環境統合技術室
第9回環境建築フォーラム
ZEmB(ゼンブ)
環境統合とゼロエミッション
2024年3⽉22⽇ 17:30~20:00
座長:金子尚志 / 講師:村田 涼(東京工業大学准教授)
身体・建築・自然(Passive and Responsive)
(千葉工業大学・金子尚志)
- 今回は、「ZEmB(ゼンブ)環境統合とゼロエミッション」というテーマを設定しました。毎回フライヤーを作成していますが、今回はホール・アース・カタログ(※)をもう1つのテーマにしたいと思い、このような副題を付けています。ホール・アース・カタログの受け取り方は年代によって違うかもしれませんが、よく知られているところでは、最後のページに記されている「Stay hungry. Stay foolish.」という言葉があります。これはスティーブ・ジョブスが講演した内容としても知られています。フライヤーに採用した趣旨としては、やはり全体を理解することが重要なのではないか、それぞれの時代に合わせて全体を俯瞰しながらその状況を捉えていく、そのような意味でこのようなフライヤーのデザインにしました。今日は、私の20年来の友人でもある村田先生をお迎えしていますが、このテーマにはとてもふさわしいのではと考えています。第6回からZEBに関連するテーマを始めていますが、ZEBからZEmBということ、そしてもう1つはここにある15項目の未評価技術も考慮しながら、ZEmBということを考えていけるとよいと思っています。いつものように、最初に私から前振りとして短めにお話をさせていただいて、その後に村田先生の講演を、最後は皆さんと議論ができればと思います。
※Whole Earth Catalog(ホール・アース・カタログ):スチュアート・ブランドによって創刊された雑誌
- 私からお話しする内容は、「身体・建築・自然」というテーマで、「身体感覚と地域資源」というサブタイトルを付けました。このダイヤグラムは、私と村田先生の共通の師匠である小玉祐一郎先生が長く使っていたものです。「建築や都市は言うまでもなく人工物だが、人工と自然の関係の再構築が問われている。エネルギーの問題はここにも大きく関わっている」ということ。脳、それから形を作っている身体、そしてその場合は建築側に自然がある、脳と建築の関係、身体と自然の関係という二重の入れ子のような、そういった言葉を使って表現されていました。この小玉先生の考えを私なりにいろいろと検討してきて、現在私はどのように考えているのかについてお話をしたいと思います。
- まず、自然の中には身体、我々の体があって、やはり自然と身体は対峙しているのだと思います。その外側と言ってもいいかもしれませんが、身体には五感、身体感覚というものがあり、自然と対峙しながら五感をフル活用して、様々な感覚を身体に届けようとしているわけです。パッシブデザインという視点で見ると、それは太陽熱利用から始まったわけですが、そのような自然環境の恵みを取り入れる、そのことをパッシブデザインと呼んできましたが、私は少し見方を変えて、太陽熱だけではなく自然の多様な要素をパッシブに受け取る、そのように理解するとよいのではないかと考えています。それを受容と表現すると、身体感覚や五感といったものと、とても相性がよいのではないかと考えます。我々は、五感で感じたものを脳で処理するわけですが、その処理をした上で行動に移ります。外界、自然環境から受容したものを、身体・脳を通じてアウトプットしていく。そのまわりに建築が存在していると考えるとよいでしょう。我々の身体のまわりに広がっている建築、さらに自然の中にある建築、そして自然と建築の境界には内・外という境界領域が作られるわけですが、それを単なる境界とは考えずに、柔らかい点線のような境界として考えることも重要ではないかと思います。そして、建築のまわりには自然、都市、地域と広がっていくわけですが、そのまわりには地域資源があって、このように位置づけできる要素が広がっています。その地域の気候、風土、共生の仕方、ランドスケープ、素材、エネルギー、歴史・文化、このように広がっている要素を活用するには、現象・科学といったものが必要かもしれません。
- いわゆる一次的なパッシブデザインは、光や水や風や空気といったものを、インプット=受容しながら、身体との関係性を作るということかもしれません。建築・身体・自然の連携がとても重要ですし、自然環境を受け入れるパッシブ、そしてそれをアウトプットするレスポンシブといったことを考えると、パッシブ&レスポンシブデザインのような図ができるのではないでしょうか。冒頭で紹介したように、小玉祐一郎先生は、身体、自然そして建築という話をされているわけですが、改めてこの広いエリア、広い要素の中で捉えてみると、こんなことなのかなと思います。環境の受容、身体の応答、パッシブに環境や現象を受け取る身体感覚、これが非常に重要だということです。その中で、大きく3つほど重要な点があると思っているのですが、1つは地域資源の発見・発掘。最近、発掘という言葉をよく使うのですが、必ずそこにあるはずだと思いつつ、掘り起こしてみるということなのかなと思います。その地域の資源を要素、価値として発見して、それをデザインへ統合する。そして人・身体感覚という意味では、環境を受容して人の動きに繋げる、建築のデザインに繋げていく。それらを補完するような形で物理的原理や科学的検証、デザインツールとしてのシミュレーション、そういったものを使って相互補完していくとよいと考えています。このような3つのポイントが、今日のテーマであるZEBからZEmBといったところと、どこかで繋がっていくとよいと思います。