環境統合技術室

第8回環境建築フォーラム

光環境デザイン・
視環境デザイン

2023年10⽉20⽇ 16:30~19:00

座長:金子尚志 / 講師:中村芳樹(東京工業大学名誉教授 VLT代表)、近藤秀彦(遠藤照明)

モノクロームのアルヴァ・アールト
(滋賀県立大学・金子尚志)

今回は「光環境デザイン・視環境デザイン」というテーマで、中村芳樹先生にお越しいただきました。まず私から15分ほどお話をさせていただきます。「モノクロームのアルヴァ・アールト」というタイトルを付けさせていただきました。

今回もフライヤーの写真は私が撮影したものです。中村先生というとMITのチャペルが最初に思いつきますが、これを見た時に「光を視覚化している」と感じました。私はパッシブデザインにずっと取り組んできて、“見える化”に注目していますが、これは本当に“光の見える化”だと思っています。また、同じ時期に見に行ったルイス・カーンのキンベル美術館も、本当に素晴らしい光環境の建築だと思います。
最近私は、モノクロームで写真を撮ることで光や物質を明らかにすることに取り組んでいます。このシグマのカメラは普通のセンサーではなく、それぞれの色ごとに積層されたセンサーを使っていて、これで白黒を撮るとなかなかいい写真が撮れるのです。実は、去年の11月にもアールトの視察に行ったのですが、帰ってきた時に「光と影」というテーマでもう一度見るべきだと思い、今年の8月にもう一度出掛けて撮ってきた写真です。
最初にお見せするのはヘルシンキ図書館です。屋根が3次元の曲面で光と影が綺麗に出ている事例といえます。モノクロで撮ることで、空間の様子、光の様子が、より明らかになって見えると思います。
次はセイナヨキの教会ですが、これもモノクロで撮ることによって、左右の光の様子、右側は直射が入っていて左側は天空光で柔らかいという、光の様子が違うことがより明らかになります。また、外側がどうなっているかというと、これが非常にうまく作られていて、カットの仕方が違いますよね。左側は斜めに、右側はまっすぐカットされていて、ちょうど西側がカットされているのです。これはできるだけ西日を長く取り入れようという工夫なんだろうと思います。
こちらは教会のすぐ横にある付属の建物で、独特のかまぼこ型のタイルがよく知られていますが、これもモノクロで撮ると、光の具合からなぜアールトがかまぼこ型のタイルを選んだのかがよくわかります。
次は有名なセイナッツァロの村役場で、うっすらと天井に縞模様が見えますが、これは外側の池に反射した光が天井に映っています。カラーで見ると、ちょうど窓の下に茶色いタイルの台がありますが、これをモノクロで見ると光が当たった反射板のように見えて、この中でも比較的明るい面になっています。これは議場で、デスクがかなり明るく見えると思いますが、色は黒です。でも光が入っていて革の素材なので、いくらか反射してとても明るく見えています。
続いてユバスキュラの大学の講堂です。ちょうど左上がアールになっていて、結構明るくなっています。光が入ってきてその反射が講義する場所に向かっているのだと思います。光沢のある素材によって、全体の明るさ感がつくられているように思います。
これはユバスキュラの図書館ですが、ハイサイドライトから入った光を受ける面がちゃんと用意されています。ハイサイドライトからの光を下の空間にうまく反射光として落としています。
これはヘルシンキ市内のアカデミア図書館です。ぐるりと手すりが回っていて、トップライトからの光を面で受けて反射しているのだと思います。
これはサヴォイというレストランです。これも天井にいくらか反射するような素材が使われており、部分的に少しハイライトになっている様子がわかります。
次はマイレア邸ですが、外壁の下地のレンガ、その上に漆喰を塗った凹凸の様子がはっきりと現れています。
こちらはパイミオのサナトリウムですが、光沢のある素材で天井が作られていることで、明るさ感がつくられていると思います。これは病室ですが、ブラケットが付いていて、天井のところがなぜか白く塗られています。これはアールトが光の反射を考えて、この部分だけ白くしたという記録も残っています。サナトリウムを設計する時に、そもそも患者は寝て過ごすわけだから、寝て過ごす時に快適なようにしたいと考えていたようです。
次はアールト大学の図書館ですが、これも天井を斜めにすることによって、ハイサイドライトから取り入れた光から反射光を作っています。アールトは斜めの天井にして、外からの自然光を反射させて、室内に取り込むという手法を繰り返し使っています。
これはアールトのスタジオです。真ん中の上のところにトップライトがちらっと見えますが、このトップライトの光を反射させるための壁を階段の横に作っていて、常に光をどこに反射させるか、反射面を作るかということを考えていたことがうかがえます。フィンランドは太陽高度が低くて日没までの時間がとても長いのですが、いかに西側からの光を取り込むかということを考えていたのだと思います。
やはり、太陽高度はとても大事だと思いますが、マイレア邸はすごく不思議な配置をしていて、中庭に向けて北側になっています。プールのある方が北側です。そうするとどういうことが起きるかというと、直射光が入らないで天空光が入ってくる。
ヘルシンキと東京とで太陽の動きがどうなのかと見てみると、だいぶ違うわけです。タイムラプスで撮るとどうなるかと思って撮影してみました。夕方から23時ごろまで撮ったのですが、これが素晴らしく綺麗なんです。日本語で言うと「薄明薄暮」のような、この時間の太陽の自然光の取り入れ方に、アールトは注力していたのではないでしょうか。
また、西側の窓がなぜこんな形なのか、いろいろシミュレーションしてみると、見事に冬の太陽の動きに合わせるかのようにコーナーの窓が作られていて、やはり冬の太陽はフィンランドにおいてはすごく貴重なので、このようにしたと推測されます。
本日は「モノクロームのアルヴァ・アールト」ということでお話をさせていただきました。やはり、アールトは直射光と反射光、反射面、反射面の素材、反射面の色などに非常に注力していたことがわかります。本日のこの後のプレゼンでは、このあたりに注目して聞いていただくのもよいのではないでしょうか。

金子 尚志 (滋賀県立大学)

1967年
東京都生まれ
1992年
東洋大学工学部建築学科卒業
1992年〜2001年
西松建設株式会社関西支店設計課、本社建築設計部
2003年
神戸芸術工科大学大学院修士課程修了
2003年〜2006年
神戸芸術工科大学芸術工学研究所特別研究員
2006年〜2018年
エステック計画研究所
2016年〜
滋賀県立大学環境科学部環境建築デザイン学科准教授
2018年〜
ESTEC and Partner