地域との結びつきを形にしたシンボルタワー
銀行の創業100周年を記念して建て替えられた新本店ビル。街の景観に配慮しながら、周囲から抜き出た高さのシンボルタワーとすることで、地域を代表する金融機関であることを示した。災害時の地域貢献も強く意識して、帰宅困難者を受け入れられる非常時自立型省エネビルとしても設計されている。通り側には人が溜まれる広場のような都市空間を提供。街に開かれた銀行を形として示している。基準階の平面は東側にコアを寄せるという常識を破った計画だが、これは西にある宍道湖への眺望を確保するため。湖面に沈む夕日の絶景と良好な執務環境を両立させるべく、竪ルーバーやアピアランス制御といった技術が取り入れられている。
「GREEN BANK」をコンセプトに掲げる
島根銀行は島根県と鳥取県に34の営業拠点を展開する第二地方銀行だ。創業は大正4年(1915年)。開業100 周年の記念事業の一環として、この本店ビルを建設した。敷地はJR松江駅の近くで、人通りも多いところ。既存の松江駅前支店と隣地を合わせて敷地とし、建物の規模を大きく膨らませて本店とする建て替えである。指名プロポーザルを経て設計者に選ばれた石本建築事務所のチームは、まず「GREEN BANK しまぎん」というトータルコンセプトを提案した。グリーンは島根銀行のコーポレートカラーであるとともに、エコをイメージさせる色。また安心・安全を表し、松江のお茶の文化や自然とも通じる。「わかりやすい言葉で、銀行側とコンセプトを共有できた。竣工後のCMにも『GREEN BANK』が使われていてうれしかった」。設計を担当した十河氏は語る。
災害時の帰宅困難者を受け入れる非常時自立型省エネビル
建物は地上13階建てで、最高高さは約66m。松江駅前では1番の高さであり、このエリアにおいてシンボリックな存在感をもったタワーとなる。一方で、松江市の景観条例にも適合させないといけない。松江城の天守からの眺望をシミュレーションして、山並みのシルエットから突き出さないことを検証して確かめた。構造では中間階免震の方式を採用し、免震装置を2階と3階の間に設置。これを支える低層部の柱は斜めに傾けた。「これにより、営業室や駐車場が入る低層部に広い間口を確保することができた」(宮久保氏)。また、この建物は、太陽光発電、蓄電池、自家発電機、雨水再利用など、先導的な省CO₂設備を数多く採用して国土交通省の省CO₂先導事業に選ばれたほか、災害時には約100名の帰宅困難者を受け入れられる非常時自立型省エネビルにもなっている。松江市とは協定を結んでおり、インフラ復旧の状況などを伝える駅前の情報発信拠点としても機能する。
人が溜まれる杜のような前面広場を創出
「駅前通りに面した低層部は、大きな庇をのばして日影をつくり、ここにベンチやデジタルサイネージを設けて、人が溜まれる広場空間を創出した。高木の植栽と庇を支える3本組の斜め柱が、杜のような雰囲気を生み出している。中に入ると吹き抜けのロビーで、階段の途中がステージのようになっている。ここでイベントを催すこともあるという。2階にはお客さんを招くセミナー室もあり、そうした活動は大きなガラスを通して外からも見える。銀行といえばかつては威厳をもった外観で、閉ざされた印象であることが多かった。しかしこの建物では、地方銀行として地域とのつながりをデザインに表し、街に開かれた構えとしている。
常識破りの西向きオフィスを実現するための技術
敷地は南北に長く、狭い幅で道路に接している。そのため、片側にコアを寄せた平面計画を採らざるをえない。一方、敷地の西側には宍道湖がある。湖面に沈む夕日の美しさが有名で、地元の人たちからもその夕景が代えがたいものとして愛されている。そこでこのビルでは基準階のコアを東側にまとめ、西側に大きな窓面を設けることで、宍道湖への眺望を最大限に確保した。しかしオフィスビルの設計では、西日が入るのを防ぐため、西側を閉鎖的にするのが常識。それを破りながら、しかも快適な執務環境を実現するため、ここでは2つの技術を盛り込んでいる。ひとつはルーバーで、外側に奥行き60cmの竪ルーバーが1mの間隔で並んでいる。もうひとつがアピアランス制御で、照明計画において従来の照度ではなく輝度を用いることで最適な照明制御を行うというものだ。ブラインドの羽根の角度もこの自動制御により日が傾くにつれて閉じていくのだが、日没間際になるとブライドが再び開き、宍道湖に夕日が沈む景色をオフィスから味わえるプログラムになっている。「街のアイデンティティに寄り添った設計ができた」と佐野氏は語る。
ワークショップで若手行員の声を聞く
この本社ビルには一般的な事務室や役員室以外にも、様々な部屋が設けられている。12階は食堂で、その外側には宍道湖を見晴らす屋上テラスがつながっている。また、更衣室がある5階にはコミュニケーションホールと名付けられたスペースがある。ここは行員の休憩のほか、就業時間外に資格取得等の勉強を行うためにも使われる。こうした共用空間は、アメニティを高めるだけでなく、異なる部署の間をつないでいくコミュニケーション装置の役割も果たす。設計に際しては、行員の参加によるワークショップも実施された。「どういう空間が欲しいのか、どういう使い方をしたいのか、最前線で働く若い行員たちの声を集めることができた」と、十河氏はその意義を振り返る。
MEMBER
- 十河 一樹
- 設計監理部門 建築グループ 次長
- 佐野 健太郎
- 業務企画部門 次長
- 宮久保 亮一
- 設計監理部門 構造グループ 次長
島根銀行本店
プロジェクト
メンバー
- 意匠
- 十河一樹/佐野健太郎/川上義人
- 構造
- 宮久保亮一/松岡洋介
- 電気
- 米山浩一/近藤秀彦
- 機械
- 関根能文/宮島崇
作品データ
- 施工
- 清水建設・松江土建・中筋組・今井産業・カナツ技建工業・大松建設・豊洋共同企業体
- 敷地面積
- 2406m2
- 建築面積
- 1558m2
- 延床面積
- 1万2073m2
- 階数
- 地上13階/地下1階
- 構造
- 鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)
- 工期
- 2014年11月~2017年9月