- 講評
- 2024年度の技術奨励賞には自治体庁舎3件が2次審査対象に選ばれた。施設老朽化や自治体再編に伴う移転立替えなど背景は様々であるが、いずれも作品の内容は時代性を反映しているものであった。庁舎に求められる役割に画一的な答えはなく、設計者としてどのようなことが提案できるのか、多様性が求められる現代を表すように設計提案内容も三者三様であった。
八潮市では旧庁舎の老朽化、狭隘化、耐震性などが建て替えの背景となっている。2019年に行われたプロポーザルで求められたテーマの1つは「シビックセンター形成に向けた場の創出」というもので、石本が提示した軽やかなイメージパースでは市民が集う広場と新庁舎や文化センターをつなぐ大胆な空中歩廊がめぐらされたランドスケープが印象的で、かつ求められたテーマに対する回答となっていた。今回完成した新庁舎はプロポーザルの提案内容から外れることなくより進化(深化)した形で実現されており、提案時点での先見性を感じることができるものであった。
道路や歩行空間に囲まれた敷地のため建物の周りはぐるりと一周でき、ファサードに明確な表裏や方向性を作らないという意図が感じられる。外観は重厚感のある基壇部分と軽快な上部ボリュームで構成されていて対比的なマテリアルやピロティにより全体のボリューム感を軽減し親しみやすい表情を作り出している。
建物の顔となる場所は外部から直接アクセスできる2階の中央部分で、サークル広場と呼ばれる中庭空間が設けられており、それを取り囲む上層階のファサードは透明感のある表情でところどころに市民活動スペースが配置されていて外観に変化を与えている。八潮市は都心のベッドタウンとして自然も感じられる街で多世代、多様な人々が暮らしている。ここで行われる市民活動が将来の街づくりや人づくりにつながっていく、八潮市のシンボルとなる市民のための空間が実現されている。1階は市民が日常的に利用する窓口と保健センターが配置されていて外観は開口部も少なく、周辺河川の氾濫時にはRCの堅牢さと水密性で建物全体を守る基壇としての役割を担う。内部は重厚な印象があり、RCの磨き床や木質仕上げされた格子梁がさらにその印象を強める。2階からは一転して明るく間仕切りが少なく開放的である。中庭側に市民活動スペースが配置されており、市民と行政が一体となって活動することができる。議場は最上階に配置されており、内部はトップライトから壁面をなでる自然光が議場全体に軽やかでありながら厳粛さを演出している。
構造は基礎免震、1階基壇部はRC、2階以上が鉄骨造のハイブリッド方式が採用されていて、耐震要素の合理化やピロティの軽快感を生み出す柱のプロポーションなど平面断面計画との整合性が追及されていることを感じられた。環境計画は地中熱利用、自然通風、クールチューブ、太陽光発電などが盛り込まれZEB Readyの認証取得と環境省の補助事業に採択された。執務室の天井はスケルトン天井となっており、梁と輻射冷暖房パネルやアンビエント照明などが美しく心地よい内部空間のデザインに大きく寄与している。
現在旧庁舎の解体、中央公園の再編設計が行われている。市民が集う広場を中心に新庁舎や文化施設や中央公園が園路(シビックサークル)によって結ばれ一体になって市民が活動し交流する新しい風景を見るのが楽しみである。
都市スケールの大きな視座から導かれる設計コンセプト、意匠構造環境デザインの統合された平面・断面構成と表層の設え、開放的で心地よく洗練された内部空間のデザインと細やかな建築ディテール、空間とグラフィックがわかりやすく重層されたサインデザイン、周辺施設をつなげるランドスケープとの調和など、大変よく考え抜かれた設計内容となっており最優秀作品にふさわしい完成度が高く評価された。
- 受賞者コメント
- 八潮市は、都心から20キロメートルという好立地でありながら、川に囲われ豊かな自然環境が残るまちです。計画地は、八潮駅から北に1.5kmほどの場所に位置しており、既存庁舎の建て替えを期に、隣接する中央公園や市民文化会館との一体整備によるシビックセンターを形成し、新たな賑わい拠点を生むことがテーマでした。隣接施設との連携という最大の課題に対し、各施設をシームレスに結ぶ園路と、市民文化会館と対になる野外劇場のような中庭(サークル広場)を提案しました。市庁舎は市民の誰もが一度は足を運ぶ場所です。新庁舎の市民活動スペースからシビックセンターへ活動が波及すると同時に、サークル広場が八潮市の新たなシンボルとなり、市への愛着がより一層高まることを期待しています。