技術奨励賞

ISHIMOTO AWARDS

石本建築事務所では、設計監理業務に限らず社内の全ての活動を「プロジェクト」と位置づけています。社の掲げる理念である「先見性と独立不羈の精神を持ち、顧客経済と健全で文化的な社会の発展に貢献すること」を体現する優れたプロジェクトを、毎年9月16日の創立記念式典において、『技術奨励賞』として表彰しています。社員の全員参加で実施される審査のプロセスは、社員があらためて社の理念と多様な価値観を確認する場であり、優れたプロジェクトに込められた技術や取組み姿勢を共有する機会になっています。

先見性
未来を考え、新たな創造を試み、あらゆることを予見して計画、実行すること
独立不羈の精神
原点から考え自ら行動する創作態度と、そこから生まれる高い独創性
顧客経済と社会発展への貢献
顧客の要望に高次の提案をもって応えること、未来を拓く技術革新に挑むこと
最優秀賞
東海⼤学 阿蘇くまもと臨空キャンパス
講評
阿蘇くまもと空港から遠くに阿蘇⼭を眺めながらしばらく歩くと、⽩く⽔平を基調とした凛々しい外観の新しい東海⼤学のキャンパスが姿を現す。2016 年の熊本地震で被災した農学部を移転し、講義・実習・研究がひとつになった総合的農学教育研究の場「CREATIVE-ONE Village」として再建する計画である。キャンパスは空港近くの南に向かって緩やかに下る傾斜地にあり、のどかな⽥園⾵景の中に都市的な建築が埋め込まれたような印象である。
キャンパスは敷地の中央道路を主軸として3つのエリアにゾーニングされている。中央道路の東側に講義・研究を中⼼としたコミュニケーションエリア、⻄側に飼育エリアと農学エリアが配置されている。キャンパスの中⼼的施設は2号館で、キャンパス広場を中⼼に1階は図書館、⾷堂等の共⽤施設、2階は実験室や⼤教室、3階は研究室というフロア構成。南北の4mの⾼低差が活かされていて内部も外部も⾃然に上下階の移動ができる断⾯計画である。メインの⼊り⼝近くにある図書館はBDSシステムが無いオープンで先進的な図書館で、傾斜に合わせて内部の床が段状に連続しており、天井⾼が変わる空間で好きな場所を選んで読書をすることができる。吹き抜けには実験諸室の廊下につながるブリッジが貫通するなど、静かで落ち着いていながら⼈の動きを感じられる空間である。ラーニングスクエアは広場とつながる開放的なアクティブラーニングスペースである。⼤教室は460⼈を収容可能で様々なイベントで利⽤される。
構造的な特徴として階段やトイレ周辺にコアブレースを配置することで外周部分に⽔平地震⼒を負担させないために柱は極⼒細く設計されており、デザイン上の特徴であるピロティ部分が軽やかに浮遊したように感じられ、意匠と構造のデザインが⾼い次元で融合している。
建物の内外を歩き回るとのびやかな空間が連続し、広場、テラス、アルコーブなどの様々な居場所が配置されている。分節された空間から⼼地よい⾵が抜け、研究の合間に⾃分の好きな場所で息抜きをしたり、学年や学部を超えた偶発的な出会いが期待できるような空間構成である。南側の正⾨前には芝⽣広場に⾯してイベントなどの際に利⽤が可能な⾷品加⼯棟があり、CLTを⽤いたハイブリッドな梁の屋根がかけられている。1枚の部材から無駄なく構造の部材を作り出し、屋根下に露出させた⾻組みになっている。これが連続するとあばら⾻のような印象で、校舎のデザインとは全く異なるデザインで⾒る⼈によって好みが分かれそうであるが、オリジナリティとインパクトがあることは間違いなくキャンパスの⽞関部分に堂々と存在している。
研究室や実験フロアの内部にはガラス間仕切りが多⽤されていて現代的な印象がある。ガラス間仕切りは効果的に⽤いられており、研究成果の展⽰や、講義を受けたり実験をする学⽣の活動が廊下からよく⾒え、屋外もキャンパス広場を中⼼に⾒通しが良く、内部から外部までが⼀体感あふれたキャンパスとなっている。
プランとしてはよくある卍型構成であるが、敷地の⾼低差を取り⼊れ建物全体の回遊性を作り出す巧みな空間構成となっていて、随所に空間的な変化を持たせるなど建築的な魅⼒が⽣み出されている。キャンパス全体を計画するプロジェクトという視点から、敷地の中央道路の左右の景観的な親和性を作れていたらさらに良いキャンパス景観が形成されていたと考えられるが、農学部のイメージを変えるような2号館のデザインは、単に表層的なものではなく、ここで過ごす学⽣たちのキャンパスライフを豊かにするものと感じられた。審査会でエンジニアが建築空間を説明するなど、担当者間の連携の⾼さが感じられたプレゼンも好印象であった。デザインと技術が融合した総合設計⼒の⾼さが評価される技術奨励賞にふさわしい作品といえる。
受賞者コメント
東海大学農学部は、講義・実習・研究がひとつのキャンパスで行われることが大きな特徴です。計画にあたっては、農学、動物科学、食品科学の3学科の多様な活動を自然と見ることができ、繋がっていくようなキャンパスを目指しました。のびやかなキャンパス内には学科にとらわれない学生間のつながりが生まれるように多くの学生の居場所を配置しています。学生たちが、日々広いキャンパスを歩き回り、使いこなすことで、農学部のつながりがより進化していくことを期待しています。
実績ライブラリ
優秀賞 <交流空間と街の新たなストリート>
彦根市スポーツ・⽂化交流センター
講評
琵琶湖の東、東海道本線南彦根駅にほど近い住宅街の中、南北の幹線道路をつなぐ約360mにおよぶ⼟地を敷地とする体育館、集会施設の複合施設。幅広いスポーツ活動や⽂化活動を通して市⺠の健康増進や交流推進に寄与することを⽬指し計画された。
配置計画上の最も⼤きな特徴は、細⻑くいびつに括れた敷地に対し、その中央を貫通する形で配置された「交流ストリート」である。体育施設機能と⽂化施設機能はそれぞれの機能を集約する2棟構成でこの交流ストリートを挟むように配置され、2階レベルでそれぞれが接続される。このストリートに⾯して体育、⽂化の各室機能が配置され、それぞれの活動を外部へと発信している。交流ストリートという外部空間が媒介となり各機能を結びつける役割を果たしており、それぞれの活動が刺激しあい、更なる交流が誘発される複合施設の枠を超えた「融合施設」としての本施設の価値を決定づけている。クライアント側が設定した敷地条件や施設計画のプログラムに対し、本施設の配置計画によって導き出された回答は⾮の打ちどころがない。住宅街に隣接するというこの種の⼤規模施設にとってはネガティブな条件さえ、地域の暮らしとの密接性として⻑所に転換されているように⾒受けられた。
通常であればやや⼿狭に感じられるかもしれない共⽤部分の広さも、常に交流ストリートと視覚的・空間的につながることで圧迫感は無く、逆に各施設内で⾏われている活動がより直接的に体感できる絶妙な距離感を⽣んでいる。アリーナという利⽤者が限定される⾮⽇常的な施設も、本配置計画でいっそう市⺠に開かれた施設として受け⼊れられる存在となっていると感じられた。交流ストリートは、隣接する⼩学校の校庭とも直結されることで通学路としての役割を果たす。これは本施設の有する可能性をさらに膨らませるファクターとして期待される。今後、市⺠の利⽤が進むことで施設の存在価値は更に⾼まっていき、結果、地域の価値も向上することが期待できる⼤変魅⼒的な施設となっている。 内部空間においても、インテリア計画、構造計画等、それぞれ積極的な取り組みが伺われる。担当チームからは地元⼤学の学識者との協働や施⼯者との良好な関係性についても⽰されており、プロジェクト全体を通して、関係者それぞれの思いの強さと果たした達成感が伝わってくる。
本件について、更なる欲を⾔えば、プロジェクトの主役である交流ストリートのランドスケープと、建物全体デザインの俯瞰的コントロールである。プロジェクトの遂⾏上、様々な課題があったことは想像できるが、これらについて、配置計画と等しいレベルまで熟達されていれば、本施設の価値はさらなる⾼みへと到達できたことに間違いない。
施設の視察は8⽉の猛暑のなかで⾏われたが、内覧が終わり交流ストリートを歩くと、とても⼼地よい⾵に背中を押された。地域環境を活⽤する環境装置としての活躍も期待される「交流ストリート」を核とした本施設のあり⽅は、新しい公共施設の価値を社会に提⽰できていると⾼く評価する。
受賞者コメント
竣工後、彦根市スポーツ・文化交流センターを訪れると、多くの人々で賑わっていました。まちをつなぐ交流ストリートは地域の通り抜け道となり、交流ストリートに配置された遊具コーナーには楽しそうに遊ぶ声が響き、図書コーナーは絵本を読む親子や自習をする学生で溢れ、ダンス室にはキッズダンスを行う子どもたちの楽しそうな笑顔があり、メインアリーナや弓道場は活発な部活動に取り組む場となり、多目的室には様々な文化活動を行う多世代の姿があり、ラウンジはミーティングや休憩スペースとして多くの人々の居場所となっていました。建築には常に人々の気配が感じられ、これら同時に起こるアクティビティが内外の場をつなぎ、賑わいと交流を生み出しています。永く交流の拠点として使い尽くされる建築となることを期待しています。
実績ライブラリ
優秀賞 <機能実現のための技術統合>
駒澤⼤学新図書館
講評
紙⾯と活字による情報がデジタルへと移⾏することにより、図書館にとっての書籍の価値、意味合いも⼤きく変化してきている。収蔵様式を踏まえた書籍や閲覧スペースと⼈とのつながり⽅はこれからの図書館計画にとって重要なテーマと考えられる。
本計画は、建築可能な敷地⾯積が2,000㎡程度、絶対⾼さ制限が19m、北側の⽇影規制もかかる厳しい条件下において、120 万冊という膨⼤な蔵書を収蔵することを要求された⼤学図書館である。この難易度の⾼い課題に対し、「知の蔵」というコンセプトを掲げ、建物の中央部に階⾼3mの集密書架を積層し、その周囲を2 層分階⾼6mの開放的な閲覧スペースが囲う建物プランを提案している。中央部の「知の蔵」は、周囲の閲覧空間によって外部環境から守られながら、この空間内に設けられた主動線により、来館者がより⾝近に書籍と触れ合える空間構成を実現している。3mの階⾼の中で集密書架の積載荷重を確保しながら2.3m の可動書架を備える断⾯計画は技術的にも⾼難度な取り組みである。耐震的な⾯からもこの「知の蔵」は重要な役割を果たしており、閲覧スペースとの境界となる蔵の外周部分に耐震壁を集約することにより、外周部の建物の外観を構成する柱梁は⾒付け⼨法600mm に統⼀され、閲覧スペースは⼤開⼝を有する開放性を確保している。隣接する公園との関係性まで踏み込んだ計画となっている。
このような⼤変明快なコンセプトモデルをできる限り純粋な形のまま実現しようとする設計者の試みが、意匠、構造、環境を⼀貫して徹底されている。この空間構成を実現するための様々な⼿法を、決して個別に突出させることなく、全体の調和を優先しシンプルに纏め上げる⼿腕は⼤変巧みである。ただ納めることだけに終始するのではなく、「シンプルに納める」ために各所ディテールにもきめ細やかな配慮が徹底的になされており、建築としての質はキャンパス内の他の建物と⽐較しても⾮常に⾼いレベルにある。抑制された表現の中からも、この建物が放つ強い存在感は、キャンパス内において学⽣の活動の拠点としての役割を永く担っていくであろうと期待を膨らませる。
2021 年から2022 年にかけて実施され、現在実施設計が進⾏中の静岡県⽴中央図書館のプロポーザルにおいて、ファイナリストに残った6社中、当社と畝森事務所のJV、特定されたC+A・アイダアトリエ・⽇建設計のグループ、そしてMARU。Architecture の3グループが、開かれた書庫を建物の中⼼に集積し、その周囲を⼗分な階⾼の開放的で多様性を有する閲覧スペースが取り囲む空間構成を提案している。書籍という情報媒体への環境を確保しつつ、本をできるだけ⾝近に感じながら快適な環境で過せる収蔵と閲覧の関係性を合理的に実現するこの図書館の在り⽅は、今後の図書館像の1つの⽅向性を⽰しており、本計画はその可能性を極限的なスケールの中で実現したチャレンジである。竣⼯後に⼀部設計者側の意図通りとなっていない部分もあるとの話もあるが、意匠とエンジニアが到達⽬標を⾼いレベルで共有し、⼀丸となって技術⼒を発揮するこのようなチャレンジこそ、組織事務所にとっては⽋くことのできない取り組みであり、本件はその好例として位置づけられるとともに、技術奨励賞の基本理念に相応しい案件として評価される。
受賞者コメント
駒澤大学新図書館は多くの学生に利用してもらいたいという大学側の思いから、駒澤大学独自の図書館とは何かを皆で考え、上層階に行くほどに研究に集中できる環境づくりを行うことが、駒澤大学に相応しいという結論に至りました。下階は活動・発信の場として、上階は研究に集中する場として、学生が自分で居場所を選択できるような空間づくりを検討し、実現することができたと思います。開館後は多くの学生が図書館を利用しており、様々な場所で学修に研究に没頭している姿を見てとても嬉しく思いました。この新図書館が駒澤大学の顔として学生に愛され、末永く利用される図書館になることを願っています。
実績ライブラリ
優秀賞 <⽊造によるインテリアの提案>
中津川市⽴新ふくおか⼩学校
講評
中津川市の⾃然豊かな敷地に建つ⼩学校の建築である。遠くの⼭並みや周辺環境、地域で製材される⽊材が豊富であることを踏まえて⽊造の学校を計画することは必然であったと⾔える。実際の視察でも地域に相応しい建物が実現されており、顧客や使⽤者から喜ばれている事実は、⽯本の価値の提供が正しかったことを物語っている。地域からの強い想いと⽊材調達のスキームの⼯夫や発注者、設計者の努⼒もあり、岐⾩県材率96%、中津川市産材率65%という岐⾩県においての稀な実績を残す建築とすることができている。⽊造の架構材は基本的に120mm×120mmの⼀般流通材で住宅に使⽤するものであるが、公共建築への活⽤スキーム、実績が無かったため、発注者を巻き込んだこれまでにない発注システムを設計者も協⼒して構築、実現している。そのような取り組みが地域の⽅にも理解され、⾃分の⼭のひのきを寄付したいという申し出があり、昇降⼝正⾯の8本の⼤きな丸太を頂き、昇降⼝前の吹き抜けのこの丸太は学校のシンボルになっている。このように建築の設計の範囲を超えたこのプロジェクトでの活動は、技術奨励賞の評価のポイントである「顧客経済と社会の発展への貢献:顧客の要望に応える、社会に貢献する」そのものであると感じた。このプロジェクトでは実現した建築を通した社会との繋がりは審査会のなかでも⾼い評価の声があった。
建築のデザイン⾯では、周辺環境に呼応した⼭並みや稜線を意識した⼤きな屋根を実現することは、児童がひとつの屋根の下で元気に⽣活することを⽬指すコンセプトに合致している。⼤屋根を実現するために⽊造と動きの似た鉄⾻造で耐⽕建築の部分を計画して体育館以外はエクスパンションジョイントを省いた計画としており、コンセプト実現のための技術的な⼿法は評価が⾼かった。また⽊造を⽤いたインテリアは、児童にとっても快適性が⾼く親しみやすいものとなっている。⼀般製材のため柱のスパンは2,730mmとなっているが、柱の細さもあって空間的な違和感は全く無い。逆に2,730mmという⼨法が児童に寄り添う(触れる、寄りかかれるなど)ヒューマンなスケールとなっているように感じた。⽊材を⽤いたインテリアの実現はこの建物の評価のポイントであり、最⼤の特徴であると⾔えよう。名古屋オフィスが取り組んできた⽊造の実績の集⼤成という声も審査員からはあった。プレゼンテーション時にメンテナンスのため外部の⽊造の使⽤は叶わなかったという説明があったが、屋根が印象的だっただけに外観に⽊材の使⽤による⽴⾯が実現できればより特徴的な建物が実現できたのではないかと思われた。ただ、⽊材利⽤を契機とした顧客、地域貢献の実現、建築を通した社会への貢献、⽊材を利⽤したインテリアの実現は、⽯本にとって⾼い価値(バリュー)があると⾔える。
受賞者コメント
本学校は、「岐阜県中津川市の地元の木材をふんだんに使う」、「中大規模木造では例のない一枚の大屋根により風景をつくる」、そして「建築に子どもたちが寄り添う」をコンセプトに、発注者、地域、そして木材調達業者、施工者といった多くの関係者と連携、協働しながら実現しました。これまで実績のない木材先行調達発注は、市や林業関係者、弊社との連携・協働によって生まれた新しいシステムであり、地域循環型のロールモデルとして今後の木造建築普及への架け橋となれば幸いです。地域の自慢である東濃ひのきの香りが校舎全体を覆い、子どもたちが、柱を囲んだり抱きついたりと、「木」と共にのびのびと成長してくれればと期待が弾みます。
実績ライブラリ
優秀賞 <地域の賑わい空間の創出>
遠軽町文化交流センター メトロプラザ
講評
北海道はオホーツク海近傍の町えんがるに計画された町⺠センターである。「えんがる」という町名はアイヌ語で⾒晴らしがよいところという意味で、町のシンボルである「がんぼういわ」を指している。ガンダムのキャラクターデザイナーの安彦さんは遠軽町出⾝とのこと。町⺠センターと「がんぼういわ」にはどことなく景観的な調和が感じられる。遠軽町は全国でも有数の吹奏楽が盛んな町であり、ホール機能と公⺠館機能を複合した⽂化センター建設は町の念願の事業で、かつ求められたのはまちの活性化となることであった。
まちの居場所と交流拠点づくりということで「えんがるストリート」というコンセプトが設定された。えんがるストリートはエントランスからホワイエ、そして隣接する遠軽駅へと通じる、施設全体を貫くメインの動線であり、利⽤者の居場所ともなる空間として提案されている。ホールで催しがない時は、ホワイエを⽇常使いできる空間として利⽤でき、内部の活動の賑わいがガラスファサードによって外部に映し出される。えんがるストリートにはカフェやブランディングスペース、展⽰スペース、ギャラリーなどが設けられており、2層吹き抜けのガラス張りで明るく開放的な空間であるが、⾃然通⾵や地中熱を利⽤した床輻射空調といった環境技術の提案によって快適な空間を実現している。実際に視察に訪れた8⽉上旬は、かなり暑い⽇であったが快適な空間になっており、中⾼⽣が集まって勉強している⽇常の⾵景を⾒ることができた。
⼤ホールは⾳楽を主体とした600席固定席で、⽊リブを連続させた壁⾯は間接照明が組み込まれ天井と⼀体となった造形が印象的なデザインである。設計で⾳響シミュレーションを繰り返し⾏っており、⽊リブのルーバー部分の裏⾯に吸⾳カーテンが仕込まれ、壁⾯のデザインを変えることなく残響時間を変化させることもできる優れたデザインとなっている。鉄道振動の影響を低減するために客席位置をできるだけ鉄道軌道から離し地中防振⼯法が採⽤されている。⼩ホールはグリッド天井を備え講演会や展⽰やリハーサルなど多⽤途に使うことができる。建具を全開にすると駐⾞場とも⼀体的に利⽤できる。
地域性の取⼊れとして、「がんぼういわ」と調和する外観の量塊感、⿊曜⽯や地層をモチーフとしたデザイン、ピアノの響板をモチーフにしたホールの内壁、遠軽町産⽊材の活⽤、⼤ホールの内壁材に「1964年東京オリンピックゆかりの⽊」を⽤いるなど様々な試みをしている。これらのことは決して容易にできることではなく、設計監理担当者の提案⼒と実⾏⼒と顧客の共感を得る⼒の結晶であるといえる。審査会での担当者のプレゼンテーションは穏やかで⾮常にわかりやすく、聞く⼈を引き付ける魅⼒あるものであり、業務において関係者から共感を得る⼒量が垣間⾒えるものであった。建物は内外観とも落ち着きのあるデザインとしてまとめられているが、どちらかというと堅実な印象が強く、コンテクストの解釈やオリジナリティの盛り込みといった部分でさらにデザイン性を⾼めることができたのではという印象が残った。 遠軽町は札幌から特急電⾞で4時間弱、⼈⼝1万8千⼈ほどの町で、実際に町を訪れると質の⾼い建築物はなく、この場所で質の⾼い建築を完成させるということの⼤変な苦労が想像できる。駅に接続しており⽇々施設を利⽤する町⺠にとっては⽇常の空間であり、イベントが⾏われれば記憶に残る⾮⽇常空間となる。地域の中⼼的存在として町の活性化に寄与する施設であり、町⺠の誇りとともに愛され続けることを期待できる質の建築となっている作品である。
受賞者コメント
「音楽を主目的としたホールをつくる」、様々な対話を通して、その強い意志を町全体から感じとれるプロジェクトでした。そんな中、全国でも有数の吹奏楽が盛んな遠軽町に、音楽を中心とした文化活動を活かしながら、地域活動の拠点ともなる「町民の拠り所」をつくるという命題は、関係者の中ではごく自然な共有認識となっていました。ある意味、この明確な目的があったことで様々な困難やハードルも乗り越えられ、多様な試みが実現できたのだと今更ながら感じています。この施設が永きにわたり、遠軽町の文化芸術発展の拠点となり、多くの人の活動や成長を支え、町民の生活に豊かな音色を奏でることを願っています。
実績ライブラリ
特別賞 <環境建築の実現>
獨協⼤学コミュニティスクエア
講評
草加市に建つ獨協⼤学の講義棟である。継続的に⽯本が関わっている⼤学の新たなワークラボの計画である。計画当初は建物の⽤途もまだ決まっていなかったが、プロジェクトの進捗過程で敷地内の空地を⼤きく設け、地域への開放とすることで「学術研究・教育活動」と「地域交流の場」の両⽴を⽬指した計画となった。建物はコミュニティホールを中⼼にワークラボ(ゼミ室)が取り囲む平⾯で、多様な利⽤を想定した建物である。
顧客が取り組んでいる⾃然エネルギーの有効活⽤や低炭素化等の取り組みに設計者として応えた提案や、結果として⽯本初の完全ZEB(Net Zero Energy Building、省エネ性能131%)以上のPOE(ポジティブ・エネルギー・ビル、消費エネルギー量以上に再⽣可能エネルギー量が多い)の実現とCASBEE評価Sランクは価値のあるアウトプットだと考えた。またエコアイテム設置のためのイニシャルコスト捻出のために、エネルギー購⼊を前提とした太陽光パネル設置負担業者の紹介や、サスティナブル先導事業採択の補助⾦実現を⾒込んだ投資の提案(⽯本に採択の実績があることでできる提案)を⾏っている。このことは顧客の⾔うままにエコアイテムの設置〜省エネルギービルの実現という⼿法ではなく、⽯本のこれまでの実績を⽤いた新たな顧客経済への貢献と⾔える。審査員の⼀⼈からは平屋で屋根⾯積が広く、庇の設置が可能で⼩規模の建物でエネルギー消費量が少なく実現できて当たり前という意⾒もあったが、今後の実現可能性があるか、同じように完全ZEBが達成できるかどうかは未知数である。しかし、⽯本の実績と環境に対する提案⼒がこの成果に繋がったと考えれば、建物のデザイン、形態の議論はあるものの、⽯本の新たな価値(バリュー)の創出と⾔うことができる。多様な価値観を評価していく技術奨励賞であるからこそ評価できる価値だと考え、「特別賞(環境建築の実現)」の受賞とした。
受賞者コメント
獨協大学コミュニティスクエアは従来のキャンパスから少し離れた場所に位置している特性を活かし、より自由度の高い第二のキャンパスとして計画。地域連携事業の場として、学生主導の展開を実現する建築を目指した建物です。プロジェクトでは大学が取り組んでいる自然エネルギーの有効活用や低炭素化等の各種環境施策を継承・発展させ、完全ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現し、CASBEEの評価Sランク、BELS5つ星を取得しました。大学の主軸でもある環境への取り組みを具現化したコミュニティスクエアが、社会的にも「小規模でありながら環境に配慮した建築」として意義のある建物となっていくことを期待します。
実績ライブラリ
最優秀賞
対馬博物館
講評
日本本土と韓国とのちょうど中間に位置し、古より独自の文化を重ねてきた離島、対馬のあゆみを伝える博物館の計画である。敷地は、対馬藩主宗家の居城跡、史跡指定地の石垣上に位置する。永い年月を重ね特別なものとなった場所において、新築される建物がどのように存在するかという課題に対し、石垣の角度に沿うようにわずかに角度を変える3枚の大屋根と透明感の高い外皮で外観を構成し、まるで屋根だけがそこにあるような佇まいにより、敷地に調和しながら強い存在感を放っている。永く跳ね出したシャープな軒先と深い陰影により、物静かな伝統性を重んじながらも意欲的な挑戦への意志が同時に伝わってくる。 建物内部は、博物館の使命である「護る」ことを主題に、収蔵庫を中心にそなえ、象徴的な存在として位置付けている。施設の本質的な機能を最優先に捉え、それを中心に空間を展開していく施設構成は、非常に説得力が高い。RC壁に囲われた収蔵庫に耐震力を負担させ、外周部を軽快な鉄骨柱が支える架構が構造的な合理性と空間が持つ魅力を存分に活かしている。角度の振れ幅により生じる視線のずれも常に空間の多様性を語りかけるしかけとなって機能している。空調の吹き出しを始めとする機械設備の納まりや照明器具のセレクト、間接照明の効果等についてもあらゆる角度からデザイン的な検討がなされており、建物の質の高さを物語っている。本建物には、屋根でも使われているリン酸処理材をはじめ、収蔵庫の壁の陶板せっ器質タイルや展示室のスチール黒皮パネル、黒漆喰の研磨仕上げ等、多様な仕上げが用いられている。壁のコンクリートについても、通常の化粧打放しに加え、OSB型枠を用いた打放やはつり仕上げなど多彩である。ともすると、この規模感でこのような多様な仕上げを用いることは、やや煩雑になる危険性を有するが、本施設では材料や納まりについて徹底的に吟味、考察することにより、それぞれが固有の魅力を表現しながら見事なまでに空間的なまとまりをつくりだしている。設計者のマテリアル・ディテールに対する思いに強く感銘を受ける。込められた思いの量とそれをまとめ上げた巧みさが、類を見ない作品として高く評価された。
受賞者コメント
対馬を訪れ、歴史、国境、神話、など普段はやや距離をもって捉えている事柄が現代の暮らしと地続きに存在している驚きを今でも覚えている。敷地は対馬藩主宗家の居城跡地の石垣城であり、前述した対馬の特性と相まって歴史の重みを現代建築としてどのように受け止めるか6年間考え続けさせられた。対馬特有の空気感をマテリアルやディテール・プロポーションなどで捉えることにより、ここにしかない場をつくれないかと考えた。島に通う中で多くの方に出会い、支えられ、時には厳しい言葉を頂き、そのことが建築の実現の大きな糧となった。これから永きにわたり、対馬の誇りを醸成する場として育っていくことを願っている。
実績ライブラリ
最優秀賞
磐田市文化会館「かたりあ」
講評
市の文化芸術拠点として計画された約1500席の多目的ホールを中心とした施設の計画である。敷地は、当社が設計した体育施設と小ホールを中心とするコンプレックス「アミューズ豊田」や市立図書館「ひと・ほんの庭 にこっと」、体験型文化施設「新造形創造館」といった文化施設が集約されたエリアの一角にある。周辺施設との連携、将来の建替え計画を見据え、プロポーザル時の提案から建物を90度回転し、周辺施設と向き合う北向きの配置とされた。将来的には、文化会館と向かい合う位置に広場が計画され、これを中心に文化施設が展開されるという構想に沿って計画された配置は、本施設のあり方だけにとどまらず、地域全体の未来に配慮した取り組みである。外観は、コンクリート打放のホールと舞台のボリュームを、屋根材が壁面までつづく特徴的な形態の下屋が取り囲むシンプルな構成としている。外壁に大きく開けられた開口部からは、内部の市民の活動が表出し、文化エリア全体の賑わいの創出に寄与する設えとなっている。建物の内部は、ホワイエの空間や上階へと導く階段、ホールの内装、さらには客席の手すりやサインに至るまで、一貫して多面体をデザインモチーフとしてまとめられている。この多面体のモチーフは、ホール内部では音響的な効果はもちろんであるが、多様な音響・照明設備をうまく納める媒体としても、ホワイエでは限られたスペースの中で必要な機能を納めるための空間づくりにも効果的に扱われている。ダイナミックな空間の演出と、細かなこころづかいまでが1つの流れでつくられていることに、設計者のものづくりに対する強い意志が表出している。1200角の大判タイルの床や杉小幅枠型枠のコンクリート打放し、そして天然木材により構成される建物の内部は「ハレ」の場に相応しい品格が漂い、特別な場所の期待感を感じさせる演出がなされている。
コンパクトに機能をまとめながら非日常を体感するに相応しい空間性を演出し、意匠、構造、設備が高いレベルでまとめられた非常に完成度の高い作品であることはもちろん、文化エリア全体の将来への提案、ひいてはまちづくりへの寄与に対する取組への評価として最優秀賞に選定された。エリアの中心に整備される広場越しに本施設の賑わいがつながる姿が非常に楽しみである。
受賞者コメント
磐⽥市⺠⽂化会館「かたりあ」は文化施設としての品格、市民の居場所となる空間づくり、専門性の高いホール機能が求められたプロジェクトです。この場所の特性から、シンプルでありながら建物そのものがランドスケープとなるような建築を提案しました。外観に穿たれた開口部には市民活動がまちの風景として写しだされ、内部は一つの大屋根の下に多彩な活動が広がります。賑わいとともにホール施設としての非日常体験を演出することで、市民が主役となる施設を実現できたと感じています。建築を通してつながる人や活動が市民の文化芸術活動の原風景の一つになることを願っています。
実績ライブラリ
優秀賞
KFGビル(九州フィナンシャルグループ本社ビル)
講評
熊本市に建つ金融グループの新本社ビル計画である。顧客のシンボルマークである「大樹」を表現したファサードデザイン、テナント共存に対するフレキシビリティ、内外が融合する空間構成、多様なワークスペースの創出、地域性と調和した環境技術の導入、BCP計画に至るまで、現代のオフィス計画に求められる様々な設計のテーマを1つ1つコンセプトとして明確化し、デザインや技術によって具現化している意欲作である。特徴的な大きく跳ね出したハーフPCの庇と雁行したガラスカーテンウォールは外観に透明感と同時に陰影を作り出しており、枝葉の重なりによって出来上がる「大樹」のイメージがファサードに投影されている。木格子に覆われたエントランスホールは来訪者に強い印象を与えるものであり、グループのブランドイメージを高めるアイコニックなデザインとなっている。計画の規模に比して敷地条件は決して潤沢ではなく、形態制限から高さ方向でボリュームの切り替えが必要であるが、スカイテラスを配置することで内外空間が融合する豊かな空間に転換させており、平面だけでなく断面あるいはパースペクティブの検討が同時になされたことを伺うことができるものである。眺望の優れた執務室、各階で異なる表情を持ちながらフロア間を貫くエコボイド、エコボイドに隣接して配置されたワーキングコモンなど働き方の多様性と快適性への求めに応えたワークスペースが作り出されている。全面ガラスのファサードを実現するダブルスキンシステム、風向特性を生かした自然通風、セキュリティとフレキシビリティの両立、建物形状を活かした構造計画などの多岐にわたるデザインや技術のアイデアを具現化するには、設計監理のプロセスにおいて幾度となく繰り返される提案、検討、決定が双方向になされて初めて実現できるものであり、優れた建築の実現に顧客との良好な関係を継続し続けることは非常に重要なファクターであることを改めて感じることができる。街並みの中で異彩を放つ存在感の強さと繊細なディテールに込められたデザイン力、プロジェクトに込められた提案メニューの多さとそれらを意匠・構造・設備で高次元に統合する技術力などが高く評価された。
受賞者コメント
本計画は、KFGのシンボルマークである「大樹」をコンセプトに、環境負荷低減に配慮したダブルスキンとコンクリート庇によるシンボリックなファサードデザインをはじめ、建物形状を活かした自然採光・自然通風システム、フロア構成・必要階高から導き出したソフトファーストストーリー制振等、意匠・構造・環境が高次元で融合した建築を目指しました。
また様々環境共生装置を各所に配置し、内部・外部空間の融合、そしてその融合がもたらすABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の実現を試みています。
KFGビルがハード・ソフトの両面において、この先、熊本駅周辺の副都心整備を正しく誘導する先導的な役割を担い、熊本の創造的復興に大きくつながるものと期待しています。
実績ライブラリ
優秀賞
東洋大学赤羽台国際学生寮
講評
国際化を進める東洋大学によって整備された、留学生と日本人学生が混在する国際学生寮である。「従来の寮形式である個室型とユニット型を融合した交流を育む学生寮」をコンセプトに掲げ、新たな国際学生寮の在り方として「交流型」を提案し実現したチャレンジングな意欲作である。面積効率優先の個室型と少人数コミュニティ形成のユニット型のメリットを融合し、緩やかなコミュニティを形成する「交流型」として、水回りのない最小限の個室12室を1ユニット(1フロア6ユニット)とし、個室以外の空間をすべて共用空間とすることで、これまでに実現することが困難であった豊かな交流空間を生み出すことに成功している。周辺敷地に与える影響をきめ細やかに分析し、導き出された敷地形状に沿った不定形な外形と2つの中庭に面した8の字につながる回廊(リビング)により、風と光を取り込み、緩やかにつながる変化にとんだ連続空間が、中庭を中心に寮生の活動を施設全体で見渡すことができる構成である。このリビングには水回りはもちろん、学習室、学習コーナー、シアター、小上がりスペース、キッチンなど、様々なスケールとタイプの交流に呼応する仕掛けが配置され、一人だったりグループだったり、その日の気分で寮生自身が居場所を選択できる。個室に閉じこもることなく、日々を過ごしたくなるような心地よい良質な空間、まさにリビングのような空間であり、ユニットを超えた寮生同士の交流が期待できる。各大学がしのぎを削り、学生獲得に向けて国際学生寮の計画が行われる中、グローバルな人材育成の場として留学生と日本人学生が共に生活し学ぶ場の実現は、顧客(大学)への貢献につながるものと考える。また、魅力溢れる交流空間を内包する一歩先を行く国際学生寮の実現は、石本の新たな引き出しとしても評価したい。これまでにない緩やかなコミュニティを形成する「交流型」の国際学生寮のコンセプト立案から実現につなげた手腕は見事であり、新たな技術奨励賞の評価ポイントである「先見性」(常に未来を考え、新たなものを創造する試み)を実現したプロジェクトといえる。
受賞者コメント
アジアのハブ大学を目指し、スーパーグローバル大学創成支援(SGU)に採択された東洋大学がプロデュースした国際学生寮です。入居者の半数の日本人学生と半数の留学生あわせて300人が、様々な背景を持つ仲間として教室だけでは学ぶことができない日常生活そのものが学びと交流の場となるような空間をデザインしました。入居者の多様なコミュニケーションを誘発するように、明るく風が通る中庭に面し学習室、小上がり、畳スペースなど変化にとんだ共有空間を緩やかに連続するように配置しました。仲間との交流やイベント参加などを通じて、価値観や文化的な違いを乗り越えながら共生する力を伸ばしていける交流の場となっており、次世代のグローバル人材育成の一助になることを願っています。
実績ライブラリ
優秀賞
板橋区立上板橋第二中学校
講評
生徒が授業ごとに専用の教室へ移動して学ぶいわゆる「教科センター方式」による中学校の新築計画である。教科センター方式は石本ではいくつか事例があるが、HB立寄り型の教科センター方式は石本初である。ここで毎日の生活を送る生徒にとっては教科と教科の「間」が重要である。いわゆる学校建築セオリーである教室の南側配置、教室+廊下+共用部といった既成概念を抜け出し、教科教室型の潜在的な特性を最大限発揮できる空間構成の探求、移動空間も教具として学びの空間につなげられる仕掛けを講じるなど新しいプロトタイプを目指した点が大変意欲的である。教科や学年のまとまりは平面・断面構成においてシンプルにゾーニング化されており、図式的にまとめられている。一方実際に出来上がった空間はHBと教科センターの配置、光庭の挿入、廊下とメディアの境界の緩やかなつくり、溜まりの場ともなる階段、回転書棚やカウンターデスク、明るく清潔感のある水回りなどが図式的構成に変化を与えており、豊かな学びと生活の場を獲得している。敷地の高低差を活かし昇降口は2階に配置され、校庭まで連続するレベル差が内部のブリッジ空間と交差するなど空間演出に生かされており、立体的で豊かな動線が生み出されている。また将来的な可変性を考慮し耐震要素の配置に工夫を凝らした構造デザインにより、教育スタイルへの変化に対するフレキシビリティを担保している。教科メディアの中心に配置された光庭はライトシェルフによる優しい光と風をもたらし、明るく快適な共用空間の中心を担っている。校舎全体が豊かな学びの場であり、石本の文教施設設計の高度化・成熟化の好例でとなっており、教科センター方式のプランニングにおいて提案された新しい試みが「先見性」を有している点が高く評価された。
受賞者コメント
上板橋第二中学校で探求していた、「純粋な教科のまとまり」「多彩な学びのシーンを支える仕掛け」「フレキシビリティの高いフレーム」「敷地高低差環境を活かす空間づくり」などによって、生徒同士や教職員と語らいながら、色んな教科に出会い、日々楽しく過ごす風景が花咲くように広がっていくこと。 そして地域の心の拠り所となる学校として、「使いこなしながら、ますます建物を育てていく」そんな状況が生まれることを願っています。設計者のみならず、発注者、施工者、学校関係者が皆同じ想いで関わり出来上がった作品であることを改めて再認識することができました。
実績ライブラリ
優秀賞(貢献)
蒲郡市民体育館耐震・長寿命化改修
優秀賞(貢献)
(独)国立病院機構 北海道がんセンター・北海道医療センター西館
優秀賞(貢献)
ららぽーと福岡とこれまでのららぽーと実績
優秀賞(貢献)
環境統合技術室の活動
ランドスケープ賞
佐久大学6号館
講評
南側に雄大な八ヶ岳連峰を、北側に日本を代表する活火山浅間山を望む風光明媚な敷地にある既存大学キャンパス内の新校舎である。地域医療の担い手を育む大学の新たなシンボルとなること目指し、大屋根の下に図書館、ラーニングコモンズ、講義室等を備える学びと集いの拠点を創出している。施設は講義室、ゼミ室を内包するコンクリートのボリュームをL字型に配置し、さらに広場を囲うように大屋根をかけ渡す構成としている。大屋根の下、コンクリートのボリュームとの隙間は、ガラス張りの図書館やラウンジ、ラーニングコモンズといった学生の居場所が緩やかにつながっている。地震力をコンクリート部分に負担させることにより、スリムな鉄骨柱の存在はほとんど気にならない。大空間に対する床からの空調や空間の意匠性を高める照明器具の配置等、すべてがバランスよく統一されている。デザインによる空間表現、運用面も十分に配慮された機能性、意匠と構造と設備の整合性がきめ細やかに検討なされており、非常に高いレベルで結合している。特徴的な屋根が与える印象は外観では言うまでもないが、施設内部でもいたるところでと地場産の杉ルーバーによりその形状が直接表現され、小規模な施設ながら想像以上に多様な表情が連続して生み出されている。施設の中と外のつながりも丁寧に読み解かれ、窓に面した閲覧室や外にはみ出す大階段とラウンジ等、どこにいても心地よさが伝わってくる。特に印象的だったのは図書館の広場側に突き出た軒下空間である。木毛セメント板と杉ルーバーによって構成される軒は先端で適度な高さに抑えられ、ガラスを通してつながる図書館を横目に見ながら広場とつながる居場所の設えは秀逸である。
受賞者コメント
佐久大学は、地元に残り地域の保健・医療・福祉を担う人材を多数輩出する地域に根ざした大学です。学生に佐久地域の良さを知り愛着を持ってもらえるよう、学生生活がより充実したものとなるように想いながら業務にあたりました。雄大な山々に囲まれた穏やかなロケーションで、地域医療に貢献する心暖かい人材が育成されることを願っています。
実績ライブラリ
グラフィック賞
岩国市立小学校・東中学校
講評
「橋のまち岩国」錦帯橋で有名な岩国市に建つ小学校・中学校の一貫校である。敷地にはこれといった特徴はない。そのせいもあって、全体のサイトがリニアな配置となることはごく自然な計画である。しかし、建物内のゾーニングでは小中一貫校の10歳の壁の解消のため階ごとに年齢の近しいゾーニングを行っていて、そのゾーニングや10歳の壁を繋ぐ仕掛けとして、中央にラーニングセンターを計画している。ラーニングセンターは、3層吹き抜けの空間のなかに3つのフロアを設え、使用者に応じて緩やかなエリアをつくりながら全体として空間を統一する計画としている。成長に応じた使い分けのできる見事な設えということができよう。小中一貫校のメリットとして、年齢層の幅が同じ校舎ですごすことによる生徒の安心感や責任感があげられると聞いたことがある。小学校低学年は年の離れた中学生を頼もしく感じるし、中学生は小学生と接することにより自らの大きな責任を感じるという。その考えをこの建物は高度に建築化できていると言えよう。外観はPCaの梁、柱による構造を外部の表現として用い、日除けにも使用するという興味深いデザインとなっている。PCaの白いグリッドは構造体のようには見えず、オブジェクトのように見え、建物のアイコンとなっている。中庭部分は耐震壁と開口部の一松模様で、PCaと共に全体デザインに通底するグリッドの意匠で上手くまとめられている。一方渡り廊下は構造的、施工的に見るべきものが多い試みがなされており、繊細さや施工精度も含めて見事な計画であると言えよう。審査員のなかからは建物のグリッドとデザインの方向性に違和感があるとの意見もあり、もう少し建物のデザインの方向性に寄り添うアプローチがあっても良かったか。ただ、体育館屋根、渡り廊下、プールの屋根は3連の円弧を形成し、岩国の誇りである錦帯橋のデザインをイメージしていて、街が誇れる建物となることを期待する。校舎の道を挟んだ向かい側のプール棟、グラウンドは未だ整備中であるが、全体の出来上がりが楽しみな建築である。本計画は、全体的な建物の構成やデザインが統一されたコンセプトの基に表現されており、ゾーニング、色彩、レイアウト等もリンクした優れた計画と言える。デザインと合理性の計画が高いレベルで実現されている本作品は、「グラフィック賞」に最も相応しいプロジェクトである。
受賞者コメント
市の小中一貫校のフラッグシップモデルとして多くの関係者の熱意に支えられ、実現したプロジェクトです。子どもたちの健やかな成長と教職員、保護者、地域の方々から愛される学校の第一歩が踏み出せた事を嬉しく思います。
建物は「つなぐ」をテーマとして計画しています。学校の中心に3層にわたるラーニングセンターを配置し、回遊動線をつくり、教科のメディアもつなげ、教科を超えた学びを誘発させることで、つながる学校のあらたなシンボルとなりました。子どもたちが9年間を通して、集い、楽しく学び、安心して生活できる学校が実現できたと感じています。
歩道橋の架替えも重なり、2つの敷地をつなぐ橋もつくることができました。この橋が、「橋のまち岩国」の景観形成やアイデンティティの継承など、まちづくりに寄与していくことを願っています。
実績ライブラリ
インテリア賞
Stage Felissimo
講評
全体計画は神戸市新港突堤西地区再開発事業の一環であり、周辺地域は集合住宅や水族館、温浴施設等の整備が進んでいて、今後もホール等のにぎわい施設が開館予定である。新しく整備される街並みで将来的には本建物を含めて連続したペデストリアンデッキ(神戸市が整備)で繋がれる予定となっている。そのエリアの一部に本建物は建設された。敷地南側は神戸港に面しており、北側には六甲山を望む抜群に良いロケーションにある。建物規模はそれほど大きなものではないにも関わらず、場所の力と開放的な立面デザインにより、伸びやかで大きなスケール感を持つ建物となっている。外観は門型で囲んだ高層部にワイナリー(がある!)、レストランの低層部が港に向けてせり出していて、低層部の屋上はテラスとなっている。高層棟はソリッドな門型のなかの南北面をガラスのカーテンウォールとし、神戸港⇔六甲山のビューが抜ける計画となっている。「建物の内外を結びつける心地よい空間の実現と美しいプロポーション」が高度に実現された外観、内観であると言える。快適性の高いオフィスは、ここで働くスタッフの能力を最大限発揮できる環境づくりに寄与している。(注:インテリアのクレジットに「エイト」という海外のオフィスが記載されているが協働設計であり、設計時は全体のデザインコンセプト及びインテリアデザインはエイトと石本の提案、監理段階では石本のみであることを記載しておきたい)基準階のオフィスのインテリアはシンプルの極みであり、天井レスで色彩も単色(白)でまとめられているが、コストダウンやチープな印象は全くない。どちらかと言えば、明確な目的をもった仕上げの方向性という感想を持った。1階のホールは外部開放されるがこちらもオフィスと共通で、仕上げはシンプルでありながら三次元的に折られた壁面と色彩を抑えたインテリアでニュートラルでありながら、表情のある空間表現となっている。全体的に華美な仕上げを用いていることではなく、シンプルにデザインされている。これは顧客の意図でもあったのだろう。顧客の求める意匠と石本の提案で品よくまとめられていることは審査会でも評価が高かった。(8階のみは様々なテーマ性を持った会議室、茶室が計画されており、ここは石本の設計外)また視察は社員の方々が業務されているときにお邪魔させて頂いたのだが、スタッフがこのステージフェリッシモで働くことに喜びとプライドを持っていることが随所に伺えた。プレゼンの最後にスタッフ全員が2階のテラスと南面のカーテンウォールの前に立って手を振る動画が流されたが、建物が受け入れられ、愛されていることが感じられる感動的な映像であった。我々はアノニムなユーザー相手に仕事をすることも多いが、ユーザーが目に見える形で建築の新しい価値を見出してくれる時、我々は限りない幸せを感じることができるだろう。本計画を視察しながらそのようなことを考えた。
受賞者コメント
Stage Felissimoは神戸の海と山の景色を結ぶゲート状の外観はウォーターフロントの新たなシンボルともなっている。低層部分のホール、ミュージアム、ギャラリー、ワイナリー、レストランは透明度の高いガラスが内外をつなぎ、一般の人々も利用ができるまちに開かれた施設となっている。高層部分のオフィスは東西両サイドに会議室やコアをまとめることで、神戸の海と山の眺望をつなぐ、大きなワンルームのようなシームレスなコミュニケーションを生み出す構成としている。オフィス内には商品サンプルの収納やデザイン資料の保管に使うことができるメザニンと他の様々なスペースが設けられ、はたらく人々が創作活動の段階に応じて働く場所を選択できる。
実績ライブラリ
サスティナビリティ賞
上田市本庁舎
講評
長野県第3の都市である上田市の新庁舎の建て替え計画である。市役所は三の丸に位置し、周辺には当時のお堀や街区構成が残っている中、新庁舎を建設し、既存の南庁舎のエコ改修と共に、既存高層棟の地上部分を解体し、地下躯体をクールヒートトレンチとして新庁舎と接続して利用する事業である。
歴史・環境・地域を紬ぐサスティナブル庁舎をコンセプトに掲げ、様々な挑戦を試みているプロジェクトである。エコボイドによる自然通風・自然採光、高断熱外皮、水平庇・縦ルーバー・ガラス性能による日射遮蔽、水冷媒天井放射空調、ナイトパージによる夜間冷機利用、夜間熱ヒートポンプ、既存庁舎の地下躯体をクールヒートトレンチとして利用するなど、環境統合技術のトップランナープロジェクトとして様々なエコアイテムを計画に取り込み、国交省サスティナブル先導事業として採択されている。
特に、執務空間の内装については、構造のBH鉄骨梁(耐火塗装)の下フランジ上部に導光板照明を設置し、冷房天井放射空調パネルを斜めに設置することで、アンビエント照明として照らしている。効果的かつ効率的な納まりにより、階高3.9mで天井高3.0m以上を確保することができている。シンプルに構成された天井は、照明、空調パネルとともに構造の梁さえもインテリアの一部となり、これまでにない洗練された執務空間を実現することができている。これまでの石本の技術と経験を結集した構造・空調・照明の三位一体のサスティナブルデザインであり、今後の環境統合技術の目指すべき方向の一つと感じることができた。
これから解体される既存庁舎(1967年竣工、石本設計)と新庁舎の両棟に光が灯り並び建つ写真の紹介があったが、まさに新旧のバトンタッチが行われる瞬間であり、既存庁舎の先輩方からの石本スピリットを受け継ぎ、次世代へとつなげていく、まさにサスティナビリティ賞にふさわしいプロジェクトといえる。
受賞者コメント
本計画では城下町の景観条例から、基準階高を最小限に抑え必要なフロア数を確保することが求められました。そこで基準階高を3.9mとし、構造材はインテリアになるよう繊細で美しく、空調設備は限りなく薄く、照明は構造と空調パネルを上手に照らすタスクアンビエント式とし、平均天井高さ3m以上の、低い階高の中でも広々とした執務空間を実現しました。そのほかにも省エネ技術をふんだんに活用し国交省のサスティナブル建築物等先導事業に採択されています。また、旧庁舎は解体後、地下躯体は残しクールヒートトレンチとして再活用する計画です。この旧庁舎も石本建築事務所の設計で、先人からのバトンタッチを受けた想入れ深いプロジェクトです。
実績ライブラリ
技術奨励賞
鹿児島銀行本店ビル・本店別館ビル
講評
鹿児島市内に建つ地方銀行の本店ビルの新築計画である。敷地は昔ながらのアーケードに面していて、アイレベルの建物の顔づくりが難しいプロジェクトと思われたが、アーケード以上の存在感、ボリューム、スケール感で鹿児島の顔となる施設となっている。地域の賑わいを創出するため、2棟ある低層部の1~2階は商業施設を配置している一方、営業窓口が3~4階に計画されていることも銀行の計画として異質ながら、営業ロビーのインテリアの色合いや仕上げ、また営業室の床レベルを営業ロビーより下げて営業室の行員超しに屋上庭園を演出的に見せる(窓を通した水盤と屋上庭園の見え方は映像のよう)など、(デザイナーとの共同はあるものの)顧客の挑戦的な試みに設計者として十分に応えられた計画の内容だと感じた。最上階は360度回遊可能な展望フロアとなっていて、鹿児島市内を一望できかつ桜島の雄大な景色を目前に感じることのできるスペースは圧巻の一言である。
外観は「大樹」のコンセプトにより上部に向かって開いていくような形態的なイメージ、そしてカーテンウォールを通した内装の木の外部への表出によって、コンセプトの重層的なイメージが現実化している。鳥瞰画像の印象から全体の建物ボリュームが鈍重ではないかとの懸念を持ちながら現地視察を行ったが、アイレベルからの視点、通りからの視点いずれも違和感は全く無かった。それよりも桜島と共に屹立する姿は新しい鹿児島の顔と地域のシンボルとしての存在感にあふれていた。環境的には東西面に内気循環型のダブルスキンの採用により熱負荷を低減すると共にベンチレーションバルコニーを設けてオフィスの快適な自然換気を実現している。建物のスケール感、地域に対する影響力、街並みに対するデザイン性など周辺環境に大きな影響を及ぼす建物であることは間違いない。本年度の技術奨励賞に相応しいプロジェクトとして審査会でも多くの賛同を得られた。
受賞者コメント
地域に根差す新しい銀行本店として、天文館地区の賑わいの創出に寄与する施設づくりや、来店されるお客様に最上級のおもてなしを提供できる空間づくりを目指しました。設計コンセプトでもある「地域に根差し成長を続ける対の大樹」をイメージしたデザインには、その土地のシンボルとしてこれからの未来も輝けるものになりたいという想いが込められています。本施設が鹿児島の新しい風景の一部となり、街の賑わいと一体となり、地域の皆様とともに鹿児島の未来に寄与していくことを願っております。
実績ライブラリ
ランドスケープ賞
BOATRACE六本木
講評
ボートレース及び同振興会のブランディング及びマーケティングの拠点として計画された施設である。事務所、ホール、スタジオからなる複合施設であり、高度なセキュリティ管理と、情報発信拠点に要求される開放性についての課題を解決するために、建物を高層棟とホール棟に二分し、その間に広場を配置するという構成が、本施設の最も特徴的な点である。ボートが水面に生みだす軌跡をモチーフとし、緩やかに隆起する曲面が波紋状に連なる広場のデザインは秀逸であり、その輪郭線がそのまま2棟のファサードを描きながら、さらに建物内部にもつながっていく構成は、ランドスケープと建築がまさに一体となって表現されている。
外装のダブルスキンカーテンウォールからインテリアに至るまで、すべてに亘りデザインのコントロールがなされており、徹底的に突き詰めたディテールとあえて割切りシンプルであることを選択したディテールを共存させながらひとつの建築を成り立たせる設計者のバランス感覚と際立つセンスが随所に感じられる。
実施設計の構造、環境をゼネコン設計部が担当するJVでの設計体制でありながらも、当社が主導することで、建築の質を落とすことなくまとめながら、ランドスケープアーキテクトやライティングデザイナーとのコラボレーションも極めて高いレベルで融合させている。港区六本木という東京都内においても特別な意味をもつこの土地において、これだけ魅力的な屋外空間を実現したことは、まちづくりの観点からも非常に価値あるものと位置付けられ、多くの評価を受けてランドスケープ賞に選定された。コロナ禍のために、現在は使用を制限されているというこの広場が、本来の姿で利用されている風景が非常に待ち遠しい。
受賞者コメント
一般的に、自社の専用施設においては、警備や維持管理上の理由から積極的に公共空間を設けることは稀である。SIX WAKE ROPPONGIにおいては、敷地に余白をつくり街に開放することがボートレース事業の性格や目的と一致するというご判断から、ホール棟と高層棟を分散配置し南北に縦断する広場をつくるという思い切った提案が受け入れられた。このような開放的な場を生み出すことができたことは、ボートレース事業の根幹に社会貢献の精神が浸透しており、収益の還元だけでなくあらゆる側面でそれを実践しようとする姿勢の表れであると考える。敷地と容積を使い切り、いかに外界から閉じるかを考えることの多い都市型施設とは正反対のプロセスによって、これからの時代性と施設のあり方を考えるきっかけとなった。
実績ライブラリ
グラフィック賞
全国信用組合会館
講評
東京駅にほど近い京橋1丁目に位置する全国の信用組合を会員とする系統中央金融機関の新本部ビルの計画である。計画地は都市再生特別地区として指定された街区であり、2つの超高層ビルの真裏に位置し、ともすれば埋没してしまう立地条件といえる。そんな中で、全信組連らしい建築とはどのような建築がふさわしいのかを真摯に考え、「クライアント・アイデンティティ」となる裏表のない建築の実現を掲げ、詳細部分に至るまで検討をおこない見事に昇華させた作品となっている。 全信組連のアイデンティティを表現する永続的でシンプルなデザインがふさわしいと考え、4面を道路に囲まれた単独街区のどの通りに対しても裏表のない32m角の立体格子デザインを採用している。
設計者は、いかに繊細で美しい立体格子を実現できるかを最大のテーマに掲げ、限界への挑戦と銘打って、このプロジェクトに取り組んでいる。外観の特徴ともいえる彫の深いアウトフレームデザインについて、繊細で美しい立体格子を実現するために様々な工夫がされている。構造計画は、外周部に2.4mと2.7mピッチの柱を細かく配置し、外周部の梁せいを抑えるために、大梁小梁ともに外周の鉄骨柱に向けてハンチ形状とすることで、外周の柱梁共に400に統一している。フレームの外装は、620mm×2500mmの大型セラミックタイルを打ち込んだGRCパネルを採用している。防汚性に優れるセラミックタイルの採用により、全信組連らしさを表す温かみのある立体格子デザインの一助となっている。他にも細部に至るまで、様々な工夫、検討、モックアップを確認しながら、丁寧に創りこまれており、シンプルに見せるための設計者の確かな力量と強いこだわりを感じとることができる。設計時のイメージパースそのままに実現できた立体格子デザインは、意匠と構造が目指すべきデザインイメージを共有しながら設計を進めることができた証といえる。照明計画についても、立体格子を際立たせ、周辺の街並みを明るく灯すとともに全信組連の存在感を表すことに成功している。
ファサードデザインだけではなく、執務空間として利用しやすい広さの確保、リフレッシュスペース等の平面配置による裏表のないファサードに追従する矛盾のない平面計画も理にかなっている。また、天井染み出し空調システムの採用など快適な執務空間を実現している。 意匠、構造、環境の統合による質の高いオフィス空間の実現と研ぎ澄まされた端正な立体格子デザインによるコーポレートアイデンティティの実現が高く評価され、グラフィック賞に選定された。
受賞者コメント
全信組連旧本部ビルは昭和45年に当社が設計監理を行い竣工した建物であり、今回約50年の時を経て再び本部ビルの設計に携わることができ大変光栄に思います。本計画は京橋の再開発に伴い、旧本部ビルに隣接する新たな敷地へ新本部ビルを移転し建設するプロジェクトでした。一般的に再開発特区では設計から竣工までに非常に長い年月と多くの関係者の協力が必要となりますが、このプロジェクトにおいても長い計画期間の中で、施主・設計者・施工者がコンセプトに対し強いこだわりを持つことで、妥協することなく目指す姿を実現することができたと思います。
実績ライブラリ
インテリア賞
長野県立大学 三輪キャンパス・後町キャンパス
講評
長野県での県立大学の新設計画である。プロジェクトは校舎がある「三輪キャンパス」と学生寮が整備された「後町キャンパス」の2敷地にまたがるものである。特筆すべきは「三輪キャンパス」の校舎棟である。校舎棟は、教育機能(講義室や研究室)の集積(「イエ」と呼ぶ)と共用部(「ミチ」と呼ぶ)の関係性を有機的に連続させて多様な場所の創出を実現し、建物のなかにあたかも一つの街をつくるような構成となっている。「イエ」は矩形のまとまりで構造的にもインテリア的にも完結していて、「ミチ」がその間を繋いでいて「ミチ」は自由度が高い空間となっている。建物全体の構成、平面、空間のリンクする稀有な事例と感じた。通常学校の教室、共用部の関係性はリニアなものが多く、スペースの効率性から考えても、本施設のような構成は特異的であると言える。しかしこの構成がこの建物の特徴を表現しており、それに伴ったデザイン性や空間的な独自性が新たな学校建築の可能性を生んでいる。
外観においても、矩形の「イエ」のボリュームが規則的でない間隔で配され、そのボリュームの間を「ミチ」が埋める表現となっており、構成と外観がここでもリンクしている。各「イエ」の形態は成型となることなくボリュームに変化をつけ、またマニエリスティックな手法を感じさせるボリュームから開口部の切り取りなど意識的にバランスを崩す操作が行われている。環境的には「イエ」部分は外断熱で開口部を抑え、「ミチ」部分は外断熱と自然通風、ナイトパージを組み合わせ、外部環境の変化に対応したエコシステムとなっている。つまり環境的にも全体の構成とコンセプトがリンクしているのである。
審査会でもプロポーザルの提案時での構成の提案、そして建物として建築的、構造的、環境的に実現したことを評価し、技術奨励賞に推す声も多かった。全体のスケール感や周辺環境への影響等の議論の後、惜しくもインテリア賞となったが、建物の革新性や創造性は高く評価された。
受賞者コメント
新しく設立される大学のキャンパスを一から設計するという貴重な経験をさせていただきました。設計中は審査委員会の先生方よりご意見をいただき、理事長・学長をはじめ、県・新大学関係者の方々とこれからの大学のあり方を討議し、新大学への理解を深め合うことができたと感じています。一連のプロジェクトを通して、県立大学のブランディングと、地域との関わりを深めることに設計者として貢献できたと考えています。2018年に開学し外構等の全整備工事完了を経て、2021年4月から全学年が揃ったキャンパスとなり、これから県立大学が「知の拠点」として地域に根付いていくことを願っています。
実績ライブラリ
特別賞
富士屋ホテル耐震改修
講評
富士屋ホテルは、言わずと知れた箱根・宮ノ下に位置する創業140年を超える歴史を持つ日本を代表するクラッシックホテルである。複数の建物が登録有形文化財に指定されており、2013年の耐震改修促進法の改正による耐震診断の結果、安全安心を確保するため耐震改修工事が行われたプロジェクトである。これからの50年100年先を見据えて、唯一無二の歴史を後世に引き継ぎながらも、新たな価値を提供し未来を創っていく、新しい「FUJIYA」を実現することが改修事業の目的とされていた難易度の高いプロジェクトである。
富士屋ホテルの魅力は、高低差に富んだ敷地の中に時代性の異なる建物が連なり、それぞれが際立った個性を持っていることである。伝統の継承と新技術の組み合わせにより、建物の価値の本質を残すことに成功している。本館や食堂は、鉄骨ラチス補強を壁、天井内に納め、露出させないで意匠の保存を最優先としている。現地視察を行ったが、補強材の存在は全く意識されることはなく、食堂においては、以前に立ち寄った時のままの姿をみせてくれている。本館1階のフロントカウンターや前庭に面するオーシャンビューパーラーにおいては、図面がないため当時の写真を参考に復元していると聞く。
文化財の保存と安全性の確保の両立のために、文化財的価値の保存、耐震改修、防災改修、劣化改修等、いくつものハードルを乗り越えていかなければならない。特に防災改修については、現在の様々な条例に適用するために、相当な苦労があったことは想像に難くない。設計者の真摯な取り組みと粘り強さが本プロジェクトを成功に導いたといっても過言ではない。全国的に見ても極めて前例の少ない大規模木造宿泊施設の耐震改修により、得られた経験と知恵の蓄積が石本の大きな財産となったこと、また、リビング・ヘリテージ(生きた遺産)として、日本を代表するクラッシックホテルの再生に大きく寄与できたことを高く評価し特別賞とした。
受賞者コメント
富士屋ホテルは、ひとつのホテルであることを超えて、歴史的文化遺産という社会的な存在である。明治から昭和まで、それぞれの時代の要請と歴代の経営者の思想が反映された個性ある建築群が、歴史的積層として、ひとつに連携した有機体である。今回のプロジェクトは、この存在を如何に後世に引き継ぐか、そこに本来的に存在する価値を的確に見極め、その価値を高め、さらに、そこに新しいレイヤーを加え、如何に持続的に発展するホテルとして蘇らせるかが、大きな課題であった。
ホテルが2年間の休業に入り、着工して、内外装を解体すると、長年の風雪に耐えてきた部材の劣化が顕わになったが、同時に、創建当初からの歴史的な営為の積み重ね(改修や増築)の痕跡も多く発見することができ、また、かつてあった空間も見て取ることができた。我々は、丁寧に劣化を補修し、壁や天井の中に耐震補強や防火被覆を挿入し、かつてあったであろう姿を復元し、改修前と変わらない、違和感のない姿で蘇らせた。オープニングの日に、期待と不安の入り混じる気持ちで、2年ぶりに訪れた常連のお客様の一人が、改修前と何も変わっていないと、涙を流して喜んで下さったとのエピソードがいちばんのお褒めの言葉である。
実績ライブラリ
技術奨励賞
昭和電工(大分県立)武道スポーツセンター
講評
大分ドームに隣接する県立武道館の計画であり、メイン競技場と武道場のふたつのボリュームから構成されている。特徴的な屋根の形状は、エッジが効いたソリッドな納まりとなっており、日本刀をモチーフとした「反り」や刃物の鋭利な美しさを連想させる。スポーツ公園内に配置されていることで、建物は四周すべてから見渡すことができる環境にあり、また敷地の高低差から見る位置により多様な屋根の見え方が存在することは、この建物の大きな特徴のひとつである。メインアリーナと武道場の2つのボリュームが関係性を変えながら、様々な風景を作り出していることは非常に印象的だった。建物の屋根構造は木造トラスを採用し、加えてその木材は大分県産の製材を使用している。このことは本建物のプログラム上及び構造力学上の大きな特徴である。県産木材は発注形態も複雑で、発注者の協力が無ければ利用は難しかったが、発注者、設計者、施工者の努力によって、非常に美しい木造トラスが実現されている。トラスが連続する様は体育館の構造的な美しさを充分に表現しており、木材と鉄骨の組み合わせの構造であるため純粋な鉄骨造よりも構造的な部材数は多くなっていると思われるが、色彩や納まり等でそれを目立たせない工夫も評価の対象である。大空間の架講のダイナミズムと繊細さが両立しており、質の高い空間が実現されている。一方武道場はメインアリーナと比較すると構造スパン、高さ共に小ぶりなボリュームであるが、明るく機能的で快適性の高い空間が実現されている。ただ、武道場はこの場所独自の構造スケールがあったのではないか、またメインアリーナと色彩や納まりのイメージ等を変えるなど工夫があれば、ふたつのボリュームの空間の差異が明確となり、より印象的な表現となったのではないかと思われた。建物全体としては意匠、構造、環境各セクションのデザインの一体性が高度に実現されており、木造のダイナミックな空間表現はこれまでの石本にも例がない建物である。高いデザイン性と技術レベル、社会的発信力は審査会でも特に高い評価が得られ、今年度の「技術奨励賞」に相応しいプロジェクトとして選定された。
受賞者コメント
本プロジェクトは26万人を超える大分県民の署名活動に始まり、公募型設計プロポーザルで私たちが設計者に選定された。隣接する大分ドームから徐々にフェードアウトして周辺の緑地になじむ配置計画である。プロポーザル提案では多目的競技場を鉄骨造、武道場を木造として提案していたが、設計段階で木材調達・コスト・構造・3Dの検討を行い、両競技場の屋根木造化を進めた。多くの関係者の想いにより実現した、日本最大級のダイナミックな木造競技場空間である。
実績ライブラリ
グラフィック賞
三千和商工本社ビル
講評
新橋の裏通りに面する小規模な本社ビルの計画である。天空率を利用して容積の割増も検討した結果、延べ床面積の最大化は選択せず、オフィスのワンフロアを最大化する案を選択し、6層で延床約1000m2の規模となった。その選択にはクライアント企業の社訓である「で愛・ふれ愛・つき愛」の三愛精神のもと、人と人との繋がりを大事にする企業の考え方があり、「コンパクトコミュニケーションオフィス」が実現した。建築デザインに関しては、建物の正面エントランスが面する通り側のファサード1面のみに建設コストと設計の労力を投入して存在感のある外観を創り上げた。ファサードの構成は、外壁の過半を占めるオフィスと階段室の壁で覆われたシャフト、オフィスと階段室の間に挟まった小さなコミュニケーションスペースである。ファサードは西向きであるため、西日を遮蔽するアルミパンチングパネルの電動ルーバーがオフィスの全面に取り付けられ、それがファサードデザインのポイントになっている。屋上の太陽光追尾センサーと連動して電動ルーバーを5分毎に回転させ、日射をカットする。太陽の方角と共に日射量の変化と外壁の表情が、内部のオフィススペースから見える外の景色が変わる実に変化に富んだオフィスが実現した。因みに電動ルーバーが設置されているファサードにもワンフロア2箇所の非常用進入口が設けられており、当該部分の電動ルーバーは4枚一緒に鉄骨フレームに納められ、消防隊の進入時には開放が可能になるというファサードを実現させたこだわりを評価したい。
受賞者コメント
着工時、クライアントから「クライアント・設計者・施工者皆一丸となり“チーム三千和”として良い新社屋を作り上げよう」というお言葉がありました。新社屋の設計コンセプトは「コンパクトコミュニケーションオフィス」です。クライアントが新社屋における社内会議を現場事務所で開かれたり、“チーム三千和”として皆が常にコミュニケーションを取り良い建築を創ろうと同じ方向を向けたことで、皆のプロジェクトに対する思いも重なり、設計コンセプトの強度がより高まった新社屋が完成したと感じています。竣工後、私たちの提案した空間が皆様に使われ充実した空間になっている姿を見ると、改めてこのプロジェクトに携われてよかったと思っています。
実績ライブラリ
インテリア賞
ハイアットプレイス東京ベイ
講評
東京ディズニーランドに近接した浦安地区ホテル群の一角を担う外資系ホテルである。敷地は公園を介して海に面するが、敷地形状は海に面する間口が狭く、クランクして奥行が長い計画上厳しい敷地条件であった。ホテルのイメージを高め、効率のよい客室配置と海側への眺めを効果的に取り入れることが求められた。日影規制によるセットバックをそのまま階段状のテラスとして利用し最大客室数を確保しつつ、ホテルとしてのグレード感漂う外観イメージを巧みに創り出している。セットバックの方向が海に向かって90度振れているが、車寄せへの導入と建築の正面との関係、テラスに面した客室の海側の窓の設定などを工夫して、違和感を覚えさせない基本ボリュームの設定となっている。外壁には客室ごとに斜め壁が挿入され設備スペースとして利用されると共に、陰影によって外観に変化を生みだすことに成功している。ホテルで重要なインテリアデザインについては、コーディネーター兼ディレクターとしての立場でデザイナー選定から関わり、客室エリア・パブリックエリア・レストランエリアそれぞれの場所ごとに異なるデザイナーのデザインをコントロールし、調和を持って纏め上げたデザイン管理能力は特筆に価する。インテリア全体を完成度高くまとめ、それを安価な建築材料を上手く使用することによって建設コストを抑え、施主経済に貢献している点も評価された。魅力あふれる外部空間やランドスケープ、照明計画などを含めて、広義な意味での「インテリア」と捉え、インテリア賞に推した。それに相応しい作品である。
受賞者コメント
オープン間近のある夜。パームツリーの立ち並ぶ街路に面したレストランテラスで、お施主様や施工の方々・ホテルの方々とテーブルを囲んでいた時。ジョギングで通りかかった近隣の方が、「わあ、楽しそう、仲間に入れて!」と声をかけてくださった。お施主様はじめ、デザイナー、施工者の方々、ホテルの方々、仲間、といってはカジュアルかもしれませんが、皆様のお力添えでISHIMOTOチームも素敵なホテルの誕生に立ち会えて光栄でした。
実績ライブラリ
特別賞
須賀川市民交流センター tette
講評
東日本大震災によって甚大な被害を受けた須賀川市の中心部に、図書館、生涯学習、子育て支援、ミュージアムの機能が複合した復興支援施設を造る計画である。須賀川市の建築アドバイザーを務める安田東工大教授がプロポーザルの審査委員長となり、若手建築家と組織事務所がJVを組んで応募する技術提案を行い、石本建築事務所・畝森泰行建築設計事務所JVが当選し設計監理を担当したプロジェクトである。プロポーザル時のコンセプト「須賀川の大地が積層する復興の丘」がそのまま実現し、様々な市民活動が行われるプレートがずれながら積層された建築となっている。また、1階はレベル差のある表通りと裏通りをつなぐスロープのある通り抜け空間となっており、その上部にプレートが積層された吹き抜け空間が重なり、各所に上下のプレートを結ぶスロープや階段が設けられ、人の動きも含めた立体的なダイナミズムを生み出すことに成功している。また、図書館の書架を市民の活動に合わせて全館に分散させ利便性を高める試みも、図書館コンサルと協働し須賀川市の運営者も巻き込んで実現するなど、運営ソフトにおいて意欲的な取組がなされている点も評価したい。ただしコンセプトのひとつである機能集約された「メガストラクチャー」については、メガストラクチャーのトラスが他の構造フレームと合理的な関係が薄いためコストアップを招くなど構造合理性に欠ける点や、メガストラクチャーの外部に面する部分を覆うエキスパンドメタルに吹き込んだ雨水が、軒天のパンチングメタルから垂れ流しになっている点など納まりについて疑問が呈された。設計コンセプトや意匠的なイメージなどJVの畝森氏によるところが大きいながらも、図書館を分散させる画期的な複合施設を、市を巻き込んで実現したところを大きく評価して特別賞とした。
受賞者コメント
若手建築家、図書館コンサルなど様々な方々との協働のプロジェクトでした。多くのワークショップの中から各機能が融合するコンセプトをつくり、全体が図書館であるこの建物は、運営側のご理解とご協力があったからこそ実現できた建物であり、新たな複合施設のあり方を示すことができたと思います。交流センターでいきいきとした市民の活動や笑顔があふれることこそ、震災復興のシンボルとして街の活性化につながると考えます。
実績ライブラリ
技術奨励賞
サンマリーンながの・リサイクルプラザ
講評
長野駅の南東にタクシーで15分走ると緑豊かな犀川の河川敷にぶつかる。その犀川の河川敷を背にして、ごみ焼却場とその余熱を利用する屋内レジャープールと集会場の複合施設が隣接する。建替えられたごみ焼却場の前には人工の丘が作られ市民に開かれた公園になるという。その公園の起伏に呼応するように本計画では施設全体を丘と捉え、プールなどの大空間が丘から突き出して施設の性格を表出するという手法を選択した。丘は土盛りの部分と建物の屋上の人工地盤部分からなり、地盤の特性に合わせて細かい植生の分布が配慮されている。施設の丘の真ん中を貫通する通路はエントランスホールであり、公園と河川敷を結ぶ遊歩道の一部でもある。現状の遊歩道は犀川の堤防と堤防上の車道によって河川敷につながっていないが、公園の整備と共に遊歩道の整備もなされることを期待したい。エントランホールであり貫通通路でもある空間の両側は本実型枠のコンクリート打ち放し仕上げとなっており、そこに掘り込まれた開口部は配置、サッシのディテールなど精度高くきれいに納まっており心地よい空間を作り出している。プールのある大空間はレジャープールでありながら商業主義抑えた建築的なボキャブラリーで空間構成が行われ、流水プール、造波プール、滝などのコンテンツの特性を生かすように計画されており好感の持てるものである。今までの余熱利用の温水プールと一線を画する建築で意欲的な作品である。
受賞者コメント
計画地は河川敷に広がる豊かな森に隣接しています。この場所にごみ焼却場と並んで大きな箱型の施設を計画することは景観として馴染まないと考え、緑の丘と柔らかな曲面屋根で覆われた公園のような建築を提案しました。建物自体の形状やそこに込めた技術は複雑ですが、「焼却場の周辺計画」のイメージを覆すような居心地の良い空間をこの地域に創ろう、というシンプルな想いを、多くの関係者と共有して実現できたプロジェクトです。
実績ライブラリ
ランドスケープ賞
上越市市民交流施設高田公園オーレンプラザ
講評
上越市高田城跡の公園に立つ市民交流施設である。機能は最近の公共施設複合化の流れに乗った市民ホール、中央公民館、こどもセンターの3機能が同居する複合施設である。お堀に面した敷地は春の桜、夏の蓮の花などお堀の素晴らしい景観に恵まれている。公園内はお堀の周囲に管理用道路が配置されているがプロポーザル提案時に、施設の庭をお堀に直接面させ管理用道路を施設の後側に付け替える提案をして当選した。本計画はプロポーザルの提案通り、道路に分断されること無くお堀の素晴らしい自然環境と一体的なランドスケープと出来たことが成功のポイントである。施設の構成は市民ワークショップと高校生ワークショップを10回にわたって行い様々な案から絞り込んで行った。複合施設とすることは限られた予算で作られる限られた施設を重ね使いによって最大限に使うことが目的であるという意識を共有するところから、各施設をフラットに共有しやすい1階中庭型のプランが選ばれた。豪雪地帯であるため中庭の芝生面は周囲のデッキレベルから50cm程度下に設定し、積雪時にも問題なく維持管理されている。ホールは豪雪地帯である高田に因んで、雪の六角形をモチーフとした白いインテリアで、建築音響性能も優れたものとなっている。
受賞者コメント
子供からお年寄りまでの多世代にわたる「出会い」や「学び」を誘発し、市民活動や市民交流が活発化する「コミュニティーの拠点」となることを目指しました。四季折々の豊かな周辺環境を感じることができる、誰もが気軽に集まれる場所を創り出すことができたのではと感じています。人や活動とつながる場所として、市民の方々に長く愛される建物になってもらえればと思います。
実績ライブラリ
グラフィック賞
目黒区立東山小学校
目黒区立東山住区センター
目黒区発達障害支援拠点ぽると
講評
本施設は元駒沢練兵場の一角に位置し、周辺は公園、公務員宿舎などの大規模施設が立地する緑豊かな環境である。施設の中核をなす小学校のエントランスは公園に面する長さ100m近い3層のボリュームの中央に端正に開けられている。3層のボリュームには1 階にしか開口部が無いため、外観からは小学校であることが想像できない。モノトーンの端正なエントランスからまっすぐ入っていくと校舎に囲まれたセンターコートに導かれる。そこから見える校舎は黒のシャープなカーテンウォールやDPGの強化ガラスの手摺などクールな印象のディテールでまとめられており、低層のオフィスビルか研究所といった印象を受ける。内部に入ると2階に低学年、3階に中高学年が配置され小学校らしい木質系のインテリアで統一される。低中高それぞれの成長に合わせて、読書コーナー、展示コーナー、手洗いコーナーの設えを変えている。各コーナーの天井高さも学年に合わせてあり、それが学年ごとの変化を生み出している。各学年の中央に配置された教師ステーションは設計当初の学校の方針で学年ごとの担任の先生が集まる場であったが、3期に渡る工事期間を経て教師陣も変わり教育方針が変わった結果、教師の常駐するスペースとならなかった点は残念である。目黒区のフラッグシップ小学校にふさわしい、大人びたシャープな外観と内部の良く検討された教室計画が不思議な調和を見せる小学校である。
受賞者コメント
設計から竣工まで10年と非常に長い年月を要したプロジェクトです。その間、目黒区の担当者様や学校の先生も含めて、多くの関係者が入れ替わりましたが、一丸となって、子ども達が楽しく学べ、安心して生活を送ることができる学校を目指しました。旧校舎の記憶を継承したウェルカムゲートを筆頭に、四周公園に面した恵まれた環境の中、地域住民の風景としてあり続け、100周年(40年後)を迎えることを望みます。
実績ライブラリ
インテリア賞
島根銀行本店
講評
松江市の中心部である駅前の敷地に立つ地方銀行の本店である。地域密着型バンクとして地域の環境への取り組みにおいてもリーダーとなるにふさわしい環境性能に優れ、環境性能を表出した建築を求められた。環境への取り組みを象徴的に表現しているのが前面道路に対して大きく開かれたグリーンプラザである。建築の正面から隣接する駐車場も含めた敷地の間口いっぱいに上下二つのL型の屋根をかけた公開広場を造っている。屋根の下には植栽が施され各所にベンチが置かれ、通りがかりの市民の憩いの場となっている。銀行の本店として権威的な建築でなく、緑豊かな市民に開かれた空間を正面に造るという新しい銀行の形である。銀行の基準階は光環境のリアルアピアランスを用いた輝度設計を行い、西日の落ちる宍道湖の湖面のきらめきの執務空間への光害を制御しつつ、素晴らしい眺望を最大限取り入れることを可能にした。これらを中心とした省エネルギーの取組みで国交省の省CO²先導事業に採択されている。また5階の更衣室に隣接して十分な広さの行員のための交流スペースを設けたり、宍道湖への眺望の素晴らしい最上階に屋上テラスと食堂を設けたり、ワークスペースとしての新しい取組みが評価され日経ニューオフィス賞を受賞した。
受賞者コメント
地方銀行の本店プロジェクトということで、まちのランドマークとして地域に愛される建物を求めて設計を進めてきました。コンセプトとして据えたのは、シンプルな外観。外から内へのつながり。地域特性を活かした仕掛け。それらを顧客に受け入れられたことがなによりの喜びです。そしてその結果を評価されたことうれしく思います。今後も永く美しく地域に根づき、使い続けられることを願います。
実績ライブラリ
技術奨励賞
川越市斎場
講評
伝統的な江戸文化の香る街並みが残る川越市の大規模な斎場である。道路を挟んで向かい側には石本建築事務所の設計による川越市の葬儀場「やすらぎのさと」が有り、外構計画、建物配置は「やすらぎのさと」との調和に配慮されている。「やすらぎのさと」と同じ切妻屋根を平行に並べる構成でメインアプローチも対面する。先ず、メインアプローチから車寄せの切妻大屋根の下に導かれる。この大屋根の大きさが建物全体に適度な屋根のリズムを生み出すのに貢献している。車寄せ・エントランスホール・炉室の三つの大きな切妻のリズミカルな処理に成功していることが外観のポイントといえる。施設裏側の機械室のボリュームの処理まで配慮がなされているのは流石である。この建築の主な仕上は本実型枠のコンクリート打ち放し仕上であるが、外部から内部まですばらしい仕上がり面が続く。監理も並大抵でない情熱と時間が注ぎ込まれていることが感じられる。車寄せの大屋根はPCのT型床版であるが、梁の間に木ルーバーを配している。また大屋根を支える本実打ち放しの柱にも再生木を添える意匠となっている。一見、これらの意匠は建築表現としてコンクリートの強さを弱めるように感じられ、この印象は内部のインテリアにおいても同様であり疑問が残った。しかし、時間をおいて斎場であるこの建築を利用する方々の心情を鑑みると、建築は控えめな表現で利用者をやさしく受け止める役に徹するべきであるという作者の深慮に思い至ったのである。
受賞者コメント
斎場建築とは人生の大きな節目に関わる施設です。斎場建築の設計にあたって、「故人の尊厳を損なわないこと」、「遺族、参列者の心情に配慮すること」が重要だと考えています。川越市斎場では厳粛な儀式進行を可能とする動線計画や各所に四季の庭を配するなど斎場建築としての様々工夫を行いました。石本建築事務所がこれまで長年培った斎場設計のノウハウを活かせた建築になったと思います。
実績ライブラリ
ランドスケープ賞
東北大学青葉山コモンズ
講評
東北大学農学部などがある青葉山新キャンパスの学生共用施設:青葉山コモンズである。用途は図書館・ラーニングコモンズ・講義室・レストランからなる。敷地は農学部の正面アプローチとなるキャンパスモールと広々とした緑の草原と森からなるユニバーシティ-パークに挟まれた伸びやかな場所である。キャンパスモールから近づいて行くと緩やかな起伏のある緑の草原にはめ込まれたかのような低層で鈍く銀緑色に光る建築が目に入ってくる。銀緑色のマッスを草原に面した側を鋭く、緩やかな弧を描きながら切り取るという形体操作が、自然に対する親和性を獲得する事に寄与していると感じられる。開口部についても横に長く、彫りも深く切り取るという操作が行われ、シャープに弧を描く形体にマッチしたものになっている。
切り取られた開口部の軒天及び抱きの部分には地元産の杉材が張られ緑の環境に対峙する形にふさわしいものに感じられた。ただ、開口部の軒天が内部で密度の少ない井桁状の天井に切り替わる部分で連続性が減じるところが惜しまれる。図書館の内部においてはスラブの重なりの工夫から竪穴区画を発生させずに中 2 階の快適な閲覧スペースを実現するなど、確かな設計手腕が感じられた。シャープな感性が光る彫刻的な建築である。
受賞者コメント
敷地の潜在力をできるだけ素のまま活かしたひとつながりの空間を構成しながら、誰もがお気に入りの居場所を見つけ出せる多様性を創出することをテーマに掲げ設計に取り組みました。豊かな環境に包まれた新キャンパスで、この場所で過ごした時間とともに四季を彩る風景の一部として記憶に残るような施設となることを切望しています。
実績ライブラリ
グラフィック賞
相模女子大学小学部さくら館
講評
相模原市の緑豊かな相模女子大のキャンパス内に敷地はある。キャンパス中央の芝生広場を幼稚部から大学院までが共有する。その芝生広場のサクラ並木に面する恵まれた敷地条件を活かすため、全室がサクラ並木に面するシンプルな片廊下型の校舎である。その細長い校舎を2階の壁までRCで造り、長手方向に集成材の梁を並べたことで、この建築の空間が決まっている。端部の音楽室は 2層の空間でそこで長手方向に架けた梁が地上まで下りてくる。そこがこの建築の見せ場である。木の段床が下ってゆく空間にL型の集成材が連続し、その向うにサクラ並木の豊かな景観が2層のガラススクリーン一面飛び込んでくる。そこで音楽の授業を受ける小学生がなんと恵まれていることか。2階の教室は集成材の梁を表した直天井で露出するダクト・配管もレイアウトや色に配慮が行き届いている。1 階教室も同様に直天井でこちらはRCのフラットスラブを露出で見せているが、吸音のグラスウールボードを埋め込み2階とは違った印象の天井で興味深い。RCの箱にL型の木の梁をかぶせるというシンプルな構成を1階・2階それぞれの構造的な特色を活かしながら、上手にまとめた建築である。
受賞者コメント
私立の小学校として、魅力的な木造の学校をつくることを目指して設計しました。木造を見せること、キャンパスの豊かな景観を取り込むこと、小学部のシンボルとなるホールをつくることがテーマでした。竣工後に音楽の授業を見学したとき、立派なサクラ並木に向かって歌う児童の姿が、とても清々しく、凛々しく感じられ、嬉しく思いました。学校の方々をはじめ、このプロジェクトに協力して下さった皆様に感謝したいと思います。
実績ライブラリ
インテリア賞
鎌倉市立大船中学校
講評
鎌倉市の大船駅から南東に歩いて10分ほどの場所にある市立中学校である。敷地周辺は大船駅の密集した商店街から抜け出たエリアに立地し、正面道路には古木の桜並木が残っている。その桜並木周辺をしっかりセットバックして地域に開放された公園としている。セットバックした壁も分節し高さも抑えスケールを小さくした間に植栽を挟み、快適な空間を門前に創り出している。そこから校庭へ真直ぐ抜けるけやきロードの左右に体育館と校舎が並んで建つ明快な構成となっている。学校のシンボルとして大事にされてきたけやきの大木の脇をけやきロードが通り、シンボルとしてのけやきが引き立つ配置であり、正面からの景観が絵になるすばらしい学校である。校舎の構成は南側に普通教室が一列に並び、その後ろに共用部と特別教室が中庭を囲んでロの字型を形成する。中庭を中心に3つのラウンジ:アカデミアラウンジ、ステップラウンジ、メディアラウンジが立体的に連携し、中庭を中心に賑わいを生み出す仕掛けである。
カーテンウォールで囲まれた中庭は透明性が高く、向かいのラウンジの活動が垣間見られ、スケール感も相まって心地良い空間になっている。ラウンジの要所に本実型枠のコンクリート打ち放し仕上やPCのT型床版の直天井が使用され空間を引き締めている。ステップラウンジの客席となる部分が狭いなど、実際の運用に疑問が残る部分があるのが惜しまれる。
受賞者コメント
3年間という短い学校生活が、常に刺激的で、快適に、誰もが心に残る風景としてあり続けられるように、丁寧に居場所を作ることを大事に設計チーム、工事関係者が一丸となりました。生徒以外に地域の人にも好感を与えることができる学校ができたと思います。
実績ライブラリ
特別賞
OIT梅田タワー
講評
大阪梅田駅から徒歩5分の立地にある都心型超高層キャンパスのプロジェクトである。石本建築事務所が環境分野を担当し、省CO²事業に採択された。環境統合技術を推進する石本建築事務所として設備分野のみの業務ではなく、意匠にも踏み込んでまとめた渾身の環境プロジェクトと言えよう。1階のエントランスに入ったところから建築全体の省CO²の状況を刻々と映すディスプレイに迎えられる。デザイン系の学科が利用するスタジオでは細かく設定されたゾーン毎に照明と空調をコントロールすることが出来るようになっており、その液晶タッチパネルまでオリジナルに開発しているという。しかし、利用者も十分に使用方法を理解できないようだ。これからも継続して分かりやすい画面に更新していけば、使いやすさも向上していくと思われた。各フロア北側のコミュニケーションスペースが吹き抜けでつながりエコボイドとなり、3重断熱ガラスをこのプロジェクトのために製品化し、床輻射冷暖房があり、地下2階のクールトレンチをアースチューブと名付け、内部をエコツアーで歩けるようにするなど、どのアイテムにも分かりやすい説明サインが設置されている。これほどまでに環境をテーマにアイテムを揃え、かつ、分かりやすいエコツアーを出来るように計画した例は日本でも他に無いのではないかと思われた。環境建築の力作である。
受賞者コメント
関西初となる都市型タワーキャンパスは、建築計画と石本に蓄積された環境技術の統合的な計画が建物の特徴です。都心大学ならではの空間構成によるタワーキャンパスは梅田のまちの新しい特徴的な景観となりました。開校以来、各方面から多くの施設見学依頼があり、エコキャンパスの環境技術や使われ方にとても関心を持って頂いています。プロジェクトが目指し、結実した取組みが、更なる環境統合技術の進化につながっていくことを願います。
実績ライブラリ
ランドスケープ賞
船場センタービル
講評
建物の南北面を合わせれば総延長2,000メートルの街並み(外壁)改修プロジェクトである。大阪万博の開催に合わせて大阪の町を南北に分断するように建設されて以来、船場エリアの賑わいが失われつつあった。本来外壁タイルの落下防止を主目的とした従来の外観維持の改修プロジェクトに対し、1,000メートルの連続する建築を、繊維の町をテーマにデザインしたアルミパンチングの緩やかにウエーブする二重外壁で覆うことにより、急速に変貌を遂げた御堂筋の街並みにも対照的に追従するイメージチェンジが出来た。さらに1,000メートルを筋毎に貫通する高架下トンネルは、インパクトのあるカラーリングを施した明るいゲートに変えることで、分断してしまった筋の連続性を蘇らせている。夜間は、パンチングメタルを利用したライティングの流れに映し出され「大阪・光のまちづくり2020構想」における東西方向に向けた光の都市軸を形成するものとなった。
本プロジェクトは大阪の中心に一本の光の筋を切り込み、分断された九つの筋に建築デザイン表現を持って南北間の連続性を復活し、船場センタービルの活性化と共に周辺街区にまで賑わいを広げることが出来たことから、グラフィックな要素を併せ持つランドスケープ賞とした。
受賞者コメント
私たちは船場センタービルの目の前のビルに事務所を構えており、施工途中、既存の外観と新しくなった外観を見比べながら、「本当にこれで良かったのだろうか?」と思う不安な日々でありましたが、「生まれ変わったね」と話す声やライトアップの写真を撮る人々を見てやっとその不安は消えつつあります。今回のリニューアルが船場のまちの活性化につながればと心から願っています。
実績ライブラリ
グラフィック賞
中央土地八重洲一丁目プロジェクト
講評
八重洲一丁目の町並みを構成する建物群のなか、時代の変化を象徴する先進性と個性を併せ持つ八重洲にふさわしいデザインを目指し、商業地の発展に貢献することを目標とした記念碑的プロジェクトと位置づけられる。
外観は、全体ボリュームを2分割した上でプロポーションを整える形態操作により、多角形のシンボリックな表現としている。その結果周辺の建物より高く彫刻的に際立っており、テナントビルとして将来に向けた競争力を持つものとなっている。インテリアは、物販一社が全体を借りる条件となった。用意したプログラムは21m×36mの無柱店舗空間であり、将来の変化へ対応するため最小限の改修で事務所用途にも変更可能な計画となっている。投資した無柱空間は付加価値が高い。
単純なフォルムとシンプルなマテリアルにより構成された造型は、日本の玄関口である東京駅八重洲口にあっても、街並みの中でも際立った個性が発揮できる。全面ガラスで構成された立体的多角形は周囲の映り込みや光の反射が面ごとに変化する。隣に並ぶコアブロックとの対比効果もあり、二つの異なる表情が街並みでの強い存在を感じさせる。店舗や事務所での利用に対し合理的な平面計画が、彫刻的形態とともに合理的に構成されていることでグラフィック賞とした。
受賞者コメント
このような特徴ある建築デザインを実現できたことは、長きにわたりこの地で不動産業を営まれてきた中央土地株式会社様の、強い企業アイデンティティを表現することにつながったと考えます。八重洲セントラルパークビルが、東京の表玄関の街並みを作り、長きにわたって八重洲・日本橋の発展の一端を担っていくことを望みます。
実績ライブラリ
技術奨励賞
生駒市立病院
講評
生駒市立病院は、指定管理者の医療法人徳洲会にて運営され、市内で不足する小児の二次医療や二次救急医療体制を充実する目的で計画された。
免震構造を採用し、奈良県の風土に根差したデザインと自然環境を取り入れた地域にふさわしい療養環境づくりや離床促進のための様々な工夫が盛り込まれている。これまでとは異なるアプローチによる説得力を持ったデザインが、医療環境の新しい表現方法を感じさせる。患者のアメニティーやスタッフのモチベーション向上に繋がる工夫は、これまでのプロジェクトにおいても、採用可能なレベルと感じられることが反面複雑な驚きともいえる。
デザイン面では印象的なモノトーンに竹の緑をアクセントに加えたデザインは、奈良県であることや市民の意識からも好まれる結果であった。外来では、共用空間に対し、コーナー部分に大きな円形の面取りを用いることで、空間の連続性とともに広がりを感じさせる。人の動線に白く浮雲の流れるような天井を用いたことも相乗の効果を感じる。病棟階は患者が自然を感じることをテーマに外部との連続性が効果的に設定され、季節や時間の変化を感じることができる。デイルーム以外にわずかな面積を割いて設けた談話コーナーの存在が印象的である。
外観には伝統建築の表情を感じさせる陰影の強い庇とPC版の組み合わせにより、地域性との調和を持つ表現としている。その中に外観のスケルトンインフィルという可変性とデザインの永続性を担保するコンセプトを付加したことが新しい。
審査会でも全員の支持があり、当社における病院設計の先入観による限界を超え、新たな可能性を気付かせるものとして、示唆に富んだ建築の創造を評価した。
受賞者コメント
生駒市の医療の中核として、クライアントの医療に対する高い志と思いを形にし、最適化した形で実現することを目指しました。外とつながる空間づくりをテーマとして、相反する高密度・高効率な病院計画と患者本位の空間を融合させ、利用する人たちのモチベーションを高める場づくりをしました。患者が安心して日々を過ごし、早期の退院を迎えることができれば、というのがチームの思いです。
実績ライブラリ
ランドスケープ賞
印西市立牧の原小学校
印西市牧の原地域交流センター
印西市立学童クラブ
講評
千葉ニュータウン21住区の新たな街の中心に、病院とともに設けられた最初の公共施設であり、地域コミュニティの核となり、戸建て住宅誘致の推進に効果が期待される。小学校施設に加え、地域交流センター・学童クラブを併設し、大きな庇を用いた交流広場がこれらをシンボリックに繋ぎとめている。
街の成長とともに児童数の変化に応じた教室設定が求められ、短期間と想定される児童数のピーク時期に対応する不足分の5教室を仮設対応で提案することにより、建設費の調整や豊かな学校空間の創造に向けている。稼働しながら成長を見込む地域開放も、69名(H27.11.1時点)の児童とともに開発の初期から段階的に対応できるプランが計画されている。
学校のすべてを学びの場と位置づけ、ラーニングセンターを中心に置いた構成は近年の傾向を踏まえたものとなっている。教室ゾーンに設けた学年ハウスは成長に合わせた3種類の利用形態を提案している。異学年交流のラーニングセンターとともに、様々な学習の機会を生み出す想定が平面計画上の特徴といえる。また快適な学習環境のため、深い庇を用いた日射制御と雨天でも可能な窓による自然通風、季節に応じた卓越風を利用した教室ごとに設けた風の塔など、単純な仕組みと簡単な操作で活用できる手法を用いたエコスクールとなっている。
ここに集う児童や地域住民は、この場所に適した環境統合技術を意識せずに、昔からの生活に根差した光や風のコントロールを行いながら、自然との共生を体験する。エコスクールのシンボルと位置付けられる庇による効果は、デザイン上も建物をヒューマンスケールに、かつ内外空間の一体感を生む。十分な広さを持った校地を生かし、伸びやかに周辺の景観との一体化が図られた計画に対しランドスケープ賞として評価した。
受賞者コメント
新生する街に最初にできる公共施設として、街の魅力を高め、地域コミュニティの拠点となる場を目指しました。3つの施設に架渡した屋根によって生み出される交流広場が、児童や地域住民の多様な活動や交流を誘発し、施設を背景とした賑わいが新たな街の「いつもある風景」となるよう計画しています。街の成長に合わせて施設も変化、成熟し、共に歩んでいくような関係性がつくられることを願っています。
実績ライブラリ
インテリア賞
土岐市立濃南小学校
講評
自然豊かな山間にある既存中学校の敷地に、2つの小学校を統合して増築するプロジェクトである。一体となる中学校との連携や地域のシンボルとなっている時計台、慣れ親しんだ中学校舎の外観や校地内を流れる一級河川肥田川など、地域の記憶の継承と新たな景観づくりがテーマとなるプロジェクトであった。
校庭側の前面道路から見ると既存校舎に重なるように配置された新校舎は、高さを抑え中央の昇降口部分の屋根を分離することにより、既存の時計台を景観に残している。中学校舎と肥田川をはさみ中庭とする構成により、体育館を共用する連携スタイルであり、豊かな自然に包まれた環境をそれぞれの空間に残しながら一体感を持たせている。
新校舎は主体を木造とし、機能の異なる2棟それぞれの空間設定にふさわしい木架構をデザインしている。校舎棟は明解な片廊下式であるが明るい南東面にはワークスペースを配し、トップライトからの光が共用部とともに教室内にも届けられている。一列に配された教室まわりの構成は、小さな校舎であるが2階テラスを挟み一体となるワークスペースの連続により、児童が生きいきと集うことが想像される伸びやかな空間を生み出した。多目的棟は多様な機能を持たせることにより、日常から集会まで使い倒す身近な存在であるが、丸太の列柱に架けた交差張弦梁が象徴的な内部空間は、新たなシンボルとしての存在感を持つ。
小規模の校舎計画であるが、プロジェクトの特性を生かして全面的に採用した木構造は、特に露出した小屋組みの部分で木材の組み方を工夫したオリジナルデザインとなっている。自然環境を生かしたエコスクールの設定もデザインに組込まれ、高度な計画技術の中に優しさと温もりを感じさせるデザイン技術に対しインテリア賞として評価した。
受賞者コメント
石本は構造・環境スタッフもいる総合事務所です。今回は木構造をデザインの主役にする事、それに相応しい照明計画とする事、また木造は設備機器・配線配管等収まりが非常に難しい事から、総合事務所の特性を生かし、いつにも増して蜜に打合と試行錯誤を重ねました。木造設計は特に分野間の調整が欠かせないことを担当者全員が理解し、力を合わせてコラボレーションの理想を示した事が、質の高いデザインを生み出したと考えています。
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インテリア賞
江戸川区立船堀小学校
講評
住宅街にあって近隣住民への影響を最小限化することが求められた学校の計画は、開放的な空間を求める教育環境に対し厳しい制約となっている。校庭が広がる南側やグリーンロードを持つ緑豊かな東側以外は、徹底して視線のブロックと騒音対策に配慮する計画となっている。
4層に積み上がった校舎は、中庭を設けたスタンダードな平面構成である。校庭に面し一列に並べた教室は、3層に重ねた単調な構成であるが、彫の深いバルコニーのグリッドフレームとともに2階低学年教室にアルコーブのボックスを組みこむことで、単調になりがちなファサードに変化を与え表情の個性化が図られた。
学校の中心となるラーニングセンターや廊下等の共用空間は、近隣対策により内向きに配置しているが、空中に飛び出す「コーナー」を持つ2つの中庭を挿入することで、開放感と視線のつながりで校内活動の高揚感を共有する空間となっている。児童は多様な視覚的交流や自然や時間の移ろいを感じることが出来る。
様々な位置に配した「コーナー」や大胆な階段状の絵本コーナーなど多様な機能性を発揮するアイデアが、学校側の理解も進み使いこなし始めているように感じられた。近隣対策により外に閉じた計画であっても、明るく生きいきとした開放的な校内環境が実現できたことを評価してインテリア賞とした。
受賞者コメント
ひとりで居てもみんなで居ても居心地の良い学校にするためにどのような工夫ができるか、ということを、関係者みんなで考えました。
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グラフィック賞
相模女子大学新5号館
講評
市街地におけるキャンパス内で移転新築する5号館は、栄養科学部の実験実習・調理研究用の教室を中心に構成される。経年による建替え等の再整備は今後も継続するため、当該施設では、将来の用途変更にも対応できる柔軟性を持った空間づくりが求められた。
住宅に近接した立地環境なども勘案し、工事騒音配慮・工期短縮も含め建物内のフレキシビリティーを実現する空間性能を確保するために、プレキャストプレストレストコンクリート構造を採用している。桁行き方向の耐震壁は市松状配置により単体での効果とともに全体でのブレース効果を見出した。梁間方向は妻側両端部の耐震壁に集約し、アウトフレーム化した柱配置により長さ60m、奥行12mの無柱空間を実現している。
徹底したフレキシビリティーの追求はメカニカルバルコニーへの自由なダクトルート確保のためのT型床板の間や二重床構造、エネルギー供給エリアの細分化、分電盤やPSの予備スペースの想定を行い、改修工事はフロア内だけの工事で完結できる計画となっている。
工業製品化に徹した構造に対し、現在のサッシュなどの建築部品は、ダブルシール対応や欠き込みの無い躯体との納まりも進んでおり、工場にてシンプルで同じ形状を繰り返し製作するだけの躯体製作が可能となった。精度の高いPC躯体を利用し仕上工事を減らしたデザインは、将来の用途や領域変更時にも容易に改修できる。PCを用い徹底した合理性の追求が建築デザインを決定づける要素となっており、グラフィックな躯体とともに周辺建築材料の追従が叶い、新たなインダストリアルデザインの道を開いている。
受賞者コメント
顧客からの要望である「100年使える教育空間」を旗印のもと、意匠・構造・電気・機械が一丸となって取り組んできたプロジェクトです。相模女子大学管財課、栄養科学部の皆様との綿密なコミュニケーション、大成建設工事チームとのチームワークなくして、この受賞はなかったと思います。これからの100年、時代のニーズに応じて、柔軟な対応をし続ける教育施設として、永く使用し続けられていくことを願っています。
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特別賞
2015年ミラノ国際博覧会日本館
講評
イタリアに拠点を持った当社ならではの力が発揮されたプロジェクトである。日本を建築として表現するために、建築プロデューサーのディレクションのもと、設計・監理を行った。ミラノ博のテーマである「食」に対し、日本の食材が生まれる気候・風土・文化に注目し、里山と里海に養分を供給する豊かな水源森林の健康を保つために切り出した木材の活用・古(いにしえ)の知恵を現代に活かす技術をアピールしている。
パビリオンの外観を構成する立体木格子は、現地の法規制や万博規則などから本体の構造としてではなく、自立する外壁として成立させている。この立体木格子が現代が求めるエコロジカルなデザインと日本の持つ文化・技術の融合を感じさせる印象的なたたずまいを作っている。屋内外に連続する展示のルートは、立体的に浮遊感を持つデザインで演出されており、施設を包み込む立体木格子の演出とともにイタリアではデザインの美しさが高く評価された。
140もの参加国の中でもデザイン面での高い評価により、日本国内はもとよりイタリア国内では多くの雑誌・専門誌に取り上げられている。その実績を評価して特別賞とした。なお、日本館は展示デザイン部門で金賞を受賞している。
受賞者コメント
テーマが「食」、開催地が「ミラノ」の万博ということで、ぜひ取り組みたいプロジェクトでした。プロポーザルで当選でき、良かったと思います。その後設計、監理、そして会期中と、様々なハードルがあり、ナショナルプロジェクトの責任の重さを痛感しました。日伊のチーム全員が「美意識」と「心意気」を持って取り組み、結果的には世界各国の多くの人に日本館を体験していただけたことは、チーム一同、うれしい限りです。
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