環境統合技術室

第4回環境建築フォーラム

構造からみた
環境統合

2020年12⽉24⽇ 17:00~19:30

座長:金子尚志 / 総合司会:環境統合技術室

パネルディスカッション

司会:金子 尚志 パネリスト:横川 和人、原 健一郎、長谷川 純

① 金子 尚志  滋賀県立大学環境科学部環境建築デザイン学科准教授 ESTEC and Partner
② 金田 勝徳  (株)構造計画プラス・ワン会長
③ 横川 和人  東京オフィス エンジニアリング部門統括 兼 技術グループ統括
④ 原 健一郎  東京オフィス エンジニアリング部門構造グループ 部長 兼 環境統合技術室
⑤ 榊原 由紀子 東京オフィス 設計部門建築グループ 部長 兼 環境統合技術室
⑥ 長谷川 純  札幌オフィス エンジニアリング部門構造グループ 主事
⑦ 関根 能文  東京オフィス エンジニアリング部門環境グループ 部長 兼 環境統合技術室
⑧ 植野 收   常務取締役 札幌・名古屋・大阪オフィス統括
⑨ 木村 博則  東京オフィス エンジニアリング部門環境グループ兼環境統合技術室 執行役員
⑩ 高瀬 淑也  名古屋オフィス エンジニアリング部門構造グループ 主事 兼 環境統合技術室
⑪ 八木 唯夫  東京オフィス エンジニアリング部門環境グループ 主事 兼 環境統合技術室
⑫ 近藤 秀彦  東京オフィス エンジニアリング部門環境グループ 主任 兼 環境統合技術室
②~⑫:パネリストならびに発言者

事例1:経済法令研究会本社ビル

横川
このプロジェクトはコンペで受注、竣工は1998年です。敷地は、靖国通り沿い、延床は、既存1360m²、増築が1882m²、合計で約3200m²という建物です。主用途は事務所と付置義務による共同住宅です。1階から6階が事務所、7階から9階が共同住宅です。新棟案も検討しましたが、最終的には、容積率の有利性や駐車場の進入路の制限から既存棟に増築する形になりました。既存棟のトイレを改修し、水回りをコンパクトに効率化できるというメリットもありました。事務所のスペースを広くできるのは大きなメリットですが、既存棟と同じ階高で接して造らないと利便性が損なわれるので、階高の制限が出てきたことが課題でした。
外観
建築概要
平面図・断面図
構造計画の特徴は、16m×12mの平面を無柱で計画すること既存建物の階高と同じ3.2mで、2.6mの天井高さを確保すること。これを実現するのが2大テーマでした。 構造計画としては、外周がSRCの外郭構造、耐震要素を外側に集めて、中を全てブレストレスの小梁で計画し、無柱空間を実現しました。ブレストレスの小梁は梁成を500mmに抑え、天井高さの2600mmを確保することができました。外周の扁平柱ですが、X方向は3.2mの位置に並べて、Y方向は耐震壁を使っています。 梁成は、小梁は500でブレストレスのケーブルを引いています。逆梁とありますが、意匠デザインとして正方形、グリッド開口を実現したいということで、逆梁にしています。外郭構造なので、外周の梁成は大きくなってしまいます。これは900あります。せっかく900も梁成があるなら逆梁にして、このグリッド開口を作りました。梁貫通はブレストレスなので、基本的にはできません。一般的なダクトによる吸気方式ではなく、梁管全体を細長い吸気チャンバーとして一方向に一様に吸気できる計画としています。
構造設計テーマ
構造計画
構造設計の工夫
設備計画のテーマは、事務室の空調は空気の流れのみに頼るのではなくて、自然に温かさ、さわやかさが感じられ、空気の流れを感じさせない輻射熱を利用して、快適で省エネルギーな方式を目指すというものです。このテーマの下に、一方向の小梁を利用して吸気チャンバーとしていく。天井面を二重の鋼板性のパンチングメタルとして、開口率を7%に調整。風速を0.1mm以下として、人に風を感じさせない計画にしています。これは予備実験に基づいて決定されています。照明も、一方向に流れている小梁を利用して、エッジラインとして、ダクトと同様に梁間との間に組み込まれているという計画になっています。 基準階の計画です。階高3200から2600の天高を取ると残りは600です。600のうち100はOAフロアで使われる。500は躯体の小梁です。スラブは150。つまり、残されている空間、設備のダクト用の空間は350から300程度になるということです。ホワイトコンクリートを使用していますので、PC構造の小梁はコンクリートの打ち放しで仕上げる。天井の吸気はチャンバー全面パネル付きダクト方式で1ライン照明計画としています。意匠、構造、設備、電気の一体的な検討の中で解決を図った建築計画となっています。
空調設計の工夫
基準階計画
空調の予備試験です。事前に工場の製作所で天井のパネルと簡易ダクトを実寸大で製作して、差圧と風速を計測する。二重構造で、天井面となる開口率7%をパンチングパネル上部に空気層20mmを介して、さらに同じ開口率を持つパンチングパネルを設置して、調整してセットする。実物試験も行いました。建物の躯体が完成した年にひとつのラインをビニールの区画で区画して実測したものです。室内気流の風向あるいは風速の測定は微風速下でのトレーサビリティが保証された3次元超音波風速計を用いて行って、良好な結果が得られたそうです。
空調予備試験
事務室内観
パンチングパネルによる天井
アンケートによる利用者の温熱評価の結果、体全体の温冷感で冷房時も暖房時も快適という人が最も多くて、室内空気の流れの強さは感じないという方が大半だったということです。次のステップとして、冷房時の輻射熱による結果を有効に利用するためにも、気流ドラフトによる効果について十分考慮する必要があるのではないかという課題提起もありました。 最後に、プロポーザルの短い時間の間に、この内容を建築・構造・設備の担当者が一緒に構想を練って、ほぼそのまま実現したプロジェクトです。打ち合わせでは互いのアイデアが自らのヒントとなり、チームの設計目標を共有できました。エンジニアリング機能をコンパクトにまとめ、低い階高を感じさせない広さと快適さを提供できたのではないかと思っています。
アンケートによる既設・新設の温熱評価
金子
ありがとうございます。質問をうかがいます。
関根
構造と設備がうまく統合されていますが、プロセスでご苦労されたこと、ターニングポイントになるような出来事があればお聞きしたいです。
横川
構造で一方向の小梁での天井高さの確保を提案したところ、設備担当の木村さんから、アイデアが出てきたことが、ターニングポイントでした。
木村
階高3.2mでここまでの空間を実現できたのは、本田の青山の本社ビルで、窓際のペリメーターゾーンを、エアーを使った輻射で行うことを検討してきたつながりでもあります。その後、こういう機会に恵まれたので、冷房も含めて検討しようと提案しました。ワンポイント申し上げると、ちょうど1995年に竣工した東北セミコンダクターの、クリーンルームの現場を1年つとめたあとのタイミングでした。先ほど説明があった二重パンチング鋼板の天井は、東北セミコンの半導体工場のクリーンルームに近い形です。ドラフトのエアーを感じないという点は、丁寧に工場で実験をしました。 その後、現地でも実験をしましたが、半導体工場でのクリーンルームと同じ測定方法で実施していましたので、自信はありました。それでも、随分と現場でチューニングをしました。 結果的に構造形式により、この空調計画は実現できたのです。階高3.1mの石本建築事務所東京オフィスの改修でも応用し、医学書院のプロジェクトでも参考にしました。最近も、この方式を参考にしていただいたプロジェクトが多いのではないかと思います。
石本建築事務所東京オフィス
医学書院
金子
事例があまりない中で、挑戦的に取り組まれたと思います。その後の、石本の作品の中でもこの経済法令研究会本社の事例を参考にした・つながったという感想がありました。

事例2:長野県立大学

長野県立大学三輪キャンパスについて説明します。ここでは、『人を育む構造デザイン』と題して発表します。長野県立大学は、JR長野駅のそばにあります。イエとミチというコンセプトで、ゼミなど専用部からなるイエユニットを分散して配置し、隙間のミチは回遊動線でありながら学習活動を促す仕掛けを施しています。全体的に山折れの屋根が並んでいます。 イエユニットは2階から4階建てです。大学の設計は、変化するカリキュラムに応じたフレキシビリティが求められます。フレキシビリティという言葉はわれわれ、よく使うものの、なにをもってフレキシビリティがあるといえるのかは漠然としているということを、考えていました。 設計の当初は、学校なので、外側は横連窓で、壁をあまり付けずに柱梁で構成するラーメン架構で内部の自由度を確保しようと考えていました。 そんなときに、新しい大学づくりの方針を話し合う施設整備部会に出席しました。作る学部も、科目も、初めて聞くものばかり。大学を取り巻く人々は立場も意見もさまざまでした。これでは、自分が思っていたフレキシビリティではまったく物足りないことを実感しました。また、地方の大学をつくるのは、地域活性の狙いもあることを知り、地域のオリジナリティーを分かりやすく施設に表すのがよいと考えるようになりました。 それから構造は、とにかくイエユニットの中の柱を少なくして、いかなる間仕切り変更にも対応できるようにしたいと考えました。そのために耐震要素をしっかりと確保する方法を探り、耐震コアを集約配置した案、外殻構造とした案を考えました。意匠設計者はイエとミチのコンセプトには外殻構造がマッチし、外観デザインに活かす意欲を示してくれました。
施設計画
構造設計のテーマと変遷-1
構造設計のテーマと変遷-2
それぞれのイエユニットの外周をぐるりと市松壁で囲む構成です。廊下に面する内部側は市松壁が作りにくいので、連窓耐震壁として比較的オープンなつくりにしています。アリーナは、地上でエキスパンションを設けて、イエユニット群とは切り離しています。 この設計で一番思い切ったのは、このイエユニット群を全て床でつなげ、一体として設計したことです。ユニット毎に分離しようか、悩んだ時期もありましたが、上司と一緒に一体化を決断しました。これがこの構造ができた一番の要因です。 外殻構造はSRCフレームとRC耐震壁ですが、内部はS梁としてロングスパン化し、内部の柱本数を最小限にしています。 
構造概要-1
構造概要-2
アリーナは、地域性のある空間づくりに取り組みました。テーマは、山折れの屋根をうまく利用すること。それから、閉鎖的になりがちなアリーナを、学校内外のつながりをつくって、愛着の湧く建物とすることです。 まず山折れの屋根形状を生かした、折れた梁の形を並べてみました。長野らしさを出すために、リンゴの葉っぱをモチーフとした屋根を作ることを考えました。次に、周りが住宅街なので、住宅街からスケールアウトしてしまうアリーナの大きさを地下部に埋めてボリューム感を抑え、建物の角にある柱を抜いて、外側の環境とうまく調和することを狙いました。 こちらがアリーナの地上部の架構イメージです。この梁は葉っぱに見せたいということで、普通のH鋼ではなくて船底型の、柔らかい弧を描くBH材としています。 
ここは長野
施工中写真-1
施工中写真-2
施工中のイエユニット躯体は、要塞のように力強く見えましたが、うまく仕上げをしてもらったおかげで、完成後は圧迫感なく、面白い外観と感じています。 完成した建物を経験し、意匠設計者はさすがだと思ったのは、イエユニットの間を移動していくときに、ミチの隙間があって、どの方向にも山が見えます。ある方向は紅葉で、別の方向では山頂に雪が積もっていたり、建物の中にいながら長野を感じられる建物で、ここに通う学生さんは、より長野が好きになるだろうと思いました。 アリーナの内観は、梁を船底型にして、さらに下フランジの幅をできるだけ抑え、葉っぱ感を出せるよう頑張りました。 この設計を通じ、地域に根差した新しい学校づくりに立ち会えたことで、構造設計をより前向きに挑戦することができました。さらに、他セクションとの協働で、将来にわたり幅の広いフレキシビリティを確保できました。以上、説明を終わります。
完成写真 外観
完成写真 内観
完成写真 アリーナ
金子
ありがとうございました。皆さまから何かご意見、ご質問等ございますか。
関根
アリーナの自然換気で何か工夫したところはありますか。
アリーナの上にハイサイドライトを付けていますので、そこから光を入れながら換気にも役立てていました。
金子
先ほどの葉っぱの周囲にある隙間が、環境的にも、構造的にも、意匠的にも非常に効いているなと思いました。
そうです。コストが厳しい中、ハイサイドを無くす案もありましたが、実現できてよかったです。
榊原
イエボリュームの内部にいても連続感があるコンセプトが良いと思います。外殻構造と外断熱の相性はどうでしょうか。
設備の木村さんがある日、「原君!この構造と外断熱を組み合わせて、エコロジカルスキンと呼ぼう!」と、熱くおっしゃったところから始まりました。外周のコンクリートに外断熱を組み合わせ、それが長野の風土にとても合うということを、教えていただきました。
金子
木村さん、いかがでしょうか。
木村
ありがとうございます。実は信州大学の私たちが大変お世話になっている、今は名誉教授である高木先生に、外断熱は長野でどうですかと聞いたら、住宅では時々あるけれどもオフィスビルではほとんどないといわれて、本当にできるのかと思っていました。長野県立大学では、構造体がフラットで、梁の出っ張りがないので、外断熱で包み込むように施工しやすいだろうと思いました。その結果、冬、外の太陽からの光が当たる外壁は表面の温度が非常に高くて、暖房負荷がほとんどない状態です。冷房のときも恐らく表面で反射してくれるのでうまくいっている。 これまではハイブリッドの設計というと、例えば意匠と環境とではありましたが、そこに構造が入ってきたことによって、トリプルハイブリッドのものだと思いました夏の外気が35度のときに、1階の床の表面温度は26度より少し低いぐらいです。今回、のり巻きのように外断熱で包むのに、断熱を地面の下50cmか1mぐらい入れていました。全体として優しく包むような計画になりました。
金子
普通、外断熱をしようとすると、やはり構造と切り離せないのではないかと思います。というのは、ヒートブリッジになる所が出てくると逆効果になり、思ったような効果が出ないことがあるからです。長野県立大学は外殻構造であり、イエユニットであり、内側に共用部を持っているという全体の構成が、外断熱を採用するのに下地が整っていたのではないかとお話を伺っていました。
金子
先ほど、ユニットを床でつないだという話がありました。ポイントだった点は何でしょうか。
まず、これは外殻構造と言っていますが、単体だけ取り出すと実はバランスが良くないのです。外部側に壁が付きますが、廊下側はできるだけ開けたい。ユニット単体を取り出すと地震力に対してねじれが生じやすい形です。床でユニットをつなげることで、全体のバランスを保ちました。 また、エキスパンションを設置すると、ミチの途中に金属が出てきたり、大地震時は避難通路に外れた金物や床の隙間が出来てしまうのを避けたいと考え、床はしっかりつなげたいという思いがつよく一体化しました。
金子
ありがとうございます。確かにとても良いコモンスペースでした。今おっしゃっていたような金属の床が出てくるというのは、やはりだいぶ印象が違うのではないかと思います。少しのことですけれども、大きな感覚の違いとして現れてくる気がしていました。ありがとうございます。

事例3:上田市庁舎

長谷川
上田市の新市庁舎について紹介します。敷地は、上田城跡地の正面通りに沿った位置にあり、現庁舎の横に建て替える計画となっています。 建物は地上6階建て、地下1階。高さ制限があり、そのため、屋根に勾配の部分があります。延床は約1万2100m²です。構造の計画としては、鉄骨造のブレース付きラーメン構造。耐震計画は地下の下に基礎免震構造を採用しています。限られた階高の中で広々としたフレキシブルな内部空間を実現することを目標にしました。 基準階の平面図です。大きさがおよそ32m×38mと広い空間での執務空間を、柱4本で何とか計画しようというものです。施工の写真ですが、執務室に柱が完全に出てこないような空間を目指しています。 構造のフレームは、真ん中の執務室の部分にほとんどフレームがない状態ですので、どのように地震に対して抵抗していくかを考える必要があります。まずひとつは、免震構造であること。また、免震構造になると地震力が普通の耐震構造よりも半分ぐらいまで小さくなるというメリットを生かして、上下のコア部分の構造フレームだけで耐震性、地震に対して抵抗していくということを考え、中はすっきりと床を支えるだけの構造になっています。 逆方向の力に対しても大きく4つのフレームで抵抗させて、耐震性を担保すること。一部、コア周り、階段、エレベーター周りのシャフトにブレースを入れて、必要な硬さを確保しています。また、執務室の両サイドの柱ですけれども、地上6階建ての1、2階で柱が幅200、400の断面、3階、4階は幅、背ともに200角という、5、6階建ての床を支えるにしては普通の耐震構造ではおよそできない断面を使うことにもチャレンジして、すっきり開放的な空間にしようと取り組んでいます。
構造計画の目標
上部架構の構造計画
庁舎棟の構造計画-1
空調ルートと構造との取り合いで工夫した点は、設備のダクトルートです。梁があって、その下に大きいダクトなどが入って、天井を張るのが教科書的な方法だと思います。そうすると、天井高を取ろうとすると階高が上がっていってしまいますし、階高が限られた条件では天井が下がっていくことになってしまいます。そこで今回は、この中をほとんど小梁と間柱という2次部材だけで構成しているような構造計画にしています。小梁の端を欠きこんで、そこを設備の通り道に使うということで、天井の下がりを極力小さくすることをしています。 これは基本設計時のスケッチです。天井に照明を反射させて、明るさ感を確保するという計画です。その天井も、放射パネルになっています。さらに、鉄骨の梁もインテリアとして出てくる計画になっていて、まさに構造、設備、電気で内部空間を作っているといいますか、エンジニアリングを中心とした、天井・空間の形になっています。 鉄骨の検査のときの写真です。この梁は、下のフランジが幅125mmです。握りこぶしより少し大きいぐらいの幅になっています。 天井の角度や形状を変化させて、光の写り方といいますか、明るさを検証しています。 施工中の現場写真です。設備ルートとして梁のハンチを付けた部分です。当初の予定である設備のルートをしっかり取れるようにしています。 ちょうど隣に既存の現庁舎が立っています。この大きい柱は、確か15~16mぐらいのピッチでしたが、ブレストレスの梁を使って、こちらも執務室の中の柱を入れない構造計画、建築の空間の作り方でした。確か築53年ですけれども、当時の石本の、設計者の先輩たちの考え、思いなどを受け継いだ新市庁舎です。それをバトンタッチした瞬間です。
庁舎棟の構造計画-2
施工中写真
新旧の市庁舎
金子
ありがとうございます。説明を伺って、ぜひ機会をつくって上田まで足を運びたいと感じました。それではご質問お願いします。
関根
タスクアンビエント照明としているそうですが、アンビエントの照度は何ルクスでしょうか。
近藤
照明は、100%点灯時で500ルクスぐらい、調光で300ルクスから200ルクスの間ぐらいにしようと思っています。これは室内の写真です。真ん中に来ているのがアンビエント照明で、この凸凹している放射パネルに光が当たる形になります。この写真のとおりで、結構、明るい感じになっています。夜の写真です。アンビエント照明としては少し強過ぎてしまうので、調光していこうと考えています。
執務室-1
執務室-2
執務室-3
関根
その調光はどういうタイミングでされるのでしょうか。
近藤
放射パネルの真ん中あたりに少しへこんでいる部分がありますが、そこが今、設備ラインになっていて、感知器やスピーカーなどが付いています。そこに照度センサーも付いていて、そのセンサーで天井面の明るさを見ながら調光をしていくイメージです。
金子
天井のデザインとしてもあまり余計なものが出てきていなくて、すっきりとしたきれいなデザインになっています。既存庁舎も素晴らしいですというご意見もいただいています。
金田
上田市庁舎や三鷹市民センター、あるいは蒲郡の体育館など、私の入社前になりますが、その当時の石本の構造は意欲的に、面白いものをたくさん造っていった時代でした。今も昔も三鷹に住んでいる私が、石本に入社を希望した動機は、この三鷹市民センターだったんです。市民センターのゲートの様になっているピロティ―を抜けた奥にある中庭を挟んで、市庁舎と市民会館が対峙する配置計画は、その後の公共建築のプロトタイプにもなっていました。
金子
石本建築事務所の、構造の歴史の一端を垣間見たような思いがしました。
植野
蒲郡体育館はDOCOMOMOに選定されて、改修しています。
金子
それからすると、蒲郡体育館は幸せな建築だと思います。一方、私が名建築と思っている三鷹市民センターは、市長選のたびに建替派の候補が負けるから残っているだけで、いつでも壊される運命にある残念な建築と言えそうです。
上田市庁舎(撮影:彰国社)
三鷹市民センター(撮影:三輪晃久写真研究所)
蒲郡市民体育館(撮影:新建築写真部)
八木
免震構造は、鉛直振動は緩和しないと思いますが、室内の揺れはどのように考えましたか、また放射パネル、ダクトの脱落防止は考慮されましたか。
長谷川
耐震化天井・下地を組んだ天井に取り付けています。その上での免震構造ですので、揺れの力がそれほど大きくないということがあります。 免震構造はご質問の通り、鉛直方向の地震力は緩和されませんので、耐震構造と一緒になりますが、執務空間の4本柱にはしっかりとした硬さを持った梁が入っています。外壁面も、柱は細いですが、2.1mピッチや4.2mピッチで細かく入っています。梁も剛性を取るように考えましたので、床の歩行振動などは影響ないと考えています。地震時の上下方向に突き上げるシミュレーションも行い、最終的に細柱の断面寸法を決めています。
長谷川
タスクアンビエント照明について少し補足させてください。照明器具はできるだけ天井から離れた位置にあったほうがよかったのです。ですから、構造と電気は、梁成を少し大きくし、意匠としてどこまで許容するかというところで、ひとつの断面の中でせめぎ合いがありました。照明位置イコール梁の下フランジ位置なので、それが下に下がってくると構造は頑丈になります。照明の配光もそのほうが良くなる。でも、梁下の有効高さが少しずつ低くなるという関係です。結果的に、下フランジの高さは床面からの高さ3m程度となりました。
金子
なるほど。ありがとうございました。意匠、構造、設備がよく統合されていて、それぞれの押し引きというか、関係性の中で成り立っている、まさに環境統合の事例だと思って伺っていました。
木村
傾斜した天井の、放射パネルの機能についてですけれども、CFD解析の結果から空調においても傾斜の効果があることが確認できました。傾斜したことの構造的なメリットもありますし、放熱環境的なメリットも見えてくる。これがCFD解析の技術進化というところとも重なってきて、具体的な意匠、構造の統合の中に、解析の技術進化も見え隠れする事例にもなっています。
金子
ありがとうございました。全体を通して何かご意見、ご感想ありませんか。 私から、先ほどの上田市庁舎に関して、よく考えられた構成だと思いました。梁の先端を細くして、そこを設備のスペースにしていこうということでしたが、構造面でのポイントがあれば教えてください。
長谷川
今回の場合は、構造の面からいきますと、外側の柱がかなり細い柱でしたので、逆に外側に設備を集中させたほうが構造は作りやすかったです。小さい柱に力が入りにくい。
高瀬
構造と装飾、内部空間への機能統合が図られている流れを振り返ることができ、また、特に見える構造の視点でいろいろな見え方が興味深かったです。 関連して、金田先生に質問です。構造計画プラス・ワンで、横須賀美術館や埼玉県立大学、洗足の連結住棟など、見える構造といったもの、外部空間のつながりを意識した建物に携わられていらっしゃいますが、何か設計上、気にされていることがあればお教えください。
金田
ご質問いただいた事例は、いずれも耐震要素を室内に配置して外壁面は鉛直荷重をのみを支持する細い柱梁としています。そうすることで、外壁面のガラスの面積が多くなって、ガラススクリーンのような外壁面が可能となっています。ですので、このようなケースでは、建物全体に作用する地震力に抵抗できるだけの耐震要素を建物の内部に設けられるかどうかを気にしています。 ホンダの構造は逆に外壁回りに耐震要素を配置したチューブ(外殻)構造として、内部の4本の柱はスラブ自重を支持するだけの柱としています。 そのため地震荷重から解放された内部の4本を細くすることが可能となり、外壁面にはブレースを組み込むことで柱梁のサイズが大きくなることを防いでいます。
話が元に戻ってしまうのですが先ほど金子先生がいわれたように、光を落としていくために構造を開きたいというときに、構造設計者は逆に建築全体の一体性を確保するためにふさぎたいということで、しばしば意匠との想いのすり合わせに苦労しています。例えばトップライトや大きな吹き抜け空間を設けるときに、建築家はその部分に構造体を一切露出させたくないというのですが、構造的には、梁だけではなくて、その部分を斜めに横切るブレースも入れたいということもあります。 そうした葛藤の中で、例えば横須賀の美術館は、ガラス屋根面を支持する構造を、斜めの格子梁として、ブレースなしで屋根面の一体化を図りました。洗足の連結住棟では、各棟の中央に設けたRCの戸堺壁の向きを一棟毎に90度変えて全体で壁式構造にしています。この構造が成り立つためには、先ほど原さんが長野県立大学の紹介の際に言われたように、各ブロックを床板でしっかりと連結して一体化することが必要です。繰り返しになりますけれども、構造は開こう、開こうという建築家の意図、あるいは設備の人の意図とは逆に、ふさごう、ふさごうという意識のほうが強いため、そこの葛藤はいつも感じています。
金子
なるほど。ありがとうございました。非常に興味深いご回答でした。構造はふさごう、環境的にはいかに開いていこうかということで、その辺の葛藤があるということですね。
植野
石本の歴史の中で培いつつある技術力と統合力を再認識した、大変に意義のあるフォーラムでした。長年石本に在籍していますが、初めて知ったこともありました。
金子
今の植野さんからのコメントに私も共感しました。構造というものは、バトンを引き継いでいくような形で発展しながら継承していくのですね。いろいろ新しい作品の中にも、過去の作品を参照しながらというところも垣間見れました。そこに新しい要素、現代的な要素、環境が入ってきている中で、新しい取り組みをされているのだと思います。
木村
きょうは大先輩の金田さんに来ていただいています。本田本社ビルは大部屋の天井裏に、たくさんの設備ダクトを展開しています。個別空調のVAV装置も全て点検できるようになったのは、構造計画がフルウェブの梁ではなくてラチスの梁にしたからです。そのことで自由な展開ができています。 実は、あのビルは竣工してから既に今、60%のエネルギー削減ができています。改修のときにそういう天井の中のダクトとかVAV装置の更新などがその後も順調にできているために、6割削減ができているのです。点検しやすいのです。そういう意味では、構造計画をなくしてできませんでした。このビルだけではなくて、超高層はみんなそうではないかと思うのですが、金田さんの意見、お話をお聞きできればありがたいです。今の超高層ビルはどういった点に留意しているのか。
金田
最近の超高層ビルはどちらかというと、例えばタワーマンションでは階高を低くして、梁成も小さくして、梁貫通ができないことが多いです。そういったときは、無梁板などで対応していくのですが、それでも換気のために、やはり梁貫通は必要になります。その種の構造と設備配管とのせめぎ合いは、ますます厳しくなってきています。こうしたことから基本設計のかなり早い段階で設備との調整が必要だということを痛感しています。 本田の青山を例にとれば、木村さんはじめ設備の担当者が建物の竣工以来をずっと大事にして面倒を見ている姿には頭が下がります。構造設計者がそういうことをしている例は、少ないですよね。構造は、「便りが無いのが良い便り」的なところがあるから、同じ失敗を繰り返してしまうのではないかと反省してはいるのですが・・・。
金子
本日は前3回とは少し違った『構造からみた環境統合』という視点でお話しいただきました。 先ほど金田さんから、構造は現場に行かないという話もありましたけれども、実はそれが一番、良い姿ではないかと思いました。構造の方は、将来、先にわたっても対応できるようなものを考え、設備と意匠、環境がそのプラットフォームを使っていろいろなことをできる、改修できる、長持ちさせることができるということが、実は構造から見た環境統合の、大きなポイントだと思いました。本田本社も竣工してからだいぶ時間がたっていますけれども、今なお青山一丁目であの姿をとどめています。私はよく通りかかるのですが、やはり素晴らしい建築のひとつだと思います。これはやはり構造のインフラがしっかりしているというところに起因しているのではないかと思いながら伺っていました。 あらためて石本建築事務所50周年のときの構造からこの先10年、100周年までにどこまでいけるかも少し期待しながら、今回のフォーラムを終えたいと思います。

第4回環境建築フォーラムを視聴して

石本OBとして皆様の熱意がこもったお話を聞いて安心しました。構造設計部での話で、他の意匠、設備設計部門については分かりませんが、実は一昔前には日本建築構造技術者協会(JSCA)などで、「石本建築事務所は組織が大きいだけで、外に向かってあまり情報を発信していない」、積極的参加を促す期待も込めて、しばしば「ブラックホールみたいだ」と言われていました。他の同程度の大規模事務所の方々がそれぞれ社外活動をされているのに比べて、石本建築事務所の構造セクションの人たちには、そうした活動への参加が少ないために、そのようなことを言われていたのです。 しかし現在では、そうした社外活動にも積極的に参加されていて、それに比例するかの様に、建築関係の雑誌に掲載される石本の設計作品も多くなってきたように思っています。この様にきちんと社会にも情報を発信していただけていることに石本の力強さを感じます。そして今日の事例でもあった環境と構造を統合しながら、それを武器にして、もっと社会に発信していただけるのではないかと思います。お互い、頑張りましょう。

金田 勝徳

1944年 東京都生まれ。68年 日本大学理工学部建築学科卒業。68年 (株)石本建築事務所 入社。86年 同社退社。86年 (株)TIS&Partners 代表取締役。88年 同社退社。1988年~2017年5月 (株)構造計画プラス・ワン代表取締役。2017年5月~現在 (株)構造計画プラス・ワン 会長。2004年4月~2006年3月 工学院大学非常勤講師、2005年10月~2006年3月 横浜国立大学非常勤講師、2006年4月~2011年3月 芝浦工業大学特任教授、2011年4月~2014年3月 日本大学特任教授