環境統合技術室

第4回環境建築フォーラム

構造からみた
環境統合

2020年12月24日 17:00~19:30

座長:金子尚志 / 総合司会:環境統合技術室

基調講演:構造からみた環境統合
(滋賀県立大学・金子尚志)

環境統合技術のブレイクスルーへ・構造エンジニアリングの可能性、歴史と素材を振り返る。

金子
それでは、『構造からみた環境統合』ということで、歴史と素材を振り返りつつ、今日の議論のテーマにできればと思います。だいぶ古い事例ですが、シャルトル大聖堂、13世紀、ゴシック建築の空間と光です。ゴシック建築は大空間を目指して造られたものです。光の空間をいかに取り込んでいくかということ。この時代になると、一般の庶民が集まって空間を利用すること、そしていかに高い垂直性の空間をつくるかがひとつのテーマでした。そこに宗教的なイメージを模したステンドグラスがあるという、これもかなり古い事例ですけれども、環境統合のひとつと言えます。そして、外側に造られたフライング・バットレスがこのような空間を可能にしている、構造が寄与している事例です。
シャルトル大聖堂1
シャルトル大聖堂2
シャルトル大聖堂3
続いて、鉄という素材が登場してきます。鉄が産業革命以降、主流になってくる中で、また空間が変わってきます。これはアンリ・ラブルーストのフランス国会図書館の事例です。先ほどのシャトル大聖堂とは空間の質が異なり、天井のトップライトからの光があふれる大空間です。さらに、このドームに白い素材が使われていて、上から落ちてくる光を緩やかに反射しながら下まで届けています。明るい空間となっていますね。
フランス国会図書館1
フランス国会図書館2
フランス国会図書館3
また時代が進むと、今度はコンクリートという素材が登場してきます。これは、建築の歴史の中で必ず登場してくるオーギュスト・ペレの、ル・ランシーのノートルダム教会の様子です。冒頭で紹介したシャルトル大聖堂と比べると、また一段と様子が変わってきます。構造による環境の統合という視点も見て取れます。ヴォールト天井と細い柱が空間の中での一つのエレメントとなっています。平面図でランシーの教会堂とシャルトル大聖堂を並べてみると、明らかに構造的な要素、エレメントが少ないことがお分かりいただけると思います。
ル・ランシーのノートルダム教会1
ル・ランシーのノートルダム教会2
ル・ランシーのノートルダム教会3
続いて、シドニーのオペラハウスです。ウッツォンの作品です。PCの空間と光に焦点をあてます。コンペからの逸話は皆さんもよくご存じかと思いますが、ウッツオンが自由に書いたフリーハンドのスケッチをアラップが構造エンジニアとして円形の断面から切り出すようなジオメトリーを組んで実現させました。私が感心したのは、セル構造の隙間から光が入ってくることです。単に構造を成立させるだけではなく、PCの構造の間から入ってくる光や、場所によっては構造が表しになっている内部空間もあります。海側から見ると、開口が外部との接触点にもなっています。近くで見ると、タイルもプレキャストで造られており、質感も含めて、とても優れた事例だと思います。
シドニーオペラハウス1
シドニーオペラハウス2
シドニーオペラハウス3
もう少し時代が進んでいくと、ケーブルネットを利用したライトコンストラクションが登場します。ここまでは重い素材で造られていましたが、軽いという視点が入ってきました。フライ・オットーのミュンヘン・オリンピック競技場です。軽やかな印象を受けます。クモの巣、自然界にある構造を参考にしたともいわれています。
ミュンヘン・オリンピック競技場1
ミュンヘン・オリンピック競技場2
ミュンヘン・オリンピック競技場3
続いては、構造から見た環境統合、マスターピースから学ぶということで、事例をご紹介します。まずはレンゾ・ピアノのメニルコレクションです。トップライトからの光を、セメントコンクリートの反射板を利用して、緩やかな光に変えて展示空間に落とし込むものです。外部空間にセメントコンクリートの反射板の上を支えている構造が少し見えます。環境をつくるエレメントが構造と共に成立しているという事例で、1997年の事例としては非常に先端を行っていました。
メニルコレクション1
メニルコレクション2
メニルコレクション3
次に、ルイス・カーンのキンベル美術館です。ここでも構造エンジニア・コマンダントが深く関わっています。構造的には難しい部分にスリットが連続して開いていますが、ルイス・カーンがどんな時刻でも均一に光が入ってくる、反射投下を繰り返しながらこの空間を光で満たすことをイメージしたのだろうと思います。それに応えるかのように、コマンダントがこのヴォールト天井を造りました。 サイクロイド曲線といわれるもので、きれいな円形ではありません。これがまた内部空間のある種の質をつくっています。コンクリート面に反射している光は、ある種幻想的です。
キンベル美術館1
キンベル美術館2
キンベル美術館3
最後に、セインズベリー視覚芸術センター、フォスターの事例です。フォスターの建築の作品はたくさんありますが、その中でも構造と環境が統合されている一つの事例だと思って紹介しました。天井から入ってくる光や、設備のスペースなどが統合的につくられている結果、内部空間もすっきりとした無駄のない空間になっています。内部空間ではトップライトからの光が見えます。そして、屋上からは点検もしやすい、こういったメンテナンスのしやすさという点も設備と構造を統合していく上で重要です。
セインズベリー視覚芸術センター1
セインズベリー視覚芸術センター2
セインズベリー視覚芸術センター3
バックミンスター・フラーについて。これは有名な一枚の写真で、左側がフラー、右側が若い頃のノーマン・フォスターです。フラーはご存じのように、少ないものからより多くのものを成すという言葉も残していて、こちらはテンセグリティを楽しんでいる写真です。フラー・ドームやフライズアイドームといったように、少ないもので大空間をつくっていきます。こういったものがフォスターの現在の環境と構造を統合して行くところに継承されたのだと思います。
バックミンスター・フラー1
バックミンスター・フラー2
フライズアイドーム・モントリオール万博アメリカ館
まとめとして先ほどご紹介したフォスターやピアノの事例は、環境デザインと構造デザインの横断といえます。外皮デザインの統合という視点から、簡単なスケッチをご紹介します。環境建築デザイン、光や熱、風をコントロールする役割が外皮にはあります。それに対して、構造デザインは鉛直、加重、水平力というもので外皮・ストラクチャーが、決まります。これまでは、それぞれで考えられていたと思いますが、これを同時に考えられないか、と。環境建築デザインから決まってくる外皮のデザインと、構造デザインから決まってくる外皮の様子をうまく調整しながらひとつの空間をつくると統合になっていくだろうと考えます。私からは以上です。
外皮デザインの統合

金子 尚志 (滋賀県立大学)

1967年
東京都生まれ
1992年
東洋大学工学部建築学科卒業
1992年〜2001年
西松建設株式会社関西支店設計課、本社建築設計部
2003年
神戸芸術工科大学大学院修士課程修了
2003年〜2006年
神戸芸術工科大学芸術工学研究所特別研究員
2006年〜2018年
エステック計画研究所
2016年〜
滋賀県立大学環境科学部環境建築デザイン学科准教授
2018年〜
ESTEC and Partner