たとえば八潮市庁舎においては、将来の人口減少に伴う職員の減少を見越して、あらかじめ建物の一部を図書館などの公共用途に転換できるよう計画しています。 また、これまで多くのオフィスビル・庁舎の設計を担当してきましたが、「コア周りの計画」がオフィスの持続性に影響すると考えています。効率性を重視しコアを極力コンパクトにつくる技術は身についていると思っていますが、そこにさらにゆとりや潤いを持たせることで、建築の魅力も高まります。効率的かつ魅力的なコアをもつ名オフィスを不断に研究するようにしていますね。

マルコ:人材が流動する社会においては、有能なタレントを集めるためにもより魅力的なオフィス環境が求められます。リモートワークの普及等によりオフィス床の需要が減っていくという予測もありますが、それを、「総床面積が減る」というよりも「一人当たりの面積が増える=ゆとりが生まれる」と捉えて、社員のウェルネスを満たす環境の創造に結び付けたいですね。やはりヒトはひとつの「tribe」ですから、「一緒にいたい」「顔を見て話したい」と根源的に思うものではないでしょうか。その意味からも、今後もオフィスという「場所」は求められ続けると思いますね。

DESIGN STORY

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