国内最大級の屋内レジャープール
国内最大級の屋内レジャープールと集会場の複合施設。隣接するゴミ焼却施設の余熱を熱源に利用している。建物は周囲が斜面緑化で覆われ、全体で丘のようなランドスケープを形成している。流水プールや造波プールなど、様々なプールを擁する大空間には、柔らかな3次元曲面で形成された大屋根が架かる。これをジオメトリーとして単純化することで、合理的に実現している。建物を傷める錆や結露の発生を抑えるよう、様々な設計の工夫も凝らした。海のない長野に生まれたこの施設は、四季を通じて楽しめる市民の憩いの場として賑わいを見せている。
丘のようなランドスケープを形成
敷地は長野市を流れる一級河川、犀川のほとり。もともとここには同名の屋内プールとゴミ焼却施設があった。新焼却施設の南側には河川敷の森が広がり、北側には住宅地との間に緩衝緑地が設けられる。また東側の旧焼却施設跡地は公園として整備されることが決まっていた。新しいサンマリーンながのとリサイクルプラザは、新焼却施設の西側に位置する。「緑でゴミ焼却施設を取り囲んでしまおうと考えた」と福地氏は振り返る。そして公園から河川敷へと抜けていく円弧状の遊歩道を構想し、その一部が建物になっているというアイデアだ。周りが斜面緑化され、屋根も低く抑えられているので、周囲と一体になった丘のようなランドスケープを生み出している。それ自体が公園のような建物と言えるだろう。この点が評価され、この建物は2018年の長野市景観賞を受賞している。
美しい壁面を見せる通り抜け可能なアトリウム
緩やかに曲がっていくアプローチ動線はそのまま建物に入り込んで、吹き抜けのアトリウムとなる。天井には地元産材を用いたルーバーが設けられ、これを通して差し込む自然光は、スギ本実の浮造り型枠によるコンクリート打ち放し仕上げの壁面に、絶妙な陰影を浮かび上がらせる。ここではスポーツ観戦のパブリックビューイングや、ダンスのイベントも行われるという。湾曲したアトリウムの外周側はリサイクルプラザで、多目的ホール、展示室、工房などを備える。一方、内周側はサンマリーンながので、こちらは延床面積約7000m²を擁する国内最大級の屋内レジャープールだ。2階には大広間やレストラン、3階には露天風呂を備えた大浴場も備えており、子供からお年寄りまで、幅広い年齢層が楽しめる施設になっている。
明解なジオメトリーで曲面構造を合理的に
プールは扇形の角を丸めたような変形平面の中に、流水プール、造波プール、ウォータースライダー、キッズプールなどを配置している。アミューズメント性の強いエリアは、滝、入江、擬岩などで演出。一方、健康増進を主目的に使われる25mプールは床レベルを変え、植栽で囲んで落ち着いた雰囲気にした。大空間の上に架かる大屋根は緩やかな一枚の曲面で構成されている。ここには明解なジオメトリーを採用、逆三角形断面のトラス梁が単一の回転体面に沿って並ぶような設計とした。「これによりトラス形状が統一でき、製作や加工の合理化にもつながった」(畠澤氏)。天井面のブレースは色を暗くすることによって、トラスだけが浮かび上がって見えるようにした。天井に設ける照明や音響設備の数はなるべく減らし、空調のダクトも設けていない。こうした意匠や技術の積み重ねにより、軽やかな天井のすっきりとした空間が実現したというわけだ。
冬場でもガラスを通して外の景色が見える
プールエリアの空調は、ダクトルートとしてプールサイド下のピットを利用している。床からところどころに突き出たタワーなどから温風を吹き出すことで、居住域空調を実現。天井面は空気の淀みをつくらないように配慮し、除湿した空気を常に流すことで結露を抑制した。さらに工夫したのは外周部のフィンチューブだ。寒冷地の屋内プールでは、冬になると窓ガラスが真っ白に曇ってしまうところが少なくない。ここではカーテンウォールに沿って温水を流すことで上昇気流を発生させ、ガラス面に結露が発生するのを防いでいる。「ここなら雪景色を眺めながら泳ぐこともできる」と畠澤氏は満足気に語る。海がない長野に、雪国ならではの楽しみが味わえるプールができあがった。
プール建築を長持ちさせるための配慮
プール設計の難しさは内部が高温多湿で、しかも塩素を含んだ水分が錆を生じさせやすい点にある。鉄骨の部材も水が付くと錆びやすいので、水が溜まりにくい断面形状の鋼管を主材とし、一部、溝型鋼を使ったところでは水が落ちる向きで用いた。塗料もメーカーとともに慎重に検討して、錆に強いものを選んでいる。またプールが多湿空間になってしまうのは仕方がないが、それ以外の部屋は着衣なので、蒸しては困る。「どこまでがウエットでどこからドライか、天井裏まで気を付けて、境界をはっきりさせた」と添田氏。これをプランが変更されるたびに修正し、チームで共有していったという。また通常であれば床面から4m以内の梁材に耐火被覆を求められるところだが、ここでは耐火性能検証法により耐火被覆面を床から2.5m以内に抑えた。こうした技術面での工夫が、経済性やメンテナンス性の向上につながった。「目に見えないところの配慮で、長持ちする建物ができた」と福地氏は振り返る。
MEMBER
- 福地 拓磨
- 設計監理部門 建築グループ 次長
- 畠澤 正太
- 設計監理部門 建築グループ 主任
- 添田 麻里乃
- 設計監理部門 建築グループ 主事
サンマリーンながの・リサイクルプラザ
プロジェクト
メンバー
- 意匠
- 福地拓磨/添田麻里乃/畠澤正太/吉川淳子
- 構造
- 原健一郎/長岡寛之
- 電気
- 米山浩一
- 機械
- 土屋賢二
作品データ
- 施工
- 建築工事:北野・守谷・北信建設共同企業体
電気設備工事:協栄・丸十特定建設共同企業体
空気調和設備工事:ダイダン・日本ガス工事建設共同企業体
給排水衛生設備工事:金澤・共立建設共同企業体
- 敷地面積
- 2万4429m2
- 建築面積
- 9157m2
- 延床面積
- 1万2329m2
- 階数
- 地上3階/地下1階
- 構造
- 鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
- 工期
- 2016年3月~2017年12月