環境統合技術室

変わるもの/変わらないもの

社会が変化しても「変わらない」想い

1927年の創立以来、ISHIMOTOは数多くの建築やまちづくりに携わってきました。この間、社会や地球環境は大きく変化しています。昨今の新型コロナウイルスの猛威もその一つと言えます。変化の激しい時代においても、ISHIMOTOが変わらず大切にしている想いがあります。

立原道造は詩人としてその名は広く知られていますが、将来を嘱望された建築家でもありました。1937年、東京帝国大学卒業後、石本建築事務所に入社した私たちの大先輩です。立原が東京帝国大学在学時、80年前に記した「建築衛生学と建築装飾意匠に就いての小さい感想」の中に、現代に生きる私たちが目標とする建築設計・まさに「環境統合技術」の在り方が示されています。

⽴原道造(1914-1939)
⽴原道造(1914-1939)
ヒアシンスハウス スケッチ
ヒアシンスハウス スケッチ
建築計画に関する講義ノートの記録より(信濃デッサン館蔵書立原道造講義ノート)
建築計画に関する講義ノートの記録より
(信濃デッサン館蔵書立原道造講義ノート)

建築衛⽣学と建築装飾意匠に就いての⼩さい感想
⽴原道造

すべての建築学の根本に横はるものは、建築学が⼈間⽣活の重⼤な要素・住の問題を取扱う限りに於て、決して徒らな算式の羅列である建築構造学であってはならないと思います。建築構造学よりも、建築計画学にこそ、⼀層多くの意義・⼀層深い意義を⾒出します。機能と快適の最も合理的な追求である所の建築計画学、それが建築学の根本であります。
そしてその⼀つの分野である建築衛⽣学は、その純粋な、根元的な形に於て、建築計画学の最も重要な位置を占めております。
造型芸術の⼀部⾨である所の建築装飾意匠が、それが他の純粋芸術から著しく区別される機能性のために、応⽤化学の分野と協同しなくてはならないとき、その協⼒者とする者は、

建築学の根本である建築衛⽣学であります。あたかも建築計画学が建築衛⽣学の基礎から出発するのをまねるように、建築装飾意匠もそれを基にして、様々なる意匠をひろげます。近代の建築家の諸作品に⾒られる清純・平静・潔⽩の印象こそ、実にその結実であると感じられる程にそれはただ計画学により与えられた機能と快適の条件をそのまま素直に表現したものであります。
當今、装飾の復興の声を聞くときに、忘れてはならないのは、それが「美学の必要性」 と同時に「計画学の必要性」を持たなくてはならないことであります。ここに思い浮べるのは、過去数年にわたる「美学の必要性」の敗北であり、そして惧れるのはその反動としてここに「計画学の必然性」の敗北をその姿として、装飾意匠が復興するのではないかということであります。
しかし、そういったからといって衛⽣学と美学の妥協や折衷によって新しい様相の装飾意匠が成⽴し発⽣するようにとは思いません。

「美学の必然性」と「計画学の必然性」を同時に追求するときには、根元的な相克がそこに強いられているのでしょう。 その激しい抵抗にあらがって、意匠をしようという意志こそ、今⽇以降の建築家に与えられた、光栄ある問題だと思います。そして、勝利の与えられる⽇に、⼆つの必然性は融合した新しい⼀つの必然性として、意匠装飾の根本に輝かしい姿を⽰すでありましょう。この時代に、戦う全ての装飾意匠家はこの希望に満ちた弁証法を信じることによって、⼒づけられ、恒に雄々しく勇ましくありたいと思います。
算式の氾濫した建築構造学には、すでに今⽇以降にその進歩と寄与を期待しません。過去の僅かの業績でもう⼗分だと思います。そして、新しい建築構造学は、建築衛⽣学・計画学から、他のすべての建築学と同様に出発していくべきではないかと思います。

その時にこそ、建築構造学もまた、真に建築学の⼀部⾨として、建築意匠と⼿を携えていくことができるのでありましょう。
以上、抽象的な概論に過ぎない、しかも論法もない、感想にすぎませんが、 建築学の根本である衛⽣学に基づいた、新しい建築意匠への意志について、綴りました。
しかし⽣学に基づくと⾔いながら、それがどんな姿であるべきかは、今⽇以降の問題としてむしろ実⾏に待つことが多いので、それはこの⼩稿の中で触れることができませんでした。装飾の復興を考えない所謂新しい建築意匠においてなら、その解決は簡単であるかもしれませんが、古典美楽の主張する⽇の必然性をその条件に⼊れた、今⽇以降の新古典派の建築においては、 建築衛⽣学との融合こそ実に興味ある実践問題だと信じます。

受け継がれた想い

本小論文は1936年(昭和11年)3月頃、立原道造が東京帝国大学建築学科2年次の終わり頃に書かれたものと言われています。当時は、構造分野の方々の活躍が目覚ましく、建築衛生学は、建築計画学のなかの一つに過ぎませんでした。しかしながら、本小論文では、建築学は人間が住まうところを取り扱う限り、機能と快適を追及する建築衛生学こそが重要だ、と述べています。
建築衛生学は、今日では、建築環境工学と呼ばれ、熱、光、音、風といった環境を科学するものです。まさに「建築意匠」「環境工学」そして「構造学」が融合した「輝かしい姿」を示すことが、私たちに受け継がれた想いです。
また、文末に“「美学の必然性」と「計画学の必然性」を同時に追求するときには、根元的な相克がそこに強いられているのでしょう。 その激しい抵抗にあらがって、意匠をしようという意志こそ、今日以降の建築家に与えられた、光栄ある問題だと思います。”とあります。
この世紀を超えた宿題には、「優れた建築は、同時に優れた環境装置でもある。」ことの実践で応えたい。変わらない想いを持って、私たち環境統合技術室は進んでまいります。

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