デザインストーリー
STATION Ai

つながりを生み出すシームレスなプラットフォーム

スタートアップ企業とそのパートナー企業、併せて1000社以上が集まる日本最大級のオープンイノベーション拠点。集まることの意義を企業同士のつながりと捉えて、スキップフロアをらせん状に連続させた長大なひとつながりの床面を設定し、そこに間仕切り、什器、カラースキームなどで多様な場をつくり上げていった。公園に面した敷地の周辺環境に対しても、階段状に連なるテラスで接続を表している。建築のデザインが促す様々なつながりによって、この場所から新たな産業が生み出されていく。

日本最大級のオープンイノベーション拠点

愛知県はこれまでにも日本を代表する多くの企業の発祥地となってきた。これからもこの地から新たな産業を生み出し続けていくために、県はスタートアップ企業の支援を戦略的に推進している。その中核を担う施設として整備されたのが「STATION Ai」だ。PFI事業者としてソフトバンクを代表企業とするグループが選ばれ、これに石本建築事務所は当初から参加し、設計・工事監理を担った。建物内には、スタートアップ企業やパートナー企業向けのワークスペースのほか、働く人や企業活動を支えるイベントスペース、カフェ・レストラン、託児所、テックラボなども備える。 また最上階の7階には、ホテルやフィットネスジムといった機能も収めている。「2万m²を超える延べ面積に1000社を超える企業が集まった、日本最大のオープンイノベーション拠点」(設計部門 CPグループ統括 小林一文氏)である。

公園側から見た全景。スポーツ施設の軸線が建物へとつながっていく

ここでしか得られないつながりを生む4つの「S」

こうした大規模なオープンイノベーション拠点は日本国内にまだ前例がなく、設計者は建築のあり方を根本から考えなければならなかった。「ここに集まることの最大の価値とは何か。それについて、我々は徹底的に議論した」と設計を担当した細野卓也氏は振り返る。導き出された答えは、入居する起業家が互いに、あるいは支援するパートナー企業と領域を越えて自然につながれること。ここでしか得られないつながりを生むために、建築は完結した箱のようなものではなく、シームレスなプラットフォームとしての形が求められている。そのような認識から、「スパイラルフロア」「スロープボイド」「ステップテラス」「セブンスカラー」という4つの「S」が設計のポイントとなった。

「ステップテラス」(左)や「スロープボイド」(中)が各フロアをシームレスに結ぶ

らせん状に連続する総延長1kmのワークスペース

建物は東西方向に100mほどある細長い形状である。これをあえて南北に2分割し、各階の高さをずらしてスキップフロアの構成を採っている。これにより厳しい日影規制や空地率をクリアしながらも、必要とされる床面積を満たすことが可能になったという。東西の両端部は段床状のラウンジ空間でつながっており、ワークスペースは「スパイラルフロア」として下から上まで連続していく。その総延長は約1kmにも及ぶ。南北のワークスペースの間には吹き抜け空間が挟まっており、その両側にはスロープが配されている。この「スロープボイド」が物理的な人の移動とともに視覚的な結びつきも生んでいる。またこのスロープは建物内を日常的に移動しているロボットの動線にもなっている。

建物中央部の吹き抜けをめぐるスロープはロボットの動線にもなっている

多様な領域をつくり上げるカラー展開とアート

建物の北側は桜の名所としても名高い鶴舞公園に面している。周囲とのつながりを可視化するのが、外階段でつながっていく北面の「ステップテラス」だ。公園内には公会堂やスポーツ施設が点在し、図書館、病院、大学といった施設もすぐ近くにある。入居する企業と教育施設、医療施設との連携も視野に入れている。インテリアのデザインでは、カラー展開のルールとして「セブンスカラー」=7つの色を設定。床の色に用いることによって領域を生み出している。ただし床の色による領域分けは、間仕切りや什器による領域分けとは一致しておらず、ユーザーによる空間の自由な使い方を妨げるものではない。建物内の各所にはスタートアップ企業のヘラルボニーが扱う知的障害を持つアーティストの作品が飾られ、これがまた空間に個性を与えている。

ワークスペースは床の色などで領域が緩やかに分けられ、アーティストの作品が景観にアクセントを付けている

施設の進化を見つめ関わりを続ける

「STATION Ai」の中では、大小合わせて年間1000件以上のイベントが催されているという。そうした機会ばかりでなく、多様な場を内包するひとつながりのプラットフォームの上で、人々は偶発的に出会い、刺激し合う。実際に入居者同士による協働の事例も生まれてきているという。入居希望者は想定を上回る勢いで増え、運用開始して1年も経たないうちにワークスペースの個室や固定席を増やしたが、そうした改修にも柔軟に対応することができた。実は石本建築事務所もテナントとして入居している。設計担当者のひとりである名古屋オフィスの西河辰彦氏は「施設がどう活用されていくのか、継続的に進化を観察し、運営者と一緒になって関わっていきたい」と語った。

一般利用者にも開放された飲食スペース(左)とスキップするフロアの間に設けられた階段上のラウンジ(右)
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

小林 一文
常務執行役員 設計部門 CPグループ統括
細野 卓也
設計部門 建築グループ 次長
西河 辰彦
設計部門 建築グループ兼環境統合技術室 主事

STATION Ai

プロジェクト
メンバー

意匠
小林一文/細野卓也/西河辰彦/植田隆也/金子佳弘(元所員)
構造
吉田幹人(元所員)/加賀爪康平/丸山仁志
電気
中島静
機械
松田知浩/杉本恭祐

作品データ

施工
フジタ
敷地面積
7,303m2
建築面積
4,488m2
延床面積
23,613m2
階数
地上7階
構造
S造
工期
2022年11月~2024年9月
実績ライブラリ