デザインストーリー
相模女子大学小学部特別教室棟 さくら館

温もりが感じられる木の学習空間

自然が豊かに残る広いキャンパスの一角に設けられた小学部の特別教室棟。学校側の希望もあり、木造が検討されたが、一方で将来の間取り変更にも十分対応できるよう、フレキシブルな平面が求められた。両者を満足させる合理的な方法として設計チームが選んだのは、鉄筋コンクリート造を基本としながら、屋根構造として集成材を使った木造の梁を長辺方向に架けること。加えて短辺方向には鉄骨の梁も組み合わせて、木、コンクリート、鉄の短所を補い合う構造デザインとした。 木の構造がそのまま現れた室内は、温もりが感じられる学習の空間となっている。サクラ並木に面して開放的な建物外観は、キャンパスの顔となる建物になっている。

並木道に面してキャンパスの顔となる建物

相模女子大学は1900年、東京で創設された日本女学校を前身とする歴史ある女子大学だ。1946年に神奈川県相模原市に移転。大学だけでなく、付属の高等部、中学部、小学部、幼稚部なども整備されていった。広大なキャンパスには、サクラ、イチョウ、クロマツなどの木々と校舎群が混じって建ち、恵まれた学習環境をつくり上げている。石本建築事務所では、以前からキャンパス内の施設設計に関わっていたが、今回、新たに手がけたのは小学部の特別校舎棟。音楽室、図工室、理科室、多目的室などを収めるもので、長年、プレファブ校舎を併用してきた小学部にとっては、念願のプロジェクトだった。

桜の並木道に面して大きな開口部をとった北東側の外観

木の存在感と温もりのある空間

キャンパスのマスタープランを踏まえて定められた建物の位置は、正門からつながる並木道に面したところ。在籍する児童が目にするだけでなく、入学を希望する子供たちやその親も、学校を訪れてまず目にする建物となる。相模女子大学小学部の顔としてふさわしい校舎のデザインが求められた。さらに学校から要望されたのは、児童たちにとって、ストレスの少ない校舎にしたいということ。そこから浮かび上がったのが、木造で建てるということだった。「木を使えば、暖かみのある空間、木の存在感を生かした学校の顔となる校舎がつくれる」と設計を担当した谷田侑実子さん。これには学校側も積極的で、木造による新校舎の設計が取り組まれることになった。

児童の作品を展示するギャラリー(中央)や2階教室(右)にも木の梁が現れ、内観に暖かみを感じさせている

木材にコンクリートや鉄骨を組み合わせる

しかし、乗り越えなければならない問題もあった。木材は軽量で見た目に優しいという長所がある半面、耐火性能の面では劣る。また、フレキシブルな平面計画が求められたが、それに対応する大スパンの構造が木造では難しいのだ。そこで木造のよさを取り入れながらもその欠点を鉄筋コンクリート造や鉄骨造が補う、複合的な構造方式が採用されることになった。この建物では基本構造を鉄筋コンクリート造とし、そこに逆L字形に木材を並べて東側に壁と屋根を支える構造としている。使用しているのは、燃え代寸法45mmを取った集成材で、これを建物の長辺方向に合わせて900mmのピッチで並べた。一方、短辺方向には、鉄骨の梁を7500mmのピッチで架けている。

屋根の架構は逆L字形の木材を並べて、それに鉄骨の梁を組み合わせたハイブリッド構造(左・中央)

将来の間取り変更にも容易に対応

木と鉄骨のハイブリッドで屋根構造を採ることにより、その下には22.5 X 10.8mという大きな無柱空間を実現した。また、床も一部アンボンドPC内蔵の中空スラブとすることで、柱や梁が室内に出てくることがないようにしている。これにより、現状は3つの教室に間仕切りで分割して使われているが、将来の間取り変更にも容易に対応が可能。しかも、インテリア空間にヒューマンなスケールが保たれている。「鉄骨梁は細くて間仕切りと一体化してしまうため、意識されることはない。木の梁だけが見える」と構造を担当した長谷川純さん。確かに、この校舎を訪れた人は木造の建物として認識することだろう。素材を合理的に生かした構造の計画だ。

鉄骨梁は教室の間仕切りと一体化(中央・右)。アンボンドスラブの採用で1階教室にも梁は出ない(左)

サクラの風景が目に飛び込んでくる

設計の特徴がもっともよく現れているのが、東端に位置する音楽室だ。2層に吹き抜けた階段状のホールで、学年ごとに全児童が集える広さとなっている。室内には逆L字型の木の構造がそのまま現れ、それ以外の壁や床も木質の材料を使っている。木に包まれたようなインテリアだ。そして北面は全体がガラス張りで、サクラ並木の風景が大きく目に飛び込んでくる。「さくらホール」と名付けられたこの空間では、全校児童による合唱の練習や、クラブ活動の発表会などが行われる。サクラの花が咲く頃には、花見会にも使われるという。地域の交流拠点としての機能も期待されている。外から見た時の開放的な立面は、サクラの木々と重なって、この学校の魅力を端的に伝える。「自然豊かなキャンパスに調和して、小学部のシンボルとなる校舎をつくることができた」と設計チームを率いた中山貴さんは振り返った。

2層吹き抜けの音楽室では北側のガラス面を通してサクラ並木の風景が大きく目に飛び込んでくる
※所属・役職はインタビュー当時のものです。

MEMBER

谷田 侑実子
設計監理部門 建築グループ 主任
中山 貴
設計監理部門 建築グループ 部長
川島 洋平
設計監理部門 建築グループ 主事
長谷川 純
設計監理部門 構造グループ 主任

相模女子大学小学部特別教室棟 さくら館

プロジェクト
メンバー

意匠
中山貴/川島洋平/谷田侑実子
構造
石川智也/甲斐信広/長谷川純
電気
山口寿頼
機械
萩原啓太

作品データ

施工
松井建設株式会社 東京支店
敷地面積
17万3088m2
建築面積
580m2
延床面積
964m2
階数
地上2階
構造
鉄筋コンクリート造 一部木造・鉄骨造
工期
2015年11月~2016年8月
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