公園と一体化した複合公共施設
豪雪地帯として知られる新潟県の上越市。その城跡公園に建てられた公民館、ホール、子どもセンターの用途を併せ持つ施設だ。自然に恵まれた敷地環境を最大限生かす計画で、中庭を囲んで配置された5つのブロックの間を廊下が抜けて出入り口となり、外部と内部が滑らかにつながる。音響性能に優れた音楽ホールは、平土間のイベントスペースにも転換が可能。催しがないときにもホワイエの一画がカフェとして使われるなど、日常から居心地のいい場所づくりが果たされている。基本設計の段階では市民参加のワークショプを繰り返し行い、そこでの発言を設計に生かすことにより、身近で良質な公共施設ができあがった。
サクラ咲く公園のお堀端に佇む
近づいていくと、木立の奥に建物が見えてきた。外壁にランダムな間隔で走る縦リブが、周囲の木々と呼応して美しい。敷地は高田公園の一画で、かつてはこの一帯に、徳川家康の六男である松平忠輝によって築かれた高田城があった。春にはサクラが咲き乱れ観桜会で賑わう。そして夏にはハスの花で堀がいっぱいになる。秋の紅葉と冬の雪景色もまた美しい。敷地はその南端で、お堀越しに妙高連峰の美しい山々も望める。この恵まれた自然環境を最大限に生かすため、建物は南の堀にギリギリまで寄せて建てられた。そのために構内道路の位置変更も行っている。「せっかく素晴らしい環境なのに生かされていない。この場所の良さを再認識してもらおうと考えた」とオーレンプラザの設計を担当した福地氏は振り返る。
機能別にまとめられた5つのブロックが中庭を囲む
オーレンプラザは公民館、ホール、子どもセンターの複合施設だ。このうち公民館とホールの機能について、設計者はさらにそれぞれ2つに分け、合わせて5つのブロックに整理した。それぞれのブロックは独立性をもちながらも関係しあう。そしてその真ん中に中庭がある。これにより、異なる機能の間にほどよい距離を保ちながらも、全体に一体感を生んでいる。しかし、設計の初期段階では市の担当者から懸念もされた。多雪地域で中庭を設けると、問題が起こるのではないか、との指摘だ。「庇をしっかりと出し、中庭を下げて雪溜まりをあらかじめ設けることで対処した。結果として問題は起こっていない」と共同で設計を担当した延東氏。中庭の周りには廊下がぐるりと巡る。これに面して各部屋にはガラス窓が設けられた。覗くと内部で行われている活動を見ることができる。内部のカーテンで閉じてしまえば視線を遮ることもできるが、ほとんどの利用者は閉じずに使っているという。「外から見られるのを気にする人は少ない。逆に、自分たちのやっていることをアピールするために、窓枠のまわりを飾ってくれる利用者もいる」(福地氏)。
訪れた人それぞれに居心地のいい場所が
廊下はホールのホワイエとも連続し、またブロックとブロックの間も抜けて、その先が出入り口となっている。そのためこの施設には、出入り口が合わせて7箇所もある。これによって内と外とがより滑らかに繋がり、ロビーと公園に一体感が生まれた。「上越の街で見られる雁木を意識した。道路でもありながら、建物の中でもあるというような」(福地氏)。廊下の天井はワンスロープで一方向に下がっている。玄関を入ってすぐのところが最も高く、南堀側に向かって段々と低くなっていく。これにより、ひとつながりだが多様性のある空間が実現した。外側に見える風景もそれぞれだ。特にホールのホワイエ前は、カフェのスペースになっており、ガラス越しに堀が間近に感じられて気持ちがよい。また、子どもセンターと和室の間は中学生や高校生が溜まる勉強スペースになっている。特に催し物のない日でも、訪れた人はそれぞれに居場所を見つけて、充実した時間をここで過ごしている。
雪の結晶をモチーフにした白いホール
ホールは主に市民による催しを想定し、オーケストラや吹奏楽団の音楽演奏、ダンスや日本舞踊のパフォーマンス、美術団体や地元企業の展示会など、多種多様に使われる。これに対応するべく、様々な利用モードに簡単に替えられる設計となっている。音響反射板を使えばシューボックス型の音楽ホールになり、プロセニアムを出せば演劇や講演会を行える。また座席はロールバックチェアを採用しているので、収納すれば平土間になる。側面の壁の一部を抜いて、ロビーや中庭と一体的に使うことも可能だ。天井は六角形のパターンを透かして上部に気積を確保し、壁は六角柱の繰り返しで複雑な凹凸の面をつくった。これにより良好な音響性能を実現している。ちなみに壁と天井の六角形と白色は、上越に降る雪の結晶をイメージソースとしたもの。「ここにしかないホールのデザインを考えた」(延東氏)という。
ワークショップで利用者の顔が見える設計に
設計を進めていくにあたっては、市民参加によるワークショップが合わせて24回も実施された。そこでは、完成後に施設を活用することになる団体や高校生が、施設をどのように使いたいかを率直に語り合った。細かな要望に応えるために設計は難しさを増すが、一方で利用者の声を聞けたからこそ、大胆な設計の判断もできた。例えば、子どものプレイルームと和室が向かい合わせに位置することについて、騒音の問題が起こらないかとの懸念があったが、和室をお茶会に利用する年配の女性から『私たちも子どもの声を聞きたいわよ、大丈夫』との発言をもらって、踏み切れたという。使い方とは直接に結びつかない仕上げを決める際にも、ワークショップ参加者の顔が思い浮かんだ。「使い手が見えているからこそ、より思い切った提案ができる。公共施設の設計で、なかなかこういうことはない」と福地氏は振り返る。
MEMBER
- 福地 拓磨
- 設計監理部門 建築グループ 次長
- 延東 治
- 業務企画部門 主事
上越市市民交流施設 高田公園オーレンプラザ
プロジェクト
メンバー
- 意匠
- 能勢修治/福地拓磨/延東治/堀真仁/野田和宏
- 構造
- 石川智也/根本崇弘/吉田幹人
- 電気
- 米山浩一/山口寿頼
- 機械
- 関根能文/宮島崇
作品データ
- 施工
- 建築:植木・田中・久保田共同企業体
電気:東光・大和・電設共同企業体
機械:井上・北陸共同企業体
- 敷地面積
- 1万8399m2
- 建築面積
- 4609m2
- 延床面積
- 5004m2
- 階数
- 地上3階
- 構造
- ホール棟:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造/低層棟:鉄骨造/キャノピー:木造
- 工期
- 2015年12月~2017年8月